2016年残り100日運勢みくじ


 

今年も残り百日を切った。早い。早すぎる。けれど今年の初めを振り返ってみると新年の抱負も思い出せない。思えば、記憶が曖昧になるほど遠くへ来たものだ。私の記憶力が悪すぎるだけかもしれないけれど。

残り百日おみくじを引いた。気になるのは商売だ。『いまが儲け時』。良い言葉だ。

自由業商売、運気の良い今こそ売り込みをかけなければならない。とは言えども、商品がないことには話にならない。商品を仕上げなきゃなあと思いつつも重い腰はなかなか上がらない。腰を軽くするためにダイエットを優先すべきだろうか? などとまた逃げよう逃げようとする虫がわく。サボリの虫だ。まずはこいつを叩きつぶさなければならない。なにせ願望は『あなた次第で叶う』と出ている。稼げるときに稼がないと浮沈が激しい自由業、いつ食いぶちに困るか分かったものではない。

とはいえ、残り百日を表す四字熟語は『起死回生」だそうだから、焦らずともなんとかなるだろう。

ほら。すでにサボリの虫がごそごそ這い出してきた。こいつを退治するためのヒントは残念ながらおみくじには書いていない。防虫香がわりに線香でもたいて仕事に取りかかることにしますかね。

 

 

 

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ギシギシと。

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光太の自転車はこぐたびにギシギシと嫌な音をあげる。高校までの道を走っている最中に分解してしまうのではないかと思う。車道を走っていて隣をトラックがすり抜けていく時など、ひやりとする。けれど壊れてしまえばいいのにとも思うのだ。

「光太、まだスクラップに乗ってるのかよ!」

学校の駐輪場に自転車を停めていると前沢が三階の窓から身を乗り出して叫んだ。隣にはカスミがいる。

「大変だなあ、貧乏人は!」

カスミが前沢のシャツの袖を引っ張って止めようとしているが、逆効果だ。前沢はカスミの前で光太をおとしめたいのだ。光太はそれをよく知っていた。

「お前、バイト代で自転車買えよ!」

光太はぎょっとして窓を見上げた。カスミが前沢の腕を強く引いて窓から遠ざけた。前沢のにやにや笑いが尾をひいたように、いつまでも光太の目に残った。



「……失礼します」
弱々しくうなだれて職員室から出てきた光太は肩を落としたままトイレの個室に入った。扉にもたれ、力が抜けたようにしゃがみこむ。
バイトのことがバレてしまった。校則で禁止されているのを承知で、こっそりバイトしてるやつは他にもいる。遊ぶ金を稼ぐために。けれど光太は違う。生活がかかっている。そんな事情を担任も察しているからか、反省文の提出とバイトをやめることで停学はまぬがれた。
授業始めを告げるベルがなっても光太はじっと顔を伏せたまま考え込んでいた。光太は祖父と二人暮らしだった。生活の基盤は祖父の年金に頼っている。それだけでは足りないところを光太がバイトで補っていた。
廊下が無人になって静かになったのだろう。グラウンドの声がよく響いてくる。そう言えば一時間目は体育だったな、と思い出して教室に向かった。
誰もいない教室は、なぜか人がいる時より雑然として見えた。机の上にカバンや雑誌や色々なものが置きっぱなしになっているからかもしれなかった。光太は自分の席に座ると机につっぷして眠った。

人の気配にふと顔をあげると体操服姿のカスミがすぐそばに立っていた。何も言わずに光太を見下ろしている。気まずくて、光太は目をそらしてボソリとつぶやいた。

「……さぼり?」

「保健室に行くところ」

「……そうなんだ」

カスミは小さな頃から体が弱かった。今でも時おり何日も続けて休むことがある。顔色もどこか青白い。その血の気のない唇がほんの少しふるえた。

「ごめんね」

「なにが」

「厚のこと」

「べつに」

カスミは前沢を厚と呼び続けているが、光太は小学校を卒業すると同時に、その呼び方をやめた。

「バイト、やめなくちゃいけなくなったんでしょ」

「なんで知ってるの」

「厚が職員室をのぞきに行って」

「べつにいいけど」

前沢は昔からいつも誰よりも物知りでいないと気がすまなかった。どうやって知るのか、クラスのやつの秘密をいつの間にか知っていた。光太がカスミを好きだなんてことは会ったその日にバレていただろう。
三人はまわりからはいつも一緒の仲良し仲間だと思われていただろう。けれど厚は違った。光太はそのことに長い間気づかなかった。

「バイト、ほんとにやめるの?」

「やめるしかないだろ」

「だけど……」

光太は音をたて椅子を蹴って立ち上がり教室を出ていった。カスミは後を追うこともできず立ち尽くした。



自転車はギシギシと悲鳴をあげて走る。光太はがむしゃらにペダルをこいだ。こいでもこいでもどこにも行けないと知っているのに。
昼を過ぎても夕暮れてもこぎ続けた。どんどん暗くなって見知らぬ街を走った。ギシギシと。ギシギシと。
車のヘッドライトがつきだした。光太も自転車のライトをつけた。ギシギシとギシギシと音をたてて左右にふれる自転車の影が脇をすり抜ける車のヘッドライトに照らされて長い影をのばす。光太の後悔のように長い影を。
こいでもこいでも影はついてきた。どこまでもついてきた。厚の言葉が遠くなってもカスミの姿が見えなくても、どこまでもついてきた。

力尽きて地に足をついた時にはすっかり日がくれていた。光太はととのわない息を飲み、自転車を止めた。目の前の信号は赤だ。
足を止めれば旧式の自転車のライトは消えてしまう。もっと、もっと、もっと明かりが欲しくて、向かうなにかを照らしたくて光太はこぎ続けた。ふらふらになってもこぎ続けた。激しいクラクションが鳴ったとき、光太の意識はほとんどなかった。ヘッドライトがトラックの照射するヘッドランプにのまれたところを見た。光太は大きく弾き飛ばされた。



気づいたら白い天井を見つめていた。ぼんやりと白さを見ていると枕元でいびきが聞こえた。聞き慣れた祖父のいびきだった。自転車は無事だろうか。なぜか一番に頭に浮かんだ。
きっともうスクラップになってしまったのだろう。光太はギシギシと鳴く自転車を思って目を閉じた。

「大丈夫?」

声に目をさますと目の前にカスミがいた。遠慮のない祖父のいびきは聞こえず耳元の心音計のピッピッという音ばかりが耳についた。

「三日も意識がなかったんだよ」

見上げるカスミの目は真っ赤で、みるみる涙がうかんできた。

「また自転車に乗せてよ」

光太の記憶をカスミの言葉がかきまわした。そうだ、カスミを自転車のうしろに乗せて走ったことがある。
誰よりも早く自転車に乗れるようになった光太は厚を置いてカスミと二人で町外れまでこいで行ったことがある。すっかり日がくれていた。小さなヘッドライトは心もとなく道を照らしたけど、カスミと一緒なら恐くなんかなかった。あの日、ヘッドランプはまっすぐ、どこまでもまっすぐ、行く先を照らしていた。

「カスミ」

「なあに」

「自転車、俺、また買うよ」

「うん」

「暗くなっても一緒に行こうな、どこまでも」

「うん」

厚に、厚に言わなくちゃ。光太は胸のうちで誓った。
厚に言わなくちゃ。カスミのことが好きだって。厚よりずっと好きだって。
自転車のライトはまっすぐにどこまでも道を照らすから。
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稲光の落とし子 下

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それから数年がたった。子はぐんぐんと育ち、同い年の誰よりも丈が高かった。子が産まれた家は、両親が寝る間も惜しんで働いて立派な家に作り替えた。
けれど一ヶ所だけ天井から空が見えるように穴を残した。子がどうしてもとせがんだのだ。その穴から夜空を見上げるのが子の夜のならいだった。

雨がいつまでも続いた。秋の始めのことだ。金色に実った稲も雨に濡れて腐り始めた。これでは冬を越す食料がない。皆は祈る気持ちで雨雲におおわれた空を見上げた。
子の家は屋根に穴が空いているので、雨が振り込む。瓶を置いて雨を溜めているが、瓶はあっという間にまんたんになる。父は子に言った。

「お前、屋根をふさいでもよかろう。これでは瓶の水を捨てるために夜も眠れないよ」

しかし子は、うんと言わない。親は仕方なく瓶の数を増やした。
十、五十、百、雨漏りの穴の周囲の瓶に雨水が皆溜まった夜、子が言った。

「くるよ」

父がたずねた。

「くるって何がだい?」

子は答えず屋根の穴の真下に立った。激しい雨に打たれながら天をにらむ。
と、轟音が鳴り響き、空に穴が開いた。ぽっかりと真っ黒な穴から、真っ黒な龍が金色に光る目で地上をにらんだ。
雨はますます強まり、龍はその流れに乗るように、まっすぐに屋根の破れめ目指し、くだりおりようとした。子は龍をひとにらみしたかと思うと、さも楽しそうに笑った。産まれた時のように、鬼子のように。
とたんに空が真っ白に光った。何もかもが稲光の中に見えなくなった。ただひとり、鬼子だけが真っ黒な龍が空の穴に戻っていき、その穴もふさがったのを見た。

雨はぴたりとやんだ。あたりは一面に水が溜まり、沼のようになっていた。みな家から出て空を見ていた。雲が開き満月が、一本だけ水に浮いた道を照らした。鬼子はその道を竹林の方へ進んでいく。母が鬼子の背に声をかけた。

「いったいどこへ行くの? 帰っておいで」

鬼子は振り返ると笑いながら天を指差した。母が見上げると空がまた稲光で真っ白になり、みなの目をくらませた。
ごしごしと目をこすって、やっと道を見ると鬼子はどこにもいなかった。

後年、鬼子の父も母も亡くなったころ、遠国から来た老師が語ったことには、闇の龍は雨に乗り地に下り、わざわいをなすという。光を嫌い雲で空をおおってしまうという。
老師は人づたえに語り残した鬼子がなしたことを話に聞いた。

「きっと龍を追って行ったのだろう。近ごろは龍の話をとんと聞かない」

みなは感心して鬼子のことを稲光の落とし子と呼び、子がいつでも帰れるように竹林のそばの家を守り続けた。
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稲光の落とし子 上

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その日、空は重く黒く、世界は端から端まで暗かった。雲の陰で稲光が光るので、かろうじて道を見ることができた。
そんな中を産婆は一軒の家に急いでいた。暗く歩きにくい畦道をずっと行って抜けた先、竹林のはたに目指す家はあった。

人が住むから家とも呼ぶが、知らぬ者が見ればかたむいた道具小屋とでも思うだろう。薄い板戸は破れ、壁は漆喰が剥がれ落ちた壁土で、屋根にもところどころ穴が空いていた。

「どうだい」

産婆が声をかけながら家に入っていくと中は灯りもなく真っ暗で、時おり稲光が屋根の穴から差し込むのだけが目のたよりだった。
土間に板を置き、むしろを敷いただけの上に腹の大きい若い女が座っていた。額から玉の汗をながし、息は荒い。その横に女の夫がなかば放心したようにうずくまっていた。

暗いなか手探りでお産は続いた。妻のうめき声、時おり稲光に照らされる苦しそうな顔。夫は泣きそうになっていた。子はなかなか出てこない。
これは難しいかもしれない、産婆は内心で呟いた。このままでは母親もあぶない。
その時、空が真っ白に光った。降ってきたまばゆい光に妻も夫も目をきつくつぶった。産婆だけが、子が出てくるのを見届けた。
子は真っ白な光の中に笑って出てきた。産まれたてで笑う赤子などいようか。まるで稲光から産まれたような鬼子だと産婆は恐れた。
しかし子はすぐに普通の赤子と変わらず泣き出した。妻と夫は産まれた子を心底喜んでいる。産婆は稲光の中に見たものを自分ひとりの胸のうちにしまった。

4時48分サイコシス

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私のプロットの師匠、花野純子先生の舞台が福岡市天神であります。

 

九月は天神地区で「ミュージックシティ天神」というイベントが開催されます。

「まちじゅうに音楽があふれる2日間」ということで、街のいたるところにステージが立ち、あるいは歩道の上で、様々なアーティストが思い思いの音楽を奏でます。ロックあり、クラシックあり、ジャズあり、もしかしたら邦楽はあるだろうか。

そんな中で、お芝居もあります。

 

花野純子先生の

『4時48分サイコシス』

がそれです。

 

あらすじは下記のe+のページをごらんください。
http://eplus.jp/sys/T1U14P0010163P0108P002196874P0050001P006001P0030001

 

と言ってもお忙しいでしょうから、簡潔に。

精神を病んだ人がすくわれるために狂い、書き、叫ぶ、そんな芝居です。はたしてすくわれるのかどうかは分かりません。美しい教会で上演される音に溢れたお芝居です。

 

師匠は何度もサイコシスを上演されていますが、そのたびに解釈も違えば演出も違い、主人公が生きていたり死んでしまったり、すくわれたり絶望したり、毎回違うのです。

今回はどうなのか。見てみないと分からないドキドキロシアンルーレットです。

 

お近くの方はぜひ、遠くの方もぜひ。

お越しいただければと思います。