戦う「眼」をつくる2 ~中心視野~ | Dr.Fの格闘クリニック

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格闘技ドクター・二重作拓也の「強くなる処方箋」


●ウォーミングアップ3
 次に、指やボールペンなどの対象物を使ったウォーミングアップです。
 右眼と左眼のちょうど真ん中、鼻のラインに人差し指もしくはボールペンをおきます。
 これを遠くから近づけたり、近くから遠く離したりを10回ほど繰り返します。途中、スピードに変化をつけると、両眼の調節機能の向上につながります。ごくゆっくり動かして、近づいてきているか、離れていっているか、その微妙な差異に気がつくでしょうか?また、急に速く動かした直後、像はクリアーに見えますか、それともぼやけてしまいますか?

 できれば、パートナーと二人組みになって、いろいろなパターンを試してみると面白いウォーミングアップ&トレーニングになります。

近づいてから離れるパターンが苦手な人、逆に一瞬離れてから急に近づいてくるのが苦手な人。真ん中から右に動かされるのが苦手な人、真ん中から左に動かされるのが苦手な人・・・・・。

簡単な眼の機能検査で、いろいろな個性や癖がわかってしまいます。


 先日、幸運なことに、ボクシング界で内藤大助世界チャンピオンをはじめとするトップ選手を何人も指導し、格闘技界でも有名な野木丈司の方とシュガー・レイ・レナードのDVDを鑑賞しながらお話するといううれしい機会がありました。

 私は「アフリカ系ボクサーに日本人がかなわない部分は何ですか?」と素朴な疑問をぶつけたところ、その方は「目が圧倒的に違う」とのことでした。

 アフリカ系のボクサーは、構えたときから眼をグワッと大きく見開いて、ランランと獲物を狙う眼をするんだそうです。歴史的・文化的・人種的な違いを考慮しつつも、「戦う眼」という部分で大変参考になるお話でした。


●レッツ“眼トレ”!

 それでは、ウォーミングアップが終わったら実際のトレーニングに移りましょう。
 人間の視野には、視線上の対象物を主に見る中心視野と、中心視野から外れた部分の情報をキャッチする周辺視野があります。格闘技や武道の試合において、一点を正確に打ち抜く、または蹴り抜くためには、相手をしっかり捕らえる中心視野に関わる能力が、目線でフェイントをかけたり、また予期せぬ角度から放たれる相手の攻撃に対応するためには、周辺視野に関わる能力が必要になってきます。これらのトレーニング法について、代表的な方法をご紹介します。

●中心視野に関連したトレーニング
 パートナーにパンチングミットを持ってもらい、選手は眼をつぶって構えます。ミットには、あらかじめ小さな目印をつけておきます。パートナーの「ハイッ」という合図、もしくは号令で、選手は眼を開けて、ミットの中の目印に向かってパンチを即座に打っていきます。打ち終わったら、またすぐに眼をつぶり、パートナーはミットの位置を先ほどと違う場所にすばやく移動させ、また合図(号令)を出します。
 
選手は視覚の情報が遮断された状態から、一瞬で対戦相手(この場合はパンチングミットの目印)の位置と自分との距離を把握し、その情報を元に正確な攻撃を繰り出さなければなりません。

 このトレーニングで対象物を正確に把握する能力はもちろん、格闘技・武道における微妙な距離感や間合いのコントロール能力が養われます。眼のトレーニングであり、脳のトレーニングであり、間合いをつかむトレーニングでもある、なかなかにおいしいトレーニングメニューのひとつです。慣れてきたら、合図の直後にパートナーにわずか数センチだけ、ミットを動かしてもらうと良いでしょう。「自分も動くけど、相手も動く」より実戦や試合に近いトレーニングが可能になります。

 話がちょっと脱線しますが、格闘クリニックではミットの使い方には大きく分けて2種類の方法を取り入れています。

ひとつは技を身体と脳にしっかりフィードバックさせるための使い方。本人にとって正しいフォームを作るために、ミットを持つほうは選手が打ちやすい状況をつくり、しっかりとパンチや蹴りを受け止めて、身体全体で返していくミットです。

 もうひとつは、当て勘や組み立て、距離感などを養うためのミット。パートナーは選手が打ちやすい状態をなるべくつくらずに、試合のように動きます。選手は、自分の技を当てにくい状態から動きや技術を組み立てる練習になります。
 初心者に満足度を与える場合は前者で十分ですが、上級者になるほど後者の当てにくい状況で当てていく「視覚情報の処理能力」と「技術の構成力」が養われます。2種類のミット、これからの方はぜひ試してみてください!