私はマットが得意です。
当然マットから滑って落ちるなんてことはないと思っていました。
自分で滑って落ちることはなかったんですが、マットから落ちるお客さんに引っ張られたり、急に立ち上がったお客さんに押されて一緒に何回か落ちています。
そういう経験を何回かして、お客さんがマットから降りるときには、手は差し伸べても身体は安全な場所に離れるようになりました。
でも、ひどい転び方をして身体中を痣だらけにしたことがあります。
その日、常連の桜井さんが朝一番でお店にやってきました。
桜井さんは帰国子女で、浴槽に浸かりながら自分でシャンプーしたり身体を洗うので、その間私はやることがないんです。
自分で身体を洗うし、マットもやらない楽なお客さんでした。
その日もいつもと同じように桜井さんが入浴している間ベッドでボーッとしていたんですが、桜井さんが来ることを知らされていなかった私はシャンプーを浴槽の近くに置いておくのを忘れていたんです。
それを桜井さんに指摘されて慌てて用意しに行ったときです。
急いで浴槽の近くまで行ったら、足元が滑って転んでしまいました!
このとき、素直に転んでおけば良かったんですが、転ばないように手をついたのが悪かったんです。
手をついた場所も滑ってしまって肩から転ぶハメに。
桜井「うわっ、大丈夫!?」
ユキ「イタタタタ…大丈夫、なんか滑っちゃったみたい。」
桜井「どこ?………本当だ、これローションだよ。」
ユキ「え~っ、使ってないのに、何で~(汗)」
桜井「昨日のじゃないかな?」
私は朝出勤すると必ずシャワーを浴びるんですが、そのときに浴槽やタイルを簡単にシャワーで流すんです。
そのままだとなんとなく気持ち悪いからなんですが、この日も同じように流していました。
前日の夜に残されたローションはカラカラに乾燥してしまいます。
私がシャワーをかけたのと、桜井さんが入浴して溢れたお湯で乾燥したローションが溶け出したんでしょうね。
その溶け出したローションで滑って転んだというわけです。
この頃、中途半端な前髪を入浴のときに押さえる必要があったので、カチューシャを使っていたんです。
運悪く転んだときにカチューシャを手に持っていたためギザギザの部分に乗ってしまい、手と肋骨にポコポコと1センチ間隔で穴が開いてしまいました。
いちばんひどい傷は深さ1センチほどあったので、今でも右の肋骨の上にうっすらと残っています。
マットが終わったあとは、浴室のタイルにも大量にローションが残っているので、シャワーで綺麗に洗い流す必要があるんです。
どんなに急いでいてもこれは省いてはいけない仕事。
軽い怪我で済みましたが、頭でも打ったら命にかかわりますもんね。
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