桜咲く

~想い人 身を焦がす 春の宵~








京介は
遠方から帰宅する大輔を
今か今かと待ちわびていた。









頬を染め
心の動悸を抑えながら
いまだ大輔に慣れない
気恥ずかしを感じた。











「お帰りなさい。
疲れたでしょう~
先にお風呂に入ってください」









「京介さん~ただいま~
留守の間、変わったことはなかったですか?」







いつもの笑顔は
京介を蕩けさせる。





「はい。何もありません
内藤さんもお疲れ様です~」


「京介さん~疲れた~」



大輔の手から道具袋を受け取り
その腕を取って二人を
下宿の茶の間へと誘った。




「大輔さん~お帰り~
ご苦労だったね~
内藤さんも・・・」


フミや滝口が二人を迎え入れた。



「はい~もうお腹ペコペコっす
何か食べさせてください」




「お前~良馬さんのところに帰らなくていいのか?」





「はい!今、こっちに来るっす。
やっぱり、京介さんの手料理が食べたいっす」





「タケさんが聞いたら嘆くぞ」



「大丈夫っす。食費が浮くって喜んでるので」





京介は
大輔の着替えを持って
部屋から降りてきた。






なにやら真剣に手紙を読んでいる大輔の横で
心配気に見上げた。




「だいすけさん?」






「内藤~明日、また出掛ける」





「えっ?」


皆がびっくりして大輔を見つめた。


「おいおい、今帰ってきたばかりじゃないか」



滝口が皆の代わりに問うと



「以前行った寺の桜が
誤って枝を切り落として
枯れかかってるらしい・・・
あれだけ、切るなと言ったのに・・・」


「大さん~あの老木っすね」





「ああ~明日、屋敷の庭の手入れが終わったら
夜にも出掛ける。
支度してくれ」





「大さん~了解っす」






「また、出掛けるんですか?」


京介の表情は、一瞬にして曇ってしまった。





「ああ~樹齢何百年もの老木だが
見事な枝垂桜なんだ。
切った枝をそのまま放置し
腐りだしたのだろう~
早く手を打たなければ枯れてしまう」






「そうですか・・・・」



フミも滝口も内藤も
京介の表情に言葉を掛けられなかった。






それから、京介は一言も大輔と言葉を交わすことなく
ただ黙って皆の会話を聞くだけだった。







家事の後片付けがあると京介に言われ
大輔は、一人床に就いた。






浮かぶ京介の表情からは
感情を読み取ることが出来ず
平然のように見えた。






大輔は
うとうとしながら
久しぶりの想い人のぬくもりを求めた。



~今回も急で太助の世話にもなれなかった・・・




京介の寂しさを考えると
側に眠ってる「空」と「クマ」に



「京介さんは、留守中~どうだった?」



返事がないのを分かりながらも
聞いてみた。



トントントンっと階段を駆け上がる音に
大輔は
慌てて布団の中で狸寝入りをした。





そっと戸が開き
京介の素足の静かな足音に
大輔は、
瞼に浮かぶ想い人の姿に
抱きしめたい気持ちを抑えた。






京介は
濡れ髪を手拭いで乾かしながら
「空」と「クマ」の側に座り
その顔を覗き込んでいるようだ。




「だいすけさん・・・また出掛けるんですって・・・」


独り言のように
ポツリのつぶやいた声に
やはり寂しさを感じた。




更に
大きなため息をついた。



「仕方ないよね・・・お仕事なんだから・・・」



長い時間
座り込んだまま
京介は動こうとしなかった。







大輔は
心の中で何度も詫びた。



~すまない・・・京介さん・・・~


やっと立ち上がると
大輔の横に立ち
こちらを見つめているようだ・・・




大輔が堪らず目を開けようとした時
また、大きなため息が漏れた。



大輔は、そのまま眠ったふりを続けた。






静かに布団の中に
冷たくなった身体を滑り込ませてきた。






石鹸の香りと櫻の香りが
大輔の鼻先を掠めた。






大輔が
じっとしていると
遠慮がちにその肩口に額を当てて
両の手をそっと腕に添えてきた。




「はぁ・・・」




何度目かの大きなため息は
京介の失望のように感じた。




少しづつ
その身体を寄せ
肩に頭を乗せ
その身体を密着させてきた。




~京介さん・・・~






京介のぬくもりを感じていた大輔は
肩が濡れるものにハッとし
その身を起こしてしまった。



「京介さん?!」




京介は突然のことに
自らの顔を両の手で覆って隠した。



「京介さん・・・泣いてるの?」




「泣いてません・・・」


「顔・・見せて?」


「嫌です!」



「京介さん・・・・」


暗闇に慣れた目が
京介のその手が小刻みに震えるのを見逃さなかった。


「すまない・・京介さん・・」



「泣いていません!」



頑固にその手で
顔を隠し拒む京介を
大輔は思いっきり抱きしめた。





「本当にすまない・・・淋しい思いばかりさせて・・・」



「泣いてないです!!うっ、うっ」


嗚咽が漏れ
京介の感情が溢れ出るのを
大輔は優しくその背を撫でた。




「ずっと待っていてくれたんでしょ?
それなのに・・・すまない」




「・・・・・」


「・・・・・・京介さん何でも思った事を言ってくれ・・・」


「仕事ですから・・僕の事は、気にせず
出掛けてください」


「京介さん」



「・・・・・自分が嫌なんです・・・」



「・・・・・・」



「仕事だと割り切っているのに
だいすけさんを
見送るのが・・・辛いんです
わがままなんです・・・聞き流してください」


以前だと
何度問いても素直な気持ちは
語らなかっただろう。





今は、感情を思うままに
話すことが出来る京介が
可愛いと思った。




「京介さん・・・聞いてください」


大輔は
京介を抱き起し
その胸に抱き締めた。



「何度も出掛けていたのには
理由があるんです」






「わけ?」


涙目の京介は
やっとその手を外し
大輔を見つめた。





やはり泣いていたじゃないか・・・
そう言いそうになるのを
大輔は、心に止め
京介のおでこに自らのおでこを合わせた。






「各地に出向きながら
その土地に住む庭師に指導し
俺の仕事を託していたんだ」




「だいすけさんが?」





「そう~やっとお得意様の庭を手掛けられる庭師が
少しづつ増えてきたんだ。
だから、徐々に
俺が出掛けなくてもいいようになる」



「それって、だいすけさんが親方さんってことですか?」


「京介さん~まだそこまでは・・・」


「凄いです!いつのまにだいすけさんが
親方さんに・・・」


涙目をキラキラさせながら
京介は嬉しそうに大輔の瞳を見つめた。


「ははは~京介さんは、気が早い・・・
・・・もう少しの辛抱だ・・
待っていてくれないか・・」


「はい!だいすけさん」


思い切り大輔は
京介を抱き締めた。




大輔は
各地を巡り
庭師としての技術を惜しみなく
現地の職人に教えて回った。




その地道な働きが
この後、日本を代表とする庭師として
大輔の名を轟かせることになる。






京介は、
愛する人が
大きく成長を遂げる姿を
目の当たりにするのは
もう少し後の話だった。









「京介さん~今日も珈琲が美味しい」



「そうですか?」


二コリと微笑む京介に
「愛してる」っと目で伝えた。


「駄目ですよ」~っと目で伝える京介に
大輔は時の流れを感じた。




その晩
内藤と大輔は、皆から見送られていた。







~美しき かの君送る 春の宵~








艶めく色香を
漂わせ
京介は大輔の耳元で告げた。




「早く帰ってきてくださいね」




その指が
大輔の腕を捉え
少しだけ力を込めた京介の瞳の色に


「ああ~すぐ帰ってくる・・・
待っていてくれ」



想い人の櫻の香りが
大輔の心を捉えて離さない。


「だいすけさん?」


「あ、いや、行ってくる」


手を振り出掛ける二人を見送り
側に居た良馬は




「また寂しくなる・・・」


っと、ポツリとつぶやく言葉に
ハッとして見やった。



寂しい思いをしてるのは自分だけじゃない・・・
そう思うと京介は


「良馬さん!内藤さんは、
もう少しで出掛けることがなくなりますよ」


「何を根拠に・・・」


目を細め
訝し気の瞳の良馬に




「大丈夫です。だいすけさんがそう言ったので間違いないです」



京介の大丈夫という言葉は
やはりあてにはならなかった。
大輔や内藤が忙しく日本中を飛び回ることは
これからも続いた。





桜咲く桜咲く


それから数年
櫻が満開の季節の春の宵
いつものようにその笑顔を京介に向け
帰路に就いた大輔だった。



「京介!!」





こちらに気が付くと
大きく手を振り
駆け寄ってきた



「だいすけさん~おかえりなさい~
疲れたでしょう」



「いや、大丈夫だ~それより
何か変わったことはなかったか?」


「いえ、・・・あ、太~ちゃんが来てくれてます」



「そうか~良かったな」

「あ、そうそう、太~ちゃんの事
『太助』って呼ばないと怒られますよ」


「ん?どうしてだ?」


「子ども扱いが嫌だって・・・」



「なるほどね~少しは大人になったのか?」



「まだ10歳ですよ~」




クスリと笑う京介の
いつまでも変わらない姿に
大輔は思わず肩を抱き締めた。



二人で歩く道には
綺麗な櫻が咲き乱れていた。








おしまい~

みなさま~こんにちは~

ぺこ <(_ _)>

全くの未完でございます。なかなかちゃんと書けなくて・・・
帰ってきてから直します。ごめんなさい~

豆丸の話じゃなくてさらにごめんなさい。
夢うつつに浮かんだシーンをお話にしました。
その浮かんだシーンは、大輔の肩に頭を乗せて涙する京介~

いかがでしたか?
今回は、春の季語「春の宵」と題して書かせてもらいました。
互いに思う夕刻の送り向かいのシーン~
寂しさや嬉しさがいつもその時間に二人を包むのでした。



わが町よ 春は遠し 雪景色・・・なんちゃって~


では、、春めいた季節に二人のお話で楽しんでください。
まずは、仕事行ってきます。
「F」さん~ご協力ありがとう~コメ返待ってね~(人´∀`).☆.。.:*・゚


皆様~素敵な一日をお過ごしください~



マタネッ(*^-゜)/~Bye♪


 
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