映画「カフェ・ソサエティ」 平成29年5月5日公開 ★★★★★
(字幕翻訳) 松崎広幸)
1930年代。
ニューヨークに暮らす青年ボビー(ジェシー・アイゼンバーグ)は、刺激にあふれた人生を送りたいと願いハリウッドに向かう。
そして彼は、映画業界のエージェントとして大成功を収めた叔父フィルのもとで働く。
やがてボビーは、叔父の秘書を務める美女ヴォニー(クリステン・スチュワート)のとりこになる。
ひょんなことから彼女と距離を縮められて有頂天になり、結婚まで考えるようになるボビー。
しかし、彼女にはひそかに付き合っている男性がいて……。 (シネマ・トゥデイ)
ウディ・アレン監督の新作は、監督の分身としか思えない冴えないユダヤ系青年ボビーをジェシー・アイゼンバーグが演じます。
彼は「ローマでアモーレ」のときもいたけど、この時はアレン監督も出演していたから、そんなに「分身感」なかったんですけど・・・
出てくる人みんなが早口でよくしゃべり、ナレーションもつくから、冒頭から音声による情報量がすごく多いです。
(いきなり観客に向かって語りかける、いつもの演出は今回は封印のようです)
冒頭は、ハリウッドの映画業界を牛耳る大物プロデューサーのフィル・スターンの忙しい仕事ぶりをナレーションで・・
連日の派手なパーティが催され、それに集まる全米の大スターや著名人たち。
きらびやかな上流階級の社会と、それを夢見て集まる人々で、当時のハリウッドはバイタリティにあふれていたんでしょうね。
ここもその豪華さはビジュアルよりも、そうそうたる俳優や大物の名前で飾り立てられます。
ロバート・テイラー、ジョン・クロフォード、ジェイムズ・ギャグニー、グレダ・ガルボ、サミュエル・ゴールドウィン、ビリー・ワイルダー・・・・
ある日彼のところへ、姉のローズから電話がかかり、息子のボビー(フィルにとっては甥)がそっちで働きたいというから
何か仕事を紹介して欲しいといい、後日、新天地での希望に満ちたボビーがハリウッドに降り立ちます。
ここでボビーの家族の紹介。
父のマティと母のローズはユダヤ系で、兄弟はボビーを含め3人でみんなブロンクス生まれ。
姉のエベリンは教師で、夫ともども堅実な家庭をきずいているものの
兄のベンは(バー経営は表向きで)実際は犯罪の総合総社みたいなギャングなのです。(ボビーはこのことをしらない)
実家も地味な家庭なんだけど、兄が大金をいれてくれたりするから、この時代にハリウッドまでの長距離電話で雑談するような
不思議な金銭感覚をしています。
ボビーは何日も待って、ようやく叔父のフィルに会えるのですが、なかなか仕事はみつからず、とりあえずフィルの雑用をやることに。
ハリウッドに不慣れなボビーを案内するように秘書のヴォニーが呼ばれるのですが、そのヴォニーがクリステン・スチュワート。
あまりの美しさ、飾らない天使のような内面に、ボビーは一目で恋に落ちてしまいますが、ヴォニーは一言、
「車のライトをみて動けなくなってる鹿みたいでかわいい・・・」と。
気さくな彼女はボビーに親切で、ハリウッドスターの豪邸見学に連れていてくれるのですが、
彼女自身はスターへのあこがれはなくて、噂と自慢話と悪口だらけのハリウッドにちょっとうんざりしていて
「スターは見栄を張らなければいけなくて・・・・哀れだわ」
ヴォニーには(いつも旅行中の)恋人がいるといわれ、片思いと知りつつも、彼女といる時間は楽しくてたまりません。
「片思い、それが人生よ。だからラブソングが売れる」
「恋愛は非理性的」
「あきらめずに花を贈り、口説き続ければきっと夢はかなうわ」
と、まわりもボビーを応援してくれて、なんか楽しい片思いです。
ヴォニーの恋人はなんと叔父のフィルだったことが判明しますが、ボビーはまだこのことを知りません。
もちろんフィルには25年連れ添った妻がいるから、これはゲス不倫で、ふたりの交際はもちろん極秘でしたが、
ある日フィルから別れを切り出されてしまいます。
失恋したヴォニーはボニーの元へ行き、彼女を慰めながらハリウッド中の映画館でデートを重ねるうちに
ボビーとヴォニーの恋は本物の恋に発展します。
「結婚してニューヨークへ行き、グリニッジヴィレッジに住もう」
「詩人や画家たちがすんでいるところね」
ボビーは真面目な仕事ぶりが評価され、雑用係から「脚本を読む係」に昇格。
フィルから自身の不倫の秘密も打ち明けられますが、まだ、その相手がヴォニーだとは気づかず。
ところがヴォニーが恋人にプレゼントしたと話していた「ヴァレンチノの自筆のラブレター」を見つけて、すべてを悟ります。
結局フィルは妻に財産を残して離婚し、「成功者と純真な若者」で迷ったヴォニーは、成功者のフィルを選んだのでした。
傷心のボビーはニューヨークに帰り、兄たちの援助を得て、ハリウッドで見てきたハイソなナイトクラブをオープンし、
きらびやかな社交場「カフェ・ソサエティ」にはセレブたちが押しかけ、連日大盛況。
ヴォニーと同じ名前のグラマラスな美女、ヴェロニカ(ブレイク・ライブリー)と結婚し、公私ともに順風満帆でしたが、
ある日、店に叔父のフィルが妻のヴォニーを伴ってやってきます。
忙しいフィルにかわって、今度はボビーがニューヨークを案内して・・・・・
というような話です。
ジェシー・アイゼンバーグが、本当にウディ・アラン彷彿で、時空を超えて、大昔に観た「アニーホール」なんかを思い出してしまいました。
あの作品のなかでもハリウッドとニューヨークが対比的に登場して、やっぱりアートやカルチャーの都はニューヨークだよね、
というところに落ち着くから、結局、彼はNY好きなんですね。
当代一の美女を二人のヴェロニカに配し、ドレスもシャネルが提供しているそうで、普通にゴージャスなんですけど
それ以上に(たとえ醜男でも)美女を落とせそうな洒落たセリフや名言が絶妙のタイミングで散らばっていて華やかでしたが、
字幕を追うのが忙しくて、充分ビジュアルのほうは堪能できなかった気がします。
「毎日を最後の日と思えば、後悔なく暮らせる」
「(知りたくてたまらないことほど)答えをしらないほうがいい」
なんて、誰が言ったか忘れたけど、まったくもって当たっています。
ストーリーにはそんなに絡んでこないエピソードも無視できません。
たとえば、
夢のハリウッドに出てきたものの、忙しいフィルとはなかなか会えず、ボビーはヒマつぶしに娼婦をホテルの部屋に呼ぶんですが・・・
遅れてやってきた娼婦のキャンディは、本名シャーリーでユダヤ系。
しかもお金のために今日が初仕事と知って、ボビーは急にやる気が失せ、「お金はあげるからもう帰って」と。
「私はそんなに魅力ない?」と嘆くシャーリーに、ズボンを脱いだりはいたり、20ドルを出したり引っ込めたり・・・・
結局シャーリーには帰ってもらうんですけど、このやりとりがいかにもウディ・アレンの脚本で、ホントに笑いました。
ギャングの兄は、実家では気のいいフツーの兄貴なんですが、邪魔者はすぐに殺してコンクリート詰めにしてしまうところとか、
こんなコメディタッチでいいんでしょうか?と思いつつ爆笑!
ベンとは真逆に真面目一筋の姉夫婦とか、天然な両親や、出世欲いっぱいの叔父とか・・・
ステレオタイプで登場することの多いユダヤ系アメリカ人の様々なキャラクターを登場させてくれるのも、ウディ・アレンならではです。
面白かった~!!大満足です。
ひとつだけ気になったことが。
「オスカーを二度とったハワード」って誰なんだろう??