ブログネタ:楽しい1人遊び、教えて 参加中
本文はここから
カスミが洗濯ものを取りこみに庭に出ると、由岐菜が庭の隅にしゃがみ込んで独り言を言っていた。驚かそうと思って足音を忍ばせて近づいていく。由岐菜は気付かず喋りつづけている。
「……だからね、ゆきはひろちゃんのおうちにいきたいんだ。いい?」
独り言ではなくて塀の向こうに誰かいるのかとも思ったが、ブロック塀の狭い隙間からは人の気配はしなかった。
「うん、わかった! じゃあ、あとでね!」
そう言うと由岐菜は立ち上がり振り向いた。
「あ、ママ!」
「ゆきちゃん、誰とお話していたの?」
「ううん、だれもいないよ! ゆき、おトイレいってくる!」
由岐菜はあわてて家に駆けこんでいった。嘘をついている時のクセ、耳をさわりながら。カスミは由岐菜が座っていた場所に近づき、しゃがんでみた。庭の隅、多少の雑草が生えている。それを抜きながらぼんやりしていると、ブロック塀の向こうに、子供の足が見えた。顔を上げてよく見ると、まっ白でつややかなその足は女の子のもののように見えた。
「もらっていくよ」
しわがれた老婆の声がした。
「え?」
「もらっていくよ」
また聞こえた声の主を探してきょろきょろと周囲を見回したが誰もいない。ブロック塀の向こうには子供の足しか見えない。
と、その子供がしゃがみ込み、その顔が見えた。子供の肩、子供の首、顔だけが皺だらけの老婆だった。
カスミは悲鳴を上げると飛び退った。その瞬間、老婆の顔はふと掻き消えた。最期の表情はカスミを馬鹿にしたように、にやついていた。
「由岐菜?」
突然、娘の事が気にかかった。
「由岐菜!」
家に飛び込みあちらこちらと探す。トイレにもいない、キッチンにもリビングにも子供部屋にも、どこにもいない。一人で外へ出たのかと玄関に行ってみたが、靴はきちんと並べられ扉には鍵がかかっていた。
「由岐菜!!」
呼んでも返事はない。どこからも人の気配もしない。庭に飛びだし隅へ行く。地面の上に由岐菜の髪についていたリボンだけが落ちていた。
警察の捜索でも何も分からず、由岐菜は帰ってこなかった。
「もらっていくよ……」
カスミは日がな一日、庭の隅にしゃがみ込んで呟き続ける。
「もらっていくよ……」
ある日、ブロック塀の隙間の向こうに、あの老婆の足が見えた。まっ白でつややかなその足は女の子のもののように見える。
「かえしてやるよ」
カスミは立ちあがると、ブロック塀によじ登った。
「由岐菜!」
由岐菜がそこに立っていた。由岐菜の足、由岐菜の手、由岐菜の肩、しかしその顔だけが老婆のものだった。
「かえしてやるよ」
老婆はにやにや笑いながら手に持っていた丸い風呂敷包みをカスミに向かって投げてよこした。カスミがそれに手を伸ばした瞬間、老婆は消えてしまった。
カスミは急いで包みをほどく。そこには、由岐菜の頭があった。
「由岐菜……」
「ママ、ただいま」
由岐菜は幸せそうににこにこと笑っていた。
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カスミが洗濯ものを取りこみに庭に出ると、由岐菜が庭の隅にしゃがみ込んで独り言を言っていた。驚かそうと思って足音を忍ばせて近づいていく。由岐菜は気付かず喋りつづけている。
「……だからね、ゆきはひろちゃんのおうちにいきたいんだ。いい?」
独り言ではなくて塀の向こうに誰かいるのかとも思ったが、ブロック塀の狭い隙間からは人の気配はしなかった。
「うん、わかった! じゃあ、あとでね!」
そう言うと由岐菜は立ち上がり振り向いた。
「あ、ママ!」
「ゆきちゃん、誰とお話していたの?」
「ううん、だれもいないよ! ゆき、おトイレいってくる!」
由岐菜はあわてて家に駆けこんでいった。嘘をついている時のクセ、耳をさわりながら。カスミは由岐菜が座っていた場所に近づき、しゃがんでみた。庭の隅、多少の雑草が生えている。それを抜きながらぼんやりしていると、ブロック塀の向こうに、子供の足が見えた。顔を上げてよく見ると、まっ白でつややかなその足は女の子のもののように見えた。
「もらっていくよ」
しわがれた老婆の声がした。
「え?」
「もらっていくよ」
また聞こえた声の主を探してきょろきょろと周囲を見回したが誰もいない。ブロック塀の向こうには子供の足しか見えない。
と、その子供がしゃがみ込み、その顔が見えた。子供の肩、子供の首、顔だけが皺だらけの老婆だった。
カスミは悲鳴を上げると飛び退った。その瞬間、老婆の顔はふと掻き消えた。最期の表情はカスミを馬鹿にしたように、にやついていた。
「由岐菜?」
突然、娘の事が気にかかった。
「由岐菜!」
家に飛び込みあちらこちらと探す。トイレにもいない、キッチンにもリビングにも子供部屋にも、どこにもいない。一人で外へ出たのかと玄関に行ってみたが、靴はきちんと並べられ扉には鍵がかかっていた。
「由岐菜!!」
呼んでも返事はない。どこからも人の気配もしない。庭に飛びだし隅へ行く。地面の上に由岐菜の髪についていたリボンだけが落ちていた。
警察の捜索でも何も分からず、由岐菜は帰ってこなかった。
「もらっていくよ……」
カスミは日がな一日、庭の隅にしゃがみ込んで呟き続ける。
「もらっていくよ……」
ある日、ブロック塀の隙間の向こうに、あの老婆の足が見えた。まっ白でつややかなその足は女の子のもののように見える。
「かえしてやるよ」
カスミは立ちあがると、ブロック塀によじ登った。
「由岐菜!」
由岐菜がそこに立っていた。由岐菜の足、由岐菜の手、由岐菜の肩、しかしその顔だけが老婆のものだった。
「かえしてやるよ」
老婆はにやにや笑いながら手に持っていた丸い風呂敷包みをカスミに向かって投げてよこした。カスミがそれに手を伸ばした瞬間、老婆は消えてしまった。
カスミは急いで包みをほどく。そこには、由岐菜の頭があった。
「由岐菜……」
「ママ、ただいま」
由岐菜は幸せそうににこにこと笑っていた。