映画「牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件」 平成29年3月18日公開 ★★★★★

 

 

 

中学生のスゥは移民の子で、学校では不良グループのメンバーと仲良くなったり、 

同級生にはプレスリーに憧れたりと多感な時期を過ごしていた。 

兄貴も頭は良いがゴロツキと仲良くなっていく。 

そんな中不良グループのボスの彼女だというミンという女の子に淡い恋心を抱くようになる。

(WIKI) 

 

 

上映時間なんと3時間56分、予告編を入れると4時間越え。しかも休憩時間なし! 

雨降りの平日で、しかも一律2200円の料金設定ならゆったりみられると思ったら、 なんとほぼ満席で驚いたんですけど、

連休中は満員札止めだったそうです。 

 

25年前に3時間バージョンで公開された本作、DVDにもならずに幻の名作といわれていたのですが 

監督没後10年の今年、デジタスリマスターの4時間版が劇場公開されることになりました。

 それを求めてこれだけ映画ファンが集まったんですねっ! 

 

最初は、校長にクレームをいれてる父親の声から始まります。 

息子は採点の手違いで夜間部になってしまったが、こんな悪い成績をとる子ではない・・

なんか「エリザのために」のパパみたいですが、この息子のほうが主人公の少年で

このあと、彼の家族や同級生が次々に登場しますが、

ほかのドラマみたいに顔と名前と関係がわかるような 説明的な進行がまったくないので、名前と顔が一致しづらい・・・ 

かなりたってから少年の名前が小四だとわかりますが、

兄弟は4人もいるし、 クラスメートは同じ制服で同じような黒髪の短髪で見分けがつかず・・・ 

でもずっとみてるうちに分かってくるのは快感でもあります。 

 

最後まで分かりづらかったのが「小公園」という単語。

「小公園に行く」とか言ってたので最初は場所だとおもったんですが 

子どもの愛称に「小」がつくことが多いのが分かってからは、人名だと信じてました。

 ところがこの人物はなかなか登場せず、結局、これは「不良のチーム名」ということがわかります。 

 

「小四」は愛称だから(4人目の子どもっていうことかな?)先生からは本名の「張震」で呼ばれるし・・・ああ難しい

 小公園のリーダーが「ハニー」で彼がいない間幅をきかせてるのが「滑頭」、

 対立しているチンピラグループが「217」でこのトップが「山東」で 彼の彼女が「クレイジー」、手下が「葉っぱ」「卡五」など。 

滑頭とか卡五なんて字幕に出されても読めないし・・・

 

小四は5人兄弟で 

長女 おしゃれな大学生 

長男 (老二) ビリヤードにはまって借金をつくってる高校生 

次女 敬虔なクリスチャン 

次男 (小四) →主人公

三女 いつもボタンがとれたとさわいでる小学生 

 

このほかの主な登場人物は 

小猫王(リトル・プレスリー)  ハイトーンヴォイスの小柄な少年  小四の親友 

小馬    金持ちの転校生 

飛機    小公園グループのクラスメート

小虎    バスケットの得意な同級生 

そして、男たちの心を惑わすファムファタールの小明と 

男関係にゆるゆるの小翠という二人の女子中学生・・・・ 

 

↑ここまでわかるのに3時間以上かかってしまったかもしれません。

見た後でパンフレットの相関図をみてすっきりとしました。

 

 

 

 「わかりづらい」というのは(字幕がやや不親切というのはありますが)けっして映画のクオリティを下げるものではなく 

「状況がのみこめないながらも、ずっとこのまま観ていたい」という映像が4時間続くのですよ! 

 

ストーリー自体はWIKIからの抜粋(↑)のような、不良やごろつきグループ内のどうでもいい抗争や色恋ざたでして 

ショッキングな結末も実際にあった少年事件が元になっています。

 

 4時間の映画のストーリーを説明するのはやめておきますが、話の顛末自体はそれほど重要でない。 

一番すごいのは、彼らが青春を過ごした1960年という時代が、日本人の私たちにもまるでそこに居合わせたかのように 

身体丸ごとで感じられる、ということなんです。 

 

「悲情城市」の舞台は終戦後の台北でしたが、玉音放送の時に生まれた赤ちゃんの世代が十数年後、

ちょうど本作の小四たちの年齢となるわけです。(監督のエドワード・ヤンもこの世代)

 

悲情城市では、日本統治下のときから台湾にきていた内省人と、大陸からやってきた(日本語のわからない)外省人、

それに日本人が登場していて、内省人の側から描いていましたが、本作では、戦後大陸からやってきた外省人の目線ですね。

 

ちなみに私の大好きな「KANO」の舞台は戦前の日本統治下の台湾なので、

漢民族(内省人)、日本人、高砂族という見た目も文化も違う高校生たちが野球でひとつになってたんだけどなぁ・・・

 

WIKIのあらすじでは、小四の家族は「移民」となってますが、戦後上海からやってきた外省人の両親はけっこうプライド高くて

「上海人のインテリくささは捨てろ」とか、いわれてたから、今の「移民」の感覚とはちょっと違っています。

 

「日本と7年も戦った」という外省人のセリフがありましたが、彼らは、もちろん日本語もわからない生粋の中国人。

それでも住んでる家は典型的な日本家屋だから、兄弟のプライベート空間が押し入れの上下だったり

あのトイレの木製の引き戸とか、「昔の古いおばあちゃんの家」を観てるみたいで、中高年の日本人には非常に懐かしいです。

 

あんまり仲の良くないお隣のお店の人たちはどうやら内省人のようで、

流れてくる日本語の歌に小四の家族はいつもいらいらしています。

橋幸夫の「潮来笠」があったのにびっくり。

これ、1960年のヒット曲だから、あそこの家は「日本の最新曲」をかけていたのですね。

 

ハニーをかくまっていたヤクザも本省人と思われ、「台湾語がわからなきゃダメだ」みたいなセリフもありましたが

彼らの抗争は「本省人VS外省人」というわけではなく、本作での登場人物はほぼ外省人たちのように思えました。

 

外省人の中にも階層があって、父が司令官の小馬の家とか、小明の母が住み込みで働いていた家は上流階級、

生活が苦しいといいながらそこそこ派手な生活をしている小四の家は中流、

解雇された小明の母子がころがりこむ叔父たちのいる宿舎に住むのは底辺に近い階層で、何でも共同で居心地悪そう・・・

 

小明の母はこの後、クラスメートの小馬の家で住み込みの家政婦として働くことになり、

それは生きていくために仕方ないことなんですが、娘の小明も同居することになるわけだから、

「(小明には)ものを与えながらよろしくやるさ」とか言い放つ小馬に激怒した小四が、この後行き過ぎた行動に走ってしまうのです。

 

・小馬の持っている旧日本軍の日本刀

・小四の母が大切にしている腕時計

・小四がスタジオから盗んだ(プロ仕様の)大きな懐中電灯

などの小道具も、緊張感を伴って最後まで大事な役割を果たします。

 

プレスリーの音楽やロカビリーファッションに憧れる若者たちがいる一方で、戦車の車列が日常光景という不安定な時代。

1947年生まれのエドワード・ヤン監督(生きていたら70歳)の時代をしっかりと受け取ることができました。

 

牯嶺街(クーリンチェ)というのは実在の地名で、台北の中心街から遠くない場所です。

台北には数回行っていますが、特別観光スポットではないから、残念ながら意識して通ったことはありません。

去年「KANO」の舞台、嘉義に行きましたが、今度はここにぜひ「聖地巡礼」したいと思っています。