船

 

 

遠洋漁業の仕事を終え

伝助太助の父、呑助(のんすけ)は

久しぶりに港に降り立った。

 

 

マグロ延縄漁船の乗組員の

呑助は、半年間

家族と離れ離れで過ごした。

 

 

 

褐色の肌と

長身に

筋肉を隆々とさせ

彫りの深い顔つきは

男らしく精悍だった。

 

 

 

「おい!呑助!

奥さんから手紙が届いてるぞ」

 

 

「あ、悪い~持ってきてくれ」

 

「これから帰るのか?

3人目が生まれたんだろう?」

 

 

「ああ~まだ会ってない」

 

 

「早く帰ってやれ~

魚も持っていけ」

 

「おう!ありがとう~」

 

 

呑助は、

半年ぶりに会う家族に

心躍った。

 

 

汽車の中

妻の手紙を読んだ。

 

 

「ん?日舞?

なんだ?・・・」

 

 

双子の子供たちは

活発で、妻は手を焼いていた。

 

 

「男だろう~

なんで日舞なんだ?・・・」

 

 

呑助は

勝手に日舞を習わせた事に

ムッとした。

 

 

~日舞のお師匠さんはとても綺麗な方で・・・~

 

 

「女の先生か・・・」

 

 

~素敵な殿方なのよ~

 

 

「男?!!」

 

 

~とても二人は懐いていて

助かってるのよ~

 

 

「・・・・・・・・」

 

 

汽車の中

呑助は、二人の子供が

女のような男に

懐いてることが

腹立たしく感じた。

 

 

 

 

 

久しぶりに

一本道を歩いた。

 

 

 

遠くで双子が

こちらに気がついた。

 

 

 

「父ちゃん!!」

「父ちゃん!!」

 

 

駆け寄ってくる我が子は、

少し大きくなっていた。

 

 

「伝助!!太助!!」

 

 

荷物を地面に放り出し

我が子をその胸に抱き締めた。

 

 

「父ちゃん!!」

「父ちゃん!!」

 

 

「元気だったか?」

 

軽々と抱き上げ、

久しぶりの我が子の顔を

しっかりと見つめた。

 

 

「うん!」

「うん!」

 

 

髭が伸び放題だったその顔を

二人は、面白そうに触り

 

 

「痛いよ・・・」

「おヒゲ・・・ちくちく・・・」

 

 

「おう!男の勲章だ!」

 

 

その顔を二人の顔に擦り付けると

 

 

「きゃははは」

「きゃははは」

 

 

っと、逃げながら喜んだ。

 

 

「あんた~ご苦労さん

疲れたでしょう」

 

「おう~元気だったか?・・・

華か?どれ~」

 

 

 

「ほら~お父ちゃんだよ~

華~

あんたに似てるわよ」

 

「おお~こりゃ~べっぴんさんだ」

 

 

 

赤ちゃん「ぎゃ~」

 

 

火のついたように泣き出した。

 

 

「おう~こりゃ~嫌われた」

 

 

久しぶりの家族と共に

我が家に向かう途中

ある家の玄関に

「華草流」

の看板を見つけた。

 

 

「ここか・・日舞の家」

 

 

「そうよ~」

 

 

「おっしょさん、留守だよ」

「おっしょさん、おっちゃんの家に行ったよ」

 

 

「おっちゃん?」

 

 

「まあ~会えば分かるわよ~」

 

っと、答えず微笑む妻と

知らず築かれた我が子の人間関係に

嫉妬を覚えた。

 

 

 

家では、

妻がたくさんの手料理で

帰宅を喜んでくれた。

 

 

しかし

伝助と太助の口からは

「おっしょさん」「おっちゃん」

「きょうすけ」「だいすけ」

の名前が飛び交った。

 

 

その度に

呑助は、眉間に皺が寄った。

 

 

二人は、習った日舞を披露してくれた。

 

 

わんぱくな双子に

よくこれだけ教え込んだものだ。

 

 

感心はしたが

どこか見えぬ相手に

敵意を感じた。

 

 

 

 

 

 

お行儀よく正座し

深く頭を下げ、挨拶をする

双子の息子たちの変わりように

父親ながら唖然とさせられた。

 

 

 

 

 

「あんた~凄いでしょ~

これだけ仕込んでくれたのよ~」

 

 

妻は、華に乳をやりながら

嬉しそうに見つめる

その姿に呑助は

またまた、ムカムカっと苛立った。

 

 

 

 

 

 

赤ちゃん赤ちゃん

 

 

次の日

家族全員で

その日舞の家を訪ねる事にした。

 

 

「あんた、覚悟しなさいよ

物凄く綺麗な人だから」

 

「おい、男だろう?

なんで綺麗って言う」

 

 

「見ればわかるさ~

腰抜かすんじゃないわよ」

 

 

「はあ?俺が男に腰抜かすだと?」

 

 

これから現れる人間に

眼光鋭く

気合を入れて

玄関を開けた。

 

 

 

「おっしょさん~」

「おっしょさん~」

 

伝助太助は、

慣れたようにすぐさま中に入っていった。

 

 

「ここはずっと空家だったけど、

日舞の稽古場だったのか・・・」

 

「そうなのよ~あんた

香櫻流って知らないかい?

ここらじゃ有名でしょう」

 

「あ?ああ・・近くにあったなぁ~」

 

 

「そこの家元が足繁く通って

今じゃお師匠さんといい仲なのよ~」

 

「はあ?家元って男だろ」

 

 

「男が惚れ込むほどのいい男ってことよ~」

 

 

「なんだそれ・・・・」

 

 

呑助が想像する

優男の色白な顔が浮かんだ。

 

 

 

「気持ち悪い・・・・」

 

 

 

吐き捨てるように呟くと

奥から伝助太助に手を引っ張られ

現れた。

 

 

「あ?」

 

 

 

 

その男は、

儚げなほど細かった。

 

 

 

 

 

しかし、ピンと張り詰めたような

その立ち姿に

目を奪われた。

 

 

「京汰さん~旦那が帰ってきたのよ」

 

 

 

「おっしょさん~父ちゃんだよ」

「おっしょさん~父ちゃんが帰ってきたんだよ」

 

 

 

 

 

ドキりと

鼓動がなった。

 

 

 

 

 

「ああ~伝太のお父さん・・・」

 

その笑顔は

その場の雰囲気を一瞬にして明るくした。

まるで舞いのように

その両手をこちらに伸ばしてきた。

 

 

 

 

 

「初めまして~京汰です。

いつも皆には世話になってる・・・・」

 

 

 

にこやかに微笑み掛ける

その瞳の濁りなきまっすぐな眼差しに

動くことが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

その手は冷たく

その指の細さと

なんとも形容し難い容貌に

ただ呆然となってしまった。

 

 

言葉なく見つめてると

 

「ちょ、あんた・・・京汰さんだよ」

 

 

妻に横腹をど突かれ

ハッと我に返った。

 

 

 

「あ、あ・・・・息子たちがいつも世話になってる・・・・」

 

 

「いえいえ、会えて嬉しい~」

 

 

双子の息子たちは

稽古場を駆け回った。

 

 

 

「こら、お前達~稽古場を走るな!!」

 

 

赤ちゃん「は~~い」

赤ちゃん「は~~い」

 

 

二人は、ピタリと立ち止まった。

 

 

 

顔に似合わず

言葉は、男そのものだった。

 

 

 

息子たちの態度に

この男を慕ってることが分かった。

 

 

 

「少しはゆっくりとこっちに居られるのか?」

 

その綺麗な細い指で

髪を耳に掛ける仕草は

どうみても女性だった。

 

 

 

 

 

ただ、違うのは

その瞳の色・・・

 

 

どこまでも綺麗な瞳には、

強さと負けず嫌いな勝気さが

現れていた。

 

 

 

 

「あ、半月後には、また漁に出る」

 

 

「そっか・・・大変な仕事だな・・

そうだ!今夜、ここで祝宴をしよう~

史郎さんも喜ぶ

大輔さんも京介も今日、来るんだ~

祝宴だ~祝宴~」

 

 

その顔をずっと見つめ続け

ガン飛ばす事を忘れていた。

 

 

 

冷酒鯛か金魚

 

 

 

その夜

稽古場は、祝宴となり

鯛などを持参して家族と共に出掛けると

そこに居た京汰は

昼間とは違った雰囲気だった。

 

 

人を一瞬にして虜にするような

その流し目に釘付けになり、

動けなかった。

 

 

 

 

 

 

~弟の京介さんは、京汰さんとは違う綺麗さだから

腰抜かすんじゃないわよ~

 

 

 

出かけるときに妻に言われ

 

 

「男だろう~なんで腰抜かすんだ~」

 

っといって出掛けてきたものの

今、目の前に居る

妖艶な人が京介だと分かるのに

時間が掛かった。

 

 

 

「伝太とうさんですね~」

 

 

 

 

柔らかく微笑むその顔に

身体が硬直した。

 

 

 

そっとその手を伸ばし

両手で掴まれ

 

 

 

「お会いしたかったです」

 

 

 

頭の中で何かが弾け

意識がぶっ飛んだ。

 

 

 

 

「あ、あんた!!」

 

 

赤ちゃん「父ちゃん!」

赤ちゃん「父ちゃん!!」

 

 

不覚にも京介の手を握ったまま

尻餅をついていた。

 

 

「だから言っただろう~

腰抜かすって」

 

 

 

妻の声がどこか遠くで聞こえた。

 

 

 

 

心配そうに見つめる京介の顔の横から

京汰が

 

「どうした?」

 

っと綺麗な顔を覗かせた。

 

 

その耽美な兄弟を目の前に

呑助は、

更に腰が立たなかった・・・・・

 

 

 

 

花桜**冷酒

 

 

おまけ

 

 

呑助は

この日舞の師匠を取り巻く人間達と心を通わせ

たくさんの話で盛り上がった。

 

 

 

京汰は、時折隣の史郎に

絵にも描けないほどの

色気を含んだ眼差しで見つめた。

 

 

 

 

 

 

京介は、

一緒に現れらた庭師の大輔の側に

寄り添う姿が

印象的だった。

 

 

 

 

 

目を細め大輔を見つめる憂いを帯びた表情は

この世のものとは思えないほど美しかった。

 

 

 

 

 

それぞれの左手には

指輪が光っていた。

 

 

 

京汰と京介が

二人で舞台に上がった。

 

 

 

ほろ酔いながら呑助は

京汰と京介の

二人舞いを眺めた。

 

 

 

 

 

 

その流れるような舞いは

一瞬にして、

その場に櫻を感じさせた。

 

 

 

 

舞い散る櫻の花びらが

幾重にも二人を包み

呑助の瞳を

更に釘付けにさせた。

 

 

あまりの美しさに

持っていたぐい呑みを落とし、

妻に

「見蕩れるな~」

っと睨まれた。

 

 

 

 

旅行

 

 

 

休暇は、あっという間に過ぎ去り

まるで竜宮城に来ていたかのような想いのまま

家族に見送られ

家を後にした。

 

 

 

 

一本道を振り返ると

やはりあの綺麗な兄弟は

こちらに手を振っていた。

 

 

 

 

 

 

「幻じゃなかったのか・・・・」

 

首を振り

呑助は、

 

 

「日舞か・・・・まあ満更でもないか~」

 

っと、最初の感情はどこかに吹き飛び

また次にこの地に帰る楽しみが

一つ増えた気がした。

 

 

音譜

解説はコメントで・・・

 

 

 

 

 

 

 

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