映画「美しい星」 平成29年5月26日公開 ★★★☆☆
原作本「美しい星」 三島由紀夫 新潮文庫
予報が当たらないと話題の気象予報士・重一郎(リリー・フランキー)は、さほど不満もなく日々適当に過ごしていた。
ある日、空飛ぶ円盤と遭遇した彼は、自分は火星人で人類を救う使命があると突然覚醒する。
一方、息子の一雄(亀梨和也)は水星人、娘の暁子(橋本愛)は金星人として目覚め、
それぞれの方法で世界を救おうと使命感に燃えるが、妻の伊余子(中嶋朋子)だけは覚醒せず地球人のままで……。(シネマ・トゥデイ)
(お父さんがテレビに出ている気象予報士、というのは平均的とはいえないかもしれないけれど)
一般家庭であるところの杉本家の人々が、実は自分たちは異星人で、人類を救わなければ、と覚醒する話。
原作は1962年に書かれた三島由紀夫の小説で、50年以上たっているので、日常部分の設定はかなりいじっているものの、
SFの部分はほぼ近いです、というか、こんな昔にこんな小説を書ける三島って、すごい人です!
「20センチュリーウーマン」の中で、当時を振り返るナレーションで
「核戦争より、地球温暖化が深刻に考えられるようになるとは、誰もが考えなかった」
というようなことを言っていたのですが、これがそっくり「美しい星」にもあてはまります。
東西冷戦の続いていた1962年当時、地球を滅ぼすのは人間の作った「核兵器」だとされていて、
父の重一郎は、ソ連のフルシチョフに手紙を書いたりするんですが、映画では重一郎は「当たらないお天気おじさん」で
テレビの生放送中に地球滅亡の危機を叫んで変なポーズを取っちゃうんです。
金星人にめざめた暁子(橋本愛)が自称金星人の男といっしょに宇宙に交信するへんな動きも印象的で
なんかこればかりが記憶に残ってしまいます。
お天気おじさん、宅配ドライバー、「美しい水」のマルチ商法、広研主催のミスコン・・・
50年前には絶対になかったものを取り入れてるのは気にならないですが、
このポーズにインパクトありすぎて、結局これしか覚えていないというのは、どうなんだろう・・・って思いましたが。
宇宙と交信するのだったら、それなりの、ホルスト級のクラシック音楽が当然使われるのかと思ったら、
ヘンデルのサラバンドには酔いしれましたけど、
メインテーマは平沢進という日本人の作った「金星」という曲なんですね。
これが、ショボい!
ただ、キャスティングは最初違和感あったけれど、役にハマっていったというか、役の方が近づいてきたというか、
素晴らしかったです。個人的には佐々木蔵之介です!
父 重一郎 リリーフランキー (火星人)
母 伊余子 中島朋子 (地球人 原作ではたしか木星人)
長男 一雄 亀梨和也 (水星人)
長女 暁子 橋本愛 (金星人)
この家族、恐ろしく似てないんですけど、それぞれに自分は異星人であることに目覚め、
ほかの人間より高い位置から俯瞰して観られる自分たちこそが行動を起こさなければいけないという使命感から
だんだん(はた目には)おかしくなってしまいます。
とくにメディアに登場する父は生放送中に
「地球人のみなさん、まだ今なら間に合います」と、真面目な顔して、そしてあのポーズ!
彼らはいたって真面目だけれど、危機感をあおって人を勧誘したり、ものを売りつけようとする変な商法にもみえて、非常にあやしい。
自分たちが異星人だと覚醒しちゃう人のほうが、自分のことがわかってないから、すぐ人にも騙されてしまう。
暁子は「自分も金星人だ」というシンガソングライターの竹宮に惹かれ、金沢まで行っちゃいますが、
実は彼は「女たらしの地球人」で、「夜中に目が覚めて曲が降りてきた」という「金星」の曲も仲間の作ったもの。
暁子に変な薬をのませて強姦しちゃうんですが
暁子は、その後産婦人科で妊娠を告げられても「処女懐妊」だと主張し、竹宮の本性をしっても
「金星人を産むには触媒がいる、あの人はその触媒」だと、金星人を身ごもったといいはります。
私は、こういうタイプの人間(自称異星人)がとっても苦手なので、終始、不愉快さが先にたってしまったのだけれど、
人生の最後には、本編のラストで出てきた
「永い任務ご苦労様。ふるさとで本当の家族が待っている」
みたいな言葉で送られたら、淋しさが軽減されるかも、なんて考えながら見ていました。
ところで、大杉家の人々がUFOと遭遇する場所は、どこなんでしょう??
アメリカだったら「エリア51」とか「ロズウェル」とかありますけど、東京から病人連れて車で行ける場所なんて・・・どこ?
原作では、最初に遭遇するのが大杉家のある飯能の羅漢山(実在)で、ラストは「東生田駅裏手の広場」となっていました。
「東生田駅」は今ないので、架空の駅かと思ったら、京王線で
西生田駅→よみうりランド前駅
東生田駅→生田駅
という駅名変更があったので、実在の駅なんですよ。
しかも、戦時中は、東生田駅は、大日本帝国陸軍登戸研究所の専用駅だったんですって!
登戸研究所といえば、ひそかに兵器開発が行われていた場所。
なんか、ぞくぞくします。
なんか、こっちのほうを掘り下げて欲しかったです。