夏祭り、行く?行った?ブログネタ:夏祭り、行く?行った? 参加中

私は行く、行った


「真夜、今年も浴衣だしたからね」

母が箪笥の前でたとう紙を広げた。ひらひら赤いきんぎょの柄のかわいい浴衣。真夜のために母が三年前に縫ってくれた。
母が真夜に浴衣を着せかける。

「うん。やっぱり似合うわ。真夜は色が白いから赤が映えるわ」

母は真夜の頭を撫でる。
「今年も一緒にお祭りに行こうねえ。好きなものなんでも買ってあげるからねえ」

母は真夜の頭を撫で続ける。

「そうだ、真夜。あなたが欲しがっていた下駄、買ってきたのよ」

母は立ち上がり小さな包みを持ち戻ってきた。

「ほら、ちりめんの鼻緒がかわいいねえ。真夜によく似合うよ」

真夜の小さな小さな足に下駄をあてがう。

「ほら、やっぱり。これを履いて行こうねえ」


母は真夜の手をとり引っ張った。からんと乾いた音がして、真夜の腕が体から離れた。

「あらやだ。外れちゃったわね」

母はしゃがみこむと、浴衣のそでを捲って真夜の肩を出し、むき出しの骨に腕の骨を嵌め込んだ。
「そうねえ、全部行くのは難しいわねえ」

母は真夜の頭蓋骨を引き抜くと、胸に抱いた。

「さあ、行きましょ、真夜。迷子にならないように手を繋ぎましょうねえ」

その時、真夜の手が母の手を握り、引っ張った。
振り返った母は、首のない真夜の姿を見た。
真夜の骨は立ち上がり、母に抱きついた。


その晩以来、母の姿を見たものはいない。
ただ、その家からは時おり小さな下駄が駆ける音が聞こえた。