映画「フェンス」 平成29年6月7日DVDリリース (日本公開なし)★★★☆☆

 

 

1950年代の米ピッツバーグ。

トロイ・マクソンは、妻ローズと息子のコーリーと暮らしている。

彼はかつて野球選手だったが、 人種差別によってメジャーリーガーの夢を絶たれ、今では苦しい生活を送っていた。

ある日、コーリーがアメフトのスカウトマンに見出され、NFLを目指す大学推薦の話が舞い込んでくる。

しかし、トロイは進学に反対、夢を見過ぎたと責め立て、家の裏庭のフェンス作りを強制的に手伝わせる。

息子の夢を完全に潰してしまったトロイ。

親子関係に亀裂が走り、ふたりを見守っていたローズとも激しく衝突することになるが・・・。           (Filmarks)

 

 

アカデミー賞に4部門ノミネートされ、ヴィオラ・デイヴィスが助演女優賞をとった作品にもかかわらず、まさかのDVDスルー!

 

同じ場所でひたすらしゃべりまくるシーンばかりで、これ「舞台劇じゃん!」って思ってしまいますが、

それもそのはず、元ネタはトニー賞ピューリツア賞受賞の評価高い舞台劇。

それをデンゼル・ワシントンの監督で映画化したということです。

主要キャストはほぼ同じだから、優れた舞台劇をたくさんの人に見て欲しい・・・ってことでしょうか。

 

ピッツバーグの街中を走るゴミ収集車の後ろに乗って仕事するトロイと親友のボノ。

給料をもらうと酒を買って帰宅し、家の前で夕飯まで家の前でしゃべるのですが、

そうしていると、妻のローズが顔を出し、疎遠だった長男のライオンズがやってきて・・・

セットのまえで、セリフでストリーが進行する、まさに舞台劇です。

 

設定など情報はすべてセリフで語られるんですが、二人の息子のうち

ライオンズはトロイと前妻との子どもで、一緒に住んでいるコーリーはローズとの子どもだということ。

トロイには強盗の前科があり、服役中にボノと知り合い、野球に出会い、ニグロリーグで活躍しますが、

黒人の壁で大リーガーにはなれず、野球を諦めてしまいます。

今の夢は、収集車の(作業員ではなく)運転手になりたい、という、ささやかなもの。

 

長男はミュージシャンになる夢があり、次男はフットボール選手として注目され、大学チームにスカウトされているものの、

トロイは息子たちの夢には大反対です。

10ドル貸してくれというライオンズをあっさり断り、フットボールの練習のためにスーパーのバイトを辞めたコーリーを激しく叱責します。

 

「堅実な仕事につけ」というのはどの親でも共通に考えることですが、どうも同じ親として共感できないところがあります。

私もけっこう話を盛ったりするタイプなので偉そうに言えないですが、トロイの話は「ほら」ばっかりで、

これは「話をおもしろくしよう」というのではなくて、ただただ自分を誇示したいからなんです。

そして、新しい才能は全力でつぶしにかかる。

 

だいたい、未成年の子どもに

「オレの家から出ていけ」

「誰のおかげで飯が食える?」

なんてことを平気で言いはなつ神経がわかりません。

 

しかも「スポーツ界で黒人が差別されている」というのも、トロイの時代はそうだったかもしれないけど。

この時代にはすでにジャッキー・ロビンソンも大リーガーだし

むしろ「自分よりビッグになりそうな息子に嫉妬している」のが本心じゃないかと・・・

 

イマイチ伝わりにくい野球ネタを中心に偉そうに喋りまくるトロイは本当に不愉快なんですけど、

身振り交えてテンポよくしゃべりつづけます。

 

そして、いつもこの長話に付き合ってくれるのが親友のボノ。

ニコニコしながら聞いてくれる丸くて可愛い彼の存在がなければ、我々は、ちょっと耐えられませんね。

 

 

 

やがてトロイは(免許を持たず、字も読めないのに)収集車の運転手に採用されますが、新たな問題が。

 

「ローズはいい女だ。裏切ったらダメだ」

「必ずしっぺ返しが来るから、関係を終わらせろ」

というボノの説得もむなしく、トロイはバーの女アルベルタとの関係を続け、彼女は妊娠してしまいます。

 

またトロイには脳に障害を負ったガブという弟がいるのですが、その障害は戦争で負ったもの。

なので3000ドルの見舞い金が支給され、トロイの家族の住んでいる家はその金を流用したものなのです。

だから「オレの家だ」とか、偉そうにいえるものじゃないんですけどね。

 

そして字の読めないトロイは、ガブが施設(精神病院?)から出られなくなる書類にサインしてしまいます。

 

そしていよいよとなって、自分の不貞と子どもが生まれることをローズに告白するトロイ。

ここで、今まで耐えてきたローズの怒りが爆発します。

ヴィオラ・デイヴィス、オスカー女優の名演です!

 

18年間、築いてきた結婚生活を壊したくなくて、夫のいいところを少しでも探してずっと耐えてきた・・・

ほとばしる想いを吐き出します。

それでも、アルベルタが出産時に死んでしまったことを知ると、不倫相手との間に生まれた娘を引き取り

我が子同様に育てるローズ。

 

当時黒人女性が自立して生きていくのは今より難しい時代なんでしょうが、現代にも通じる女性の強さと優しさを見た気がします。

 

ラストはトロイの葬儀の日。

可愛らしい少女に成長したレイネル(アルベルタの産んだ子ども)が、腹違いの兄たちと再会します。

 

 

見ごたえのある作品であることは確かなんですけど、なんでDVDスルーになったのか?

残念と思う一方で、納得してしまうブブンもあります。

 

ともかく、トロイがクズすぎ!

妻や子どもに自分の価値観をおしつける「父権主義者」だけなら、「寺内貫太郎」で育った私たちには受け入れられるんですが、

ねじれた劣等感の塊で、適当なことばっかりペラペラしゃべる、クソオヤジです。

 

 

50年前、ちゃんと学校に行けなかった人はいても、字が読めないって、まあ、日本にいたらありえないから

日本人からしたら、「字が読めない」あたりで、ちょっとひいてしまいますね。

運転免許ないのに市のトラックの運転手になるとかもありえないし・・・

さらに、50歳過ぎて不倫してて子どもまで作るなんて・・・!

ここでとどめを刺されて、、あ~あ、となってしまうわけです。

劇場公開しなくてよかったかも。

 

タイトルの「フェンス」は、トランプ大統領が作ろうとしている「あれ」みたいですが、

ローズの希望で家のまわりに作ろうしていた手作りの木の柵のことです。

でも、精神的部分では「あれ」と共通点があるかもしれません。