映画「グレートウォール」平成29年4月14日公開 ★★★★☆
世界を旅するウィリアム(マット・デイモン)ら二十数名の傭兵部隊は、
シルクロードの中国国境付近で馬賊に攻撃された上に謎の獣に襲われる。
生き残ったウィリアムとトバール(ペドロ・パスカル)は、禁軍が守る万里の長城にたどり着くものの降伏を余儀なくされる。
戦略を担うワン(アンディ・ラウ)によって処刑を免れたのち、自分たちを襲った獣が饕餮(とうてつ)という怪物であり、
万里の長城がその群れを都に入れないための防壁だと知るウィリアムとトバール。
やがてすさまじい地響きと共に無数の獣が迫ってきた。 (シネマ・トゥデイ)
トランプ大統領の発言から「万里の長城=グレートウォール」が定着しましたが、
最近ちょっとご無沙汰のマット・デイモンが中国映画にでるという・・・
「マンチェスター・バイ・ザ・シー」に出ておけばよかったのにね・・・と複雑な思いで鑑賞しましたが、これがけっこう面白かった!
プロモーションではあえて「隠してる」感じなので、言っていいか迷うんですが、これ、8割がた「怪獣映画」なんですよ。
チラシにもほぼ怪獣の姿はスルーされてます。
厳密にいうと、右上のチラシの壁に群がってるのがそれです。
チラシの実物をみても虫か砂粒にしか見えませんけど、この一粒一粒が体長2~3mくらいの饕餮(とうてつ)という伝説の怪獣なのです。
ブラピ主演の「ワールド・ウォーZ」→ゾンビ映画の事実がプロモーションで見事に隠蔽されてたのを思い出しましたが
本作は普通に怪獣映画で推してしまっていいと思いますけどね。
史実に忠実な歴史映画なんて誰も間違えないでしょうから・・・・
本編はこんなクレジットから始まります。
「1700年以上かかって建造された人類の脅威ともいえる万里の長城は8850キロにもわたり、事実と伝説が混合されているが
これはその伝説のひとつである」
・・・ということは、史実は思いっきり無視したエンタメ大作ということで、お気楽に楽しめばいいということですね。
砂漠を馬で疾走する西洋人の傭兵たち。(どこかにマット・デイモンがいるんでしょうが、みんな髭ぼうぼうで見分けがつかず)
彼らの狙うのは中国の4大発明のひとつの黒色火薬。
ただそれはなかなか見つからず、仲間は20人も死んで、地図も薬も食料もなく、方位磁針を作ろうとして持ってきた重い磁石だけ。
もう撤退しよう・・といっていたところへ、人間ではない生き物に襲われ、闘っているうちにそいつの手を切り落とすことに成功。
役に立ちそうもない「手」と「磁石」を持っていたことが、予想通り、今後の展開に大きくかかわってくることに・・・
今度は馬賊に襲われ、必死で逃げていると、急に目の前が開け、立派な城壁とおびただしい数の兵士が現れます。
この時点で生き残っていたのはウィリアム(マット・デイモン)とトバールのふたりだけ。
たどり着いたのは万里の長城の一部で、英語の話せる女性幹部リン隊長の通訳で彼らは取り調べられ、殺されると思いきや
あの謎の生物の手を持っていたおかげでなぜか助かります。
あれは饕餮(とうてつ)という60年に一度現れる無敵の化け物で、首都をそれから守るために万里の長城が築かれた・・・というわけです。
ただの羊の進化形という感じですが、これじゃちょっと映画にはならないので
↑ こんなの!
めっちゃ不細工でしつこそう。
そして予定より早く、この怪物が何万匹も攻めてくるのです。
ふたりも「饕餮の手をきりおとした勇者」ということで、縛られてはいるけれど、一等席で戦いをみられることに。
彼ら「禁軍」は男女混合の勇敢な兵士連合で、太鼓の音に合わせて整然と攻撃を開始します。
黒い鎧は歩兵たち、赤い鎧は射手たち、そして青い鎧は全員女性兵士でバンジージャンプで敵に襲いかかります。
火薬をつけた石に火を放ち投げるのはけっこう効果あったようですが、饕餮たちはどんどん城に近づいてきて、
「鶴軍」とよばれるバンジー部隊は、ほとんど彼らの美味しいエサになっちゃってる感じです。
やがて、身体に矢を付きたてながらも何匹かの饕餮が壁をよじ登って城に侵入、たくさんの兵士が殺されますが、
ウィリアムとトバールの活躍で今日のところはなんとか退散してくれて、ふたりは将軍に褒められて、
お風呂で見違えるほどきれいになって、食事も与えられます。
城にはもうひとり、バラード(ウィリアム・デフォー)という西洋人がいて、彼も黒色火薬狙いでやってきたのですが
リン隊長やワン軍司の英語の先生としてここに住み着いていたのでした。
とっとと火薬を盗んで逃げたいと考えているトバールとバラード。
一方、ウィリアムは、自分たちを信頼して心を開いてくれるリン隊長たちに応えて同じ旗の下で戦おうという気持ちが強まり
彼らの間で仲間割れがおこったりします。
ストーリー自体はグダグダなのでこのくらいにしておきますが、この映画、なにがいいって、まず、ビジュアルです。
北京オリンピックの開会式とか、映画で言ったら「王妃の紋章」を思い出すような豪華絢爛のイーモウ監督の王朝絵巻がすごい。
「弓の達人」というのは、矢をつがえるのも目的に到達するのにも時間かかるから、
ホークアイもアベンジャーズのなかではワンテンポ遅れる攻撃でイラっとしてたんですが
ここでのウィリアムの弓はやたらかっこよかったですよ。
怪獣映画にでてくる怪獣は数十メートルが当たり前ですが、韓国映画のグエムルを観た時、
その「人間よりちょっと大きい程度」のグエムルが追いかけてくるの、ものすごく怖かったんですが、
最近はこの「ほどほどの大きさ」が主流になってるような気がします。
「メイズランナー」に出てくるのもこのくらいでしたよね。
建造物や武具や衣装やいろいろなものがいちいち美しいんですが、それに対して饕餮はめちゃくちゃ不細工!
キングコングにでてきたスカルクローラーみたいでしたが、彼らも女王以下、ちゃんと統率がとれていて
これもまた「集合の美学」であります。
そういえば、キングコング(1930年の方)のオマージュ的なところも何か所かありました。
見知らぬ場所に迷い込んで、兵士にとりかこまれ万事休すのところ、それに、傷ついた饕餮を檻に入れて運んで
見世物のようにされるところ、その後の展開もなんか似ていました。
場内のきらびやかな美術は「王妃の紋章」でしたが、あの真っ赤な岩がごろごろした砂漠は、
同じイーモウ監督の「女と銃と荒野の麵屋」を彷彿とさせられました。
ただただ見てて楽しい映画ではありますが、
「合言葉は信任(シンレン・・・TRUST)」というメッセージが爽やかに貫かれていて、とても後味のいい作品でした。
ハードルを高くしなければ、けっこうオススメです。
(追記)
調子に乗ってオススメしてしまったんですが、映画としてはけっして褒められたものじゃないので、一応お断りしておきます。
都を守る精鋭部隊の長が、どこのスパイともしれぬ男たちに自分たちの戦術をすべて見せるのも不自然だし
饕餮にやられて城を捨てて熱気球で脱出というときになって、ウィリアムに対して
「なんでも持って行け!見たことを世界に伝えろ!」というのですが、こんなのありえないし。
国の秘密を知りえたものはすべて殺すというのが中国の歴史の常識ですよね。
あれだけたくさんの物資の備蓄のある城で、ウィリアムのもってた磁石ひとつを最後まで使いまわすのもあり?
そもそも話の流れとしては、傭兵仲間のウィリアムとトバールがいったんは失った「信任」を取り戻す話なんですけど、
「お前はウソつきの人殺しだ。過去は消えないし英雄にもなれない」っていう最初の方の伏線が無視されてるのもいかがなものかと。
禁軍のへんな戦法をいいだしたらきりないし、突っ込みどころ満載ながら、それでも面白いかつまらないかと言ったら
「面白い」方に振れそうですかね。