ブログネタ:日傘持ってる? 参加中
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「夏だ! 海だ! 山だ!」
由香が突然叫んでも、居間に寝転んで団扇で首筋に風を送っている夫は、そのだらしない格好のままノーリアクションだ。
「ねえ、せっかくの夏休みなんだから、どこかいこうよー。海いこーよー、山いこーよー、高原いこーよー」
「夏休みって言ったって普通に三連休なだけじゃないか。それに夏休みが始まったばかりで、どこも人でいっぱいだぞ」
「いいじゃない。人がいっぱいの方が夏休み気分が味わえるでしょ」
夫はごろりと寝返りを打ち、団扇の陰に顔を隠した。
「いいじゃない、いいじゃない、一日くらいー」
「暑いからいやだ」
「じゃあ、涼しいところに行こう」
夫はごろりと寝返りを打ち、由香の顔を見る。
「涼しいところって?」
「デパート」
夫はごろりと寝返りを打ち、団扇の陰に顔を隠した。
「高いからいやだ」
「じゃあ安いところに行こう」
夫はごろりと寝返りを打ち、由香の顔を見る。
「安いところって?」
「ショッピングモール」
夫は右斜め上を見つめて少し考えてから起き上がった。
「よし。じゃ行くか」
「やったー!」
「それで何か買いたいものあるの?」
「日傘が欲しいのよねー」
「あれ? 日傘って持ってなかったっけ」
「スコールの時に雨傘のかわりにしたら骨が折れちゃって」
「スコールって……アマゾンじゃないんだから」
「買い物はやっぱりネットショッピングじゃなくって、手に取って商品を見て買うべきだと思うの!」
「Amazonじゃないんだから……」
「ほら早く着替えてよう。置いていくよお」
言いながら由香は手早く日焼け止めを塗り、二の腕までの長い手袋をはめ、ツバ広の帽子を深くかぶった。
「それ以上日除けはいらないんじゃないかな……」
夫のつぶやきは上機嫌で鼻歌を歌っている由香の耳には届かなかった。