一命はとりとめた。
できる限りのことはした。
頑丈な人だし、処置が正しければ回復は早いはずだ。
けが人の手当をしながら、疑問について考えていた。
ヨンアは流れ矢で死んだ。
噂を聞いたとき、わたしはそのときキ・チョルに見つからないよう、ジスと一緒に身を隠していた。護衛ともはぐれてしまった。
都に戻るのも危険だと感じて天門に向かったんだ。
ヨンアは生きていた。
ちゃんと、生きていた。
薬を煎じながら、布まきながら。涙があふれて止まらなかった。
「医仙様、大将軍(テジャングン)がお気づきになられました」
あわてて天幕に向かうと、うつろに目を開けた人がわたしをみつめてこう言った。
「イムジャ。なにゆえ、ここに」
胸がいっぱいになるって、このことだわ。
手を握りしめて、わたしはつぶやいた。
「ジスアッパ。勝手に死ぬなんて許さない」
ヨンアは顔をしかめた。笑ったのかも。
そのまま、またヨンアは眠った。
眠るごとに良くなるはず。そうしたら、たくさん話ができる。
 
「おい」
呼ばれて顔を上げると、冑をかぶった人がいた。
チェ・ヨンだ。
「そんなカッコして」
「テジャングン、テジャングンと、やかましいからだ」
チェ・ヨンにしてみたら、わけがわからないだろうし、確かにあなたのことだって言っても、信じられないだろう。
ため息交じりに、彼はたずねた。
「……ここは、どこだ」
「あの川が錦江(クムガン)。詳しい場所はわからない」
戦いは終わったわけじゃない。
敵は川をさかのぼって山中に逃げたらしい。
「倭寇が相手か。戦い方を知ってるのか?」
赤月隊として倭寇と戦ってきたヨンアは、攻め方を熟知してるハズ。
でも今は動けない。無理に出陣すれば、本当に命を落としかねない。
「助けてください、チェ・ヨンさん」
さっきもらった蒸かし芋を、差し出す。
「ごめんだ」
「夢でも国のために働けるのよ、チェ・ヨンさん。この旗を見てよ。高麗、あなたの国なのよ」
「時も場所も定かでない。王命も拝していない」
時を教えたら、絶句してた。
まだ来ぬ、未来だものね。
この人の未来とは違うだろうし……。
でも助けてもらわないと。うちのヨンアのためにも。
「芋一つではわりにあわぬ」
芋十個。ダメ。
芋二十個。ダメなの?
じゃあ、あなたがケガをしたら治してあげる。
わたしにできるのは、それくらいだ。
つまらなそうな顔で、チェ・ヨンは芋を眺めた。
皮をむけって。
何様なの、このチェ・ヨンは。
口に突っ込んでやろうかしら。