締め切り明日

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ここ三年、連続して出している『北日本文学賞』の締め切りが明日の消印までなのだ。原稿用紙30枚が規定なのだ。現在、21枚め。私は一時間に二千字未満しか書けない遅筆だ。残り9枚。3600字、2時間以上かかる。しかしこれから『シン・ゴジラ』を見に行く。恐らくその後呑みに行く。呑みに行けばエンドレスで、きっと午前様になる。今日はもう書けない。
酔った頭で書いてもボツにするしか仕方ない、しょーもないものにしかならないだろうから大人しく寝て明日書くしかない。酔っているから早起きはできないだろう。昼頃から書きはじめて2時間かかるかもしれない。
それからプリントアウトして推敲して書き直してまたプリントアウトして推敲して書き直して……。
書き上がったらパンチングしてこよりで綴じて封筒に宛先書いて、あ! 略歴も書かないと。そんで郵便局まで行くのだ。

明日はご飯食べてる時間ないなあ……。


さて、ここで問題です。
これらの私の行動のうち賞に応募するのに心構えが足りないのはなんなんでしょう。

一、こんな時に映画を見に行く。

二、こんな時に呑みに行く。

三、こんな時に午前様。

四、こんな時に寝坊。

五、こんな時に限ってブリンタのインクがきれる。


正解は!!








六、締め切りぎりぎりまで書かずにいた怠けた姿勢がすべての元凶。

でした!
それでは!
シン・ゴジラ楽しんできます!
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無用の長靴

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雨がひどく降っている。幸美はがっかりしながら下駄箱から長靴を取り出した。幸美は小さな頃から長靴が嫌いだ。ならば何故持っているかというと先月の大雨で靴を一足ダメにしたからだ。お気に入りの靴だったのでずいぶん落ち込んだ。雨の日に履いて出たことをとことん悔やんだ。その反省の意味も込めて、長靴を購入したのだった。

傘を差しているのにスカートの裾がびたびたに濡れる。頭と鞄をなんとかかばうのが精一杯だ。体がどんどん冷えていく。長靴の中の足だけがポカポカと温かい。足だけでも温かいと風邪をひかなくてもすむかもしれない。長靴、なかなかいいじゃないか、と幸美はニヤリと笑った。

もう少しで職場、という辺りで、幸美のすぐそばを大型トラックが疾走していった。盛大な飛沫をあげて。雨水は幸美の半身をびっしょりと濡らした。長靴の中にも水が入り込み、歩くたびにぐっぽぐっぽと間抜けな音をたてる。足がぬめって気持ちが悪い。長靴の底にたまった雨水が重くて足が疲れる。幸美は小さく舌打ちした。

職場について鞄に入れてきたパンプスに履き替えた。長靴を捨ててやろうと、中に入った雨水をトイレに流した。すると雨水と一緒に百円玉が転がり落ちた。歩道の雨水をかぶった時に入り込んだものか、覚えのない百円だった。

幸美は顔をしかめた。百円が降って湧いて嬉しいような気持ちが一瞬だけしたが、今はそれが気の迷いだったとしか思えない。
トイレに手を突っ込んで百円玉をつかむなんて、さらさらごめんだ。けれどこのまま水を流して詰まったりしないか気にかかる。

「ああ、もう! だから長靴なんかだいっきらい!」

手にした長靴を思いきり床に叩きつけて幸美は怒鳴ったのだった。
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雨の木

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まあるい丘の上にぽつんと一本、雨の木があります。丘にはほかに木はなくてごろごろと石が転がるばかりです。丘の辺りは乾いた土地で人も動物も住んでいません。
雨の木は大きく枝を広げて丸い葉っぱをたくさんつけています。その葉っぱから、しとしとしとしと滴が垂れているのです。雨の日も晴れた日もいつも滴を垂らしています。近くを通る旅人はこの丘に上って雨の木の滴で喉を潤すのでした。
ある寒い寒い日のことです。昼間から降りだした雪が暗くなるにつれてどんどん激しくなりました。すっかり日がくれたころには吹雪になっていました。
厚く積もった雪の原を一人の旅人がやって来ました。外套をきつく体に巻き付けて風と雪を防ごうとしていますが、強すぎる吹雪は旅人をすっかり凍えあがらせました。
丘の麓についた旅人は、丘の上の雨の木を見上げました。雨の木には雪も積もらず暖かそうに見えました。旅人は雪をかきわけて丘を上りました。
雨の木はしとしとしとしとと滴を垂らしていました。寒い寒い夜なのに凍ることもありません。旅人は手を伸ばして滴にふれてみました。雪の冷たさにしびれた手に滴はとても温かく感じられました。
旅人は両手に滴を溜めると口をつけて飲みました。滴はお腹の底から体が温まったように感じました。旅人はごくごくごくごく滴を飲みました。そうして元気を取り戻して、丘を下りていきました。
暑い暑い夏のことです。一人の旅人が丘を上りました。雨の木はしとしとしとしと滴をこぼしています。旅人は服を脱いでしまって全身に滴を浴びました。たちまち体はひんやりと冷えて流れ落ちていた汗がぴたりと止まりました。旅人は元気を取り戻して、丘を下りていきました。
何回も夏が来て何回も冬が来ました。雨の木はずっと滴を垂らしていました。

ある暖かい日、遠くから一人のおばあさんが歩いてきました。おばあさんは身寄りをなくし、住む場所をなくし、疲れはてて歩いていました。
丘の麓に来るとおばあさんは雨の木を見上げました。しとしとしとしと垂れている滴がとてもやわらかそうでした。ふれてみたくて、おばあさんは丘を上りました。
滴を手のひらに受けると、滴はころりと丸い珠になりました。おばあさんは珠を口に入れてみました。とろりととろけて甘く甘く香ります。おばあさんはお腹がいっぱいになるまで珠を食べました。
食べれば食べるほどおばあさんは若返っていきました。赤ん坊になってしまっても、おばあさんは珠を飲みました。赤ん坊より小さなものになっても珠に浮かんで味わいつづけました。そうして見えなくなってしまいました。雨の木は変わらずしとしとしとしと滴を垂らしていました。

雨の木の滴が一日だけ止む日がありました。大きな丸い葉っぱがしゃらんと揺れて滴がぴたりと止まりました。葉っぱはしゃらんしゃらんと鳴りつづけ葉の裏から何かがころりころりとこぼれ落ちました。それはまあるい珠でした。いくつもいくつも珠はあふれて丘を転がり落ちていきました。珠はどこまでもどこまでも転がって、ある日海へとたどりつきました。
海のなかでまあるい珠は小さな小さな命になりました。海草になりました。小魚になりました。プランクトンにもなりました。
そうして色んな生き物に食べられて色んな命になりました。

ある旅人は海辺の宿屋で魚の料理を食べました。ふと、不思議な気持ちになりました。雨の音を聞いたような気がしました。旅人はゆっくり眠って元気になると次の旅へと出ていきます。
乾いた土地を抜けていこうと思いました。そこに珍しい木があると噂に聞いて楽しみにしていました。
旅人は雨の木を目指して歩き出しました。なぜか懐かしい故郷に帰るような気がしていました。
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なんにも気がのらない時というのはあるものだ。我が主は今そんな状態らしい。部屋の隅にごろりと転がり目をつぶっているが、眠ってはいない。ここ四日、この通りである。腹がへったら、のっそり起き上がり冷蔵庫を漁っているので餓死する心配はなかろう。
申し遅れたが、我輩は靴である。履き古されたスニーカーである。ブランドものなどではない。980円で叩き売りになっていたところ主の目にとまり、この部屋にやって来たのだ。
一ヶ月ほど前、我輩の隣に新入りがやってきた。新品の革靴である。そやつは19800円のフレッシャーズ応援スーツ6点セットの中の1点であった。ぴかぴかであるのを鼻にかけ他の靴を小バカにしおる。古参の中でも主の寵愛を一心に受けた我輩としては面白くはなかった。
その革靴が日に日に弱ってきた。靴というのは毎日続けて履くと消耗が激しい。主は革靴がやってきてからは毎日スーツを着て革靴を履いて朝早くから夜遅くまで出かけている。無精なところがある主だから、靴を磨くこともない。革靴は一ヶ月で哀れな様相に落ちぶれた。
革靴の凋落ぶりにあわせたかのように主もまた、ひしゃげていった。一ヶ月前は、にこやかにドアを出ていったものだが、最近は足を引きずるように帰宅する。その挙げ句、今の無気力である。
我輩は不本意ながら革靴に話しかけた。
「お若いの、いったいこの一ヶ月、主に何があったのだろうか」
ぐったりしていた革靴は消え入るような返事をした。
「就職活動ですよ」
「就職活動?」
たしかその言葉は、主の先輩が一年ほど前に何度となく繰り返していた。先輩諸氏もスーツに革靴姿だった。
「その就職活動がどうかしたのか」
「面接に落ち続けで、もうやってらんないんですよ」
「一度や二度の失敗で……」
「二十件ですよ。あちこち歩いてまわって二十件連続でダメなんですよ」
「む。二十件だめなら二十一件目が……」
「もう無理なんだよ! これ以上歩くなんて僕には無理なんだよ!」
革靴はホコリだらけの体をふるわせて叫ぶ。ホコリがこちらに舞ってきて甚だ迷惑した我輩は、それ以上革靴を刺激しないことにした。
主がのっそりと起き上がると玄関に向かってきた。ジーンズ姿で革靴はないだろうと思っていたら、案の定、我輩に足を向けた。一ヶ月ぶりの主の体重を受ける。どうやらかなり痩せてしまったらしい。
部屋を出た主は足を引きずるように歩く。我輩は靴底がすり減るのが心配でハラハラしていた。主はコンビニに入ろうとしたが、ふと立ち止まり財布の中身を確認して激安スーパーまで歩いていった。三十分も引きずられ、我輩はいささかくたびれた。底は減るし靴紐は結ばれないまま地面に這っているし、散々だ。
食料品を買い込んだ主はまた我輩を引きずって帰宅した。なんとか靴底に穴を開けずにすんだ我輩が安堵の息を吐いていると革靴が同情のこもった声を出した。
「疲れた主のお供は大変ですよね」
若輩の弱音にいささか腹が立つ。
「我らは主あってこその命、主を軽んじるような言葉はいかん」
「でもこのままじゃ僕はもうお役ごめんでしょうし、あなたはいつ破れるか……」
一理も二理もある革靴の意見に我輩はうなった。
「なんとか主の鋭気を駆り立てねばならんな」
「なんとかと言ったって何もできやしませんよ」
「我輩は裏返る」
「え?」
「ある日突然、玄関で靴が裏返っていたら驚くだろう」
「はあ」
「驚けば目を見開く、背筋も伸びる。そうするとやる気も出る」
「そんなものですか」
我輩は渾身の力で身を揺らした。なんとか裏返ろうと粉骨砕身した。
「……大丈夫ですか」
革靴が呆れたようにたずねた。
「大丈夫なものか! お前も手伝え!」
「えー……」
ぶつぶつ言いながらも革靴は身を寄せ我輩を支えてくれた。我輩は革靴に靴底を当て、えいや! と裏返った。
「どうだ!」
「……はあ」
「我輩はやった!」
「……はあ」
「えい、感動の薄いやつめ、これで主はしゃっきりするぞ!」
しかしそれから一週間、主は寝たまま過ごし我輩に気づくこともなかった。
主が玄関に出てきたのは我輩が裏返ってから二週間、きっと冷蔵庫の中身が空になったのだろう。ジーンズ姿の主は我輩に足を伸ばしたが、裏返った我輩に気づくと隣の革靴に足を入れた。主はティーシャツ、ジーンズ、就職活動用の革靴という出で立ちで出ていった。革靴が「底が減る~」という力ない叫びが哀れだった。
それより哀れだったのは我輩だ。主のためを思った必死の努力のせいで主の寵愛すら失ってしまった。我輩はぐったりと地面に伏した。靴紐はしなびた切り干し大根の煮物ようだった。乾物が一度は戻ったのにまたしなびたのだ。その哀惜や、いかに。
主が戻ったとき、革靴が叫んだ。
「やりましたー!」
なんのことやら分からずにいたが、主は革靴を脱ぎ捨てると部屋に駆け込み手にしていた封筒を破いて開けた。中の手紙を見るなりガッツポーズを決めた。
「内定ですよ!」
興奮した口調の革靴が叫ぶ。
「やっと報われたんですよ! 僕の一ヶ月が! ばんざい!」
部屋の中央では主が不思議な踊りを踊っている。革靴はばんざいを叫び続ける。我輩は裏返ったまま、なんとはない寂しさを感じていた。
それから主は革靴を履いて出かける日々だ。生き生きとして笑顔がまぶしいほどだ。
我輩はというと今も玄関の片隅でひっくり返っている。毎朝、革靴に靴紐を踏みにじられている。まあ、それも仕方なかろう。我輩は980円分もう働いたのだ。役目は革靴が引き継いだということだ。老兵は去るのみだ。

主の就職が決まった。主はこの部屋を出て新しい住み処へ移る。我輩はこの部屋とともに忘れ去られよう……。
主が我輩に手をかけた。ああ、とうとう我輩はごみ袋に入れられるのだな、と覚悟を決めたその時。我輩は優しく返され、主の重さを受けた。主はまた我輩を履いてくれた。じんわりと主の温かさが伝わってくる。ずっと玄関に横たわっていたせいでホコリっぽい我輩を主は気にもせず履いてくれた。なんと心地よい重みだろう。我輩は擦りきれそうな靴底を叱咤して歩き出す。引っ越し荷物を運ぶ主と共に、どこまでも歩いて行く。
「あーれー……」
か細い悲鳴に振り返ると革靴がゴミ袋に捨てられるところだった。長い就職活動の間に擦りきれ与太れた革靴。ああ、革靴よ。成仏しろよ。我輩は主についてどこまでも行く。
べり。
といやな音がした。我輩の側面が裂け、靴底との間に隙間ができた。主は黙って我輩から足を引き抜くと我輩をゴミ袋に入れた。そうして下駄箱から新しいスニーカーを取り出した。ブランドもののぴかぴかの新品だ。主はそれを履いて部屋を出て行った。我輩と革靴は取り残されゴミ収集車に乗せられた。
ああ、主よ。共に歩んだ我輩を忘れずにいてくれるだろうか。980円の持ちの良いスニーカーのことを覚えていてくれるだろうか。新しいスニーカーと同じくらいあなたを支えた靴のことを覚えていてくれるだろうか。
我輩と革靴はクズと共に封をされた。そうして主は新しい一歩を踏み出した。

橋の端

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レインボーブリッジ、封鎖できる?

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待ち合わせはレインボーブリッジ遊歩道の入り口だった。うらぶれた道を通り、巨大な鉄骨の下をくぐって目的地にたどりついた。そっけない白い建物が遊歩道までのエレベーターの入り口のようだ。人けはない。とうに遊歩道の公開時間は終わっている。
誰もいない通路でレインボーブリッジを見上げる。いつもは見えない橋の裏側は巨大なおもちゃのブロックのように見え、この上を何台もの車が走っているなんて恐ろしい気がした。
待ち合わせの時間からきっかり三十分遅れて男はやって来た。真っ黒なスーツに丸っこいボウラーハットをかぶってイギリス紳士のようなイメージだ。
「お待たせしました。では行きましょうか」
男は鍵がかかっているはずの入り口扉をすっと開けて建物の中に入りエレベーターのボタンを押した。扉はすぐに開いた。エレベーターで七階まで上がる。鉄骨にますます近づいて、通路は上り坂で空に向かっている。男に先導されて道を進んだ。
橋の上に出ると、世界はしんと静まっていた。走っているはずの車は一台も見えず、遠くのビルのライトアップが水に映っているのが、静寂をさらにくっきりと際立たせていた。
「いかがです? お気に召しましたか」
男はにっこりと笑うと遊歩道を進んでいく。遊歩道は十分ほどで突きあたりになった。
「今日は特別に橋の向こうまで通れるようになっています」
男が指差す先には乳白色の歩道があって、橋の向こう見えないほど遠くまで続いているようだった。男は遊歩道のどんつきの手すりをまたぐと乳白色の歩道に下りた。振り返った男にじっと見つめられ、続いて歩道に立った。ふわふわした頼りない踏み心地だった。足の下、数十メートルは宙なのだと思うと背中に寒気が走る。男はそんなことは感じていないようで地面を歩くように力みもせずに歩いていく。おそるおそる歩き出した。二三歩歩くと足元のふわふわがいかにも心地よく、なぜか懐かしく、どこまでも歩いていけそうだった。足取り軽くうきうきと歩いた。
「さあ、ここが橋の終わりです」
男がぴたりと止まって歩道の端を指差した。確かにそこは歩道の終わりで、その先には何もなかった。道もない、空もない、地面も空中もなかった。
「行きますか?」
問われて橋を振り返った。七色に輝く橋は美しかったけれど一度見たら満足してもう一度渡りたいとは思わなかった。
「行きます」
男に手を引かれ歩道の先、何もないところへ飛び込んだ。足がなくなり、腕がなくなり、頭が胴が自我が思い出が過去が未来が夢が後悔が、最後に残った道の先への恐怖がなくなった。
男はなにもないところから歩道に戻るとしゃがみこんで歩道をはしからくるくると巻きとっていった。ふわふわの歩道があった場所には今はもう何もない。男はレインボーブリッジも遊歩道も夜景も何もかも巻き取ってすべての世界を巻き取った。
そうして記憶もすべて消えた。そこに男は新しい歩道を広げ始めた。ふわふわの歩道は新しい橋に向かってどこまでも伸びていった。