桜咲く

「だいすけさん・・・

背広着てきて良かったですね」

 

「ああ・・晩餐会に出るなんて

思ってもみなかった・・・」

 

 

 

 

会場に入る前に

大輔は、京介のネクタイを正面から見据え

手直しをした。

 

 

「我儘言ってすみません・・

義父に挨拶だけしたいんです」

 

「この前ここで・・・

お父上と何を話したんですか?」

 

 

 

 

 

「・・!・・・」

 

京介は、大輔の質問に

その瞳を大きく見開いた・・・

 

 

「・・・・覚えていません」

 

考えた末の答えだった。

 

 

 

 

 

「・・・記憶を失くす前の話ですよ」

 

 

「・・・・・そうですよね・・」

 

間近で見つめる大輔の瞳に

少し困った京介は、

その瞳をずらした。

 

この屋敷で大旦那と対面した時、

京介は動揺を隠せなかった。

 

あの時の心を見透かす

義父の鋭さに

京介は、

その身を強張らせた記憶だけが蘇った。

 

 

 

 

瞳を伏せた京介に

大輔は

ハッとした・・・

 

 

 

少しづつ心を許していた京介の心を

一気に閉ざさせたのは

この自分だ・・・

 

 

 

 

 

愚問だと誤魔化す様に

京介に素早く口づけた。

 

 

 

 

京介は、

驚きの眼を

更に大きく見開いた。

 

 

「すまない・・・変な質問だった・・・」

 

 

 

大輔は

ネクタイの結び目を直し、

京介の両肩をポンと叩き

 

「それじゃ入ろうか・・」

 

っと、笑顔で促した。

 

「はい・・」

 

京介の穏やかな瞳は

大輔を安堵させた。

 

 

 

 

 

会場は立食のようで

人々が思い思いに懇親を深めていた。

 

 

大輔と京介が連れ立って会場に入ると

大勢の人たちの瞳は一斉に二人に注がれた。

 

 

「きゃ~大輔さまだわ」

「ええ!?嘘でしょう!!」

 

 

女性たちからどよめきが上がった。

 

人々の騒めきをよそに

京介は、会場の中を

すばやく見渡した。

 

大旦那の姿はすぐ瞳に飛び込んで来た。

 

 

「だいすけさん!義父が居ました

ちょっと行ってきます」

 

細身の身体に

しっとりと纏う背広のサイドベンツを翻し

流れる舞いの如く

大輔から離れた・・・

 

 

「京介さん・・・・・しっかり」

 

 

 

 

大旦那と、向き合う事が

きっと京介を更に成長させるだろうと

大輔は、思った。

 

 

 

 

「お義父さん・・・」

 

 

 

来賓と話をしていた大旦那は

その声にハッとして

目線を向けてきた。

 

 

「京介・・・来てたのか?」

 

 

隣で話していた男は

京介の姿に

 

「あ、あ、あ、きょ、きょ、京介さん!?」

 

 

優美にその相手に

軽く会釈をした京介に

 

 

「あ、握手してください!!!

藤娘!観ましたよ!!

見事だった!!」

 

 

「・・・そうですか・・・

ありがとうございます」

 

にっこりと微笑むと

その男は、腰を抜かしそうに

 

「また、舞台があったら

必ず行きます!!

頑張ってください!!では!!」

 

 

男は、慌てて、大旦那と京介から離れて行った。

 

 

 

 

 

「・・・元気だったか」

 

 

「はい・・・・あの節はご迷惑をお掛けしました・・・」

 

 

「もう、大丈夫なのか」

 

「はい、全て思い出しました」

 

 

 

「そうか・・・」

 

 

「あ、お義父さん・・・

初舞台にお花を・・」

 

 

 

「あ、気にすることはない」

 

 

「僕の舞い・・・観てくれたんですか?」

 

 

「いや、・・・」

 

その答えが嘘だと分かっても

それ以上問う事はしなかった。

 

「そうですか・・・・」

 

 

 

母亡き後、

言葉少なく

過ごした頃を思い出した。

 

互いに不器用な人間で

京介は

義父にどう接していいか分からなかった・・・

 

 

そんな息子を持て余す義父は

違う感情で

自分を振り向かせる事を考えたのか・・

 

 

感情を表す事の下手だった二人。

 

 

 

 

振り返れば

何故か滑稽だと笑えた。

 

 

 

 

「京介・・・何笑ってるんだ?」

 

 

「えっ?」

 

思わず自分の頬を手で押さえた。

 

 

 

 

 

「・・・6月に圭が生まれた。」

 

 

「えっ?」

 

 

「お前の弟だ。」

 

 

「けい?・・・」

 

 

大旦那は、京介の左手を取り

その手のひらに指で「圭」と書いた。

 

 

「圭・・・そうですか・・弟ですか」

 

 

いつまでもその手を放さない大旦那に視線を向けると

 

 

「この指輪・・・・あの男と永遠を誓ったのか・・・」

 

 

「あ、はい・・・・」

 

 

 

「佐伯に持たせた写真・・・

良く写っていた」

 

 

 

 

「・・・・・・・」

 

 

 

 

「そんなに睨むな~

息子の手ぐらい握ってもいいだろう」

 

 

 

「!!?」

 

 

そこには、

大旦那の視線の先に大輔の姿があった。

 

 

「こんばんは・・・・

睨んだ覚えはありません。

でも、その手はもう放してください」

 

 

 

「だいすけさん・・・」

 

 

「やれやれ~お前の想い人は

相変わらずだな~」

 

 

 

 

心配そうな表情の大輔に

 

「大丈夫です・・・・」

 

っと伝えると

大輔は、京介の背に腕を回した。

 

「それじゃ行こうか・・」

 

 

 

「はい・・・では、お義父さん

お元気で・・・」

 

 

「たまには顔を出しなさい」

 

 

「はい」

 

大輔は

笑顔で答えた京介に

二人の関係が

変わりつつある事を感じた。

 

 

 

 

 

「弟が生まれたそうです。

圭っていうんですよ」

 

 

「へぇ~あの奥様にね

京介さんの弟か・・・

今度会いに行こう」

 

 

 

「そうですね」

 

 

 

 

 

MarettiがぁるCoral

 

 

 

「あ、あの・・大輔さん~ご一緒に踊ってくれませんか?」

 

 

 

めかしたご婦人達が

頬を赤らめやって来た。

 

 

「ちょっと抜け駆けずるい!

あ、京介さん~私と踊っていただけませんか?」

 

 

「次、わたし!!」

「私も!!」

 

大勢の女性たちが我先にと

二人に押し寄せた。

 

 

会場には

いつのまにか

ワルツの曲が流れていた。

 

 

「あ、だいすけさん・・・・」

 

 

京介の戸惑いに

クスリと笑うと

大輔は、皆に聞こえるように

 

「今日は連れが居るので

申し訳ない・・・」

 

そう告げると

京介の手を取り中央に進んだ。

 

 

「だいすけさん、何を・・」

 

 

「今宵の私の相手は

貴方しかいません。

どうぞお相手を・・」

 

大輔は

優美に礼をした。

 

「え?だいすけさん?」

 

 

すっとその腕を取り

背に腕を回した。

 

 

 

その耳元に

囁くように

 

「社交ダンスは得意ですか?」

 

っと、聞いた。

 

「はい・・・でも!・・・」

 

 

「大丈夫、しっかりリードしますので」

 

周りが一瞬にして、

固唾を飲みこんだ

 

 

その美しいステップで

素敵なダンスを披露すると

周りから歓声が上がった。

 

 

 

 

 

あちこちで悲鳴や

ため息が漏れた。

 

 

 

「だいすけさん・・恥ずかしいです・・・」

 

 

「大丈夫~その調子~

さすが華草流だね」

 

 

「からかわないでください!」

 

 

 

 

 

大輔は、人々の視線をものともせず

京介をしっかりと

自分に密着させ

その軽やかなステップさばきで

皆を圧倒した。

 

 

 

 

会場の入り口まで行くと

クルリと京介を回し二人は同時に会釈をすると

そのドアから出て行った。

 

 

 

 

 

 

中では、割れんばかりの拍手喝采が起きていた。

 

 

 

大輔は、

京介の手を取り

廊下を駆け出した。

 

 

「だいすけさん!!」

 

 

「ははは~みんなの顔~

キツネにつままれていた」

 

 

京介は頬を赤らめ

鼓動がいつにも増して

早かった。

 

 

 

 

 

 

二人は、

庭を抜け大輔の家へと向かった。

 

 

 

 

 

 

縁側にたどり着くと

その上がった息を整えるように

二人はしばらく言葉も出なかった。

 

 

 

 

 

 

「おや~お二人とも~

どうしたんですか?」

 

 

ヨシが驚いた顔で現れた。

 

 

 

 

「宴会から抜け出してきた」

 

 

 

「おや、そうですか~

ぼっちゃんは、あまり好きじゃないですからね」

 

 

 

 

「・・・・?」

 

京介は、

遠くで微かに聞こえる音に

耳を傾けた。

 

 

 

「京介さん~ここの秋祭りですよ」

 

 

 

 

「秋祭り?」

 

 

 

 

 

「お、そうか~お祭りをやってるのか

京介さん~出掛けてこないか」

 

「お祭り?」

 

 

「そう、俺が小さい時に描いた、あの絵の神社でやってる」

 

 

「はい!!」

 

 

「お二人さん~

浴衣用意しますね~ちょっと待っててくださいな」

 

 

そう言うと

重そうな身体をひょいと動かし

奥から二人用の浴衣を持参した。

 

「これに着替えて

お祭り~楽しんできてください」

 

京介の瞳は

キラキラと輝き

嬉しそうな顔は、

あの記憶の無かった京介と重なった・・・

 

 

 

つづく・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

備考欄

 

 

「ちょっと、本当に今日、

この晩餐会に大輔さんと京介さんが来るの?」

 

「はい、確かです。私の調査ですと

大輔さんは庭師を休み

カフェには京介さんもいらっしゃらない・・・」

 

「ふむ~」

 

「いつも居る滝口氏に尋ねると

実家に帰ってるとのこと・・・」

 

「なるほど~じゃ、私たちが京汰さんの稽古を休んで来た事は

無駄にならないってことよね~」

 

「っと・・・・思いますが・・・」

 

「く、くるしい・・・・このドレス、縮んだのかしら・・・

お腹のあたりがきついのよ~」

「きゃ~楽しみ~♪」

「まだかしら~♪」

「ドキドキ・・・」

「(;´・ω・)・・・・」

 

 

そこに現れた大輔と京介~

その姿によろめき隊貴腐人たちは

その目をぎらつかせた・・・・

 

 

この後、

二人の見事なまでのダンスを目の当たりにし

数名がその場で倒れ、

数名が鼻血を出し

数名が介抱させられた・・・・・

 

 

ちゃんちゃん♪

 

 

 

おまけ

 

よろめき隊偵察班~カフェ近くの電柱の影から京介と目が合う。

 

 

 

おまけのおまけ

 

 

「史郎さん~行ってらっしゃい」

「京汰・・・・」

やはり夢だった・・・・

 

 

みなさま~こんにちは~

 

ぺこ <(_ _)>

 

 

ちょっと乱雑ですが、お届けします。

これを書いた後、急にめまいに襲われ、

解説は、控えます。

 

大丈夫です~耳鳴りから来るめまいのようです。

ちょっと音楽聴き過ぎたかなぁ~

 

これから仕事に行かなければなりません。

 

 

では、皆様もくれぐれもお気をつけて・・・・

 

素敵な一日をお送りください。

 

 

 

マタネッ(*^-゜)/~Bye♪