お金の貸し借りは嫌いなんですが、もともとの性格のせいか頼まれると断れないことが何度かあります。



私がソープの世界に入ってしばらくした頃、毎週のように指名で来てくれるお客さんがいました。

この人は下田さんといって、1年のうち半分を海外で過ごしている人でした。


今週は中国に行った、来週はニューヨークに行って来る…なんて話をよく聞いていました。




ある日、お店の友達と一緒に飲んでいるときに私の携帯に不思議な番号の着信がありました。


困惑しながらも電話に出てみると、下田さんからの国際電話でした。



私はすっかり下田さんを信用しきっていて、お客さんには絶対に教えない電話番号を教えていたんです。




下田「もしもし、聞こえる?下田だけど、今フィリピンにいるんだ。」



ユキ「下田さん?国際電話なんだね、どうしたの?」



下田「ちょっとトラブルがあってね…お願いしたいことがあるんだよ。」



ユキ「トラブル?何かあったの?」



下田「こっちで一緒に仕事するはずだった現地人がお金を持って逃げちゃったんだ。」



ユキ「ええぇ~!大丈夫なの?」



下田「それが、有り金全部持って行かれちゃって…こっちでの滞在費も帰りの飛行機代もないんだよ。」



ユキ「そんなぁ…どうするの?」



下田「お金を送ってくれないかな?帰ったらすぐに返すから。」



ユキ「………ちょっと考えさせて。」




このとき、断ったほうが良いとは思いました。


普通だったらこんなときにまず頼るのは、馴染みのソープ嬢ではなく友人や家族ですよね?


そんな考えも頭をよぎったんです。




それで一緒に飲んでいた友達に相談してみました。




ミサ「そんなの絶対貸しちゃダメだって!返してくれるかわかんないじゃん!」



ユキ「そうだよねぇ…どうしよう?」



ミサ「一人くらい指名の客が減ったってどうってことないじゃん、着信拒否しちゃいなよ!」



ユキ「うん………」



ミサ「だいたいさぁ、おかしいでしょ?なんで客にお金貸さなきゃなんないの?他に友達いないのかな?」




ミサちゃんの言うことはよくわかりました、私も同じように考えて迷っていましたから。





でも翌日の下田さんからの電話でやっぱり断りきれなかったんです。


『もし本当に頼る人がいなくてこのまま帰国できなかったら?』


『私に頼るくらいなんだから本当に切羽詰っているのかもしれない…。』



そう考えたら断ることなんてできませんでした。




ユキ「どうしたらいいの?お金送ればいいのかな?」



下田「いや、○○○銀行の口座に振り込んでくれればこっちでおろせるから。」



ユキ「わかった、じゃあこれから振り込んでくる。」



下田「ありがとう、来週には帰るからすぐにお店に行って返すよ!」




お金を振り込んでスッキリしました。


悩んでいたけど、とりあえず人助けができたんだと思えましたから。




それに下田さんという人を信じていたんです、約束通りに来週にはお金を返してくれると思っていました。




翌週、下田さんからは連絡がありません。


お店に来る予定の次の日、ようやく電話が来ました。




下田「ゴメン、昨日行こうと思ってたんだけど、忙しくて行かれなかったんだよ。」



ユキ「うん、じゃあいつ来れる?」



下田「それがまたすぐにフィリピンに行かなくちゃならなくなって…」



ユキ「………わかった、また帰って来たら連絡してね。」




このとき少し下田さんを疑いはじめていました。


でも毎週お店に来て、ときにはダブルで入るような下田さんが、私から借りたお金を返せないとは思えなかったんです。




これからしばらくの間、下田さんからの連絡は途絶えました。



このことでいろいろ考えました。

『もう私には通う気がなくなって、今まで使ったお金の一部だけでも取り返したかったのかも?』


『最初から返す気なんてなかったのかもしれないなぁ…』





ようやく下田さんから連絡があったのは2年後でした。




下田「もしもし、番号が変わってなくて良かった!ようやく仕事の目処がついたんだよ、借りたお金がやっと返せる!」




この電話にとても嬉しくなりました。


やっぱり信用して良かったと思えたんです。



下田さんはフィリピンでの事業の失敗で財産の殆どを失い、私にお金を返せなかったようです。


それでもずっとお金のことを気にかけてくれていて、お金ができてすぐに返してくれました。




『このお客さんを信用して良かった』



と思えた出来事のひとつです。





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