映画「雨の日は会えない、晴れた日は君を想う」平成29年2月18日公開 ★★★★★


ウォール街のエリート銀行員ディヴィス(ジェイク・ギレンホール)は順調に出世し、リッチで何不自由のない生活をしていた。
ある日、交通事故で美貌の妻が他界するが、涙を流せず、感覚を失っていることに気付く。
彼は義父の言葉をきっかけに、身近なものを壊し始め……。    (シネマ・トゥデイ)
 
ジェイク出演作に外れなし、と思って初日に予約を入れたのですが、前日の日経の「シネマ万華鏡」でまさかの★ふたつ。
「王様のためのホログラム」の二の舞かと思って焦ったのですが、その心配はありませんでした。
初日入場者のポストカード(といっても正方形)をいただきました。
 


この場面のイラストですね↑
 

 
 
シネマカリテのロビーディスプレイはこんな感じ↑
地味目ですが、両脇には壁の破片とハンマーが・・・
この作品、長い長い邦題とは関係ない「DEMOLITION」(破壊・解体)というのが原題。
家具やパソコンや家をひたすらぶっ壊す話なので、鑑賞後にこれをみてなるほどと思いました。
ちなみにこの日、シネマカリテではすべての回が満席だったそうです。
 
 
あらすじを書いていきますけど、自分の感じたことを書くので、正しいあらすじになってないかもしれません。ご注意ください。
 
冒頭、運転する妻ジュリアと助手席の夫デイヴィスの会話。
車にはショパンのノクターンが流れ(妻の趣味らしい)、
「冷蔵庫がずっと水漏れしてるから直して。すっといってるのに、あなたはいつも無関心なんだから。
ほら、お父さんから貰った工具があったでしょ」とジュリア。
直後に車は何かに激突し、デイヴィスは気を失います。
 
病院の廊下。
自販機でM&Mのピーナツチョコを買おうとするもひっかかってしまい、
受付の人も「自販機会社に言って」ととりあってくれません。
 
腹が立ったデイヴィスは、自販機会社のにあてて長い長い手紙を(PCでなく手書きで!)書きます。
 
「25セント硬貨を5枚入れたのにM&Mが出ない。妻が死んで10分後だったので、無性に腹が立った」
ここで観客は、デイヴィスの異常に気づかされます。
妻が死んだことより、チョコだなんて!
 
手紙にはクレームだけでなく、自分の生い立ちからすべて書かれており、この手紙(デイヴィスの独白)がナレーションで流れます。
 
ニュージャージーの貧しい家に育った彼は、特支学級の先生のジュリアと恋に落ちて結婚。
ジュリアの父は60億ドルを動かす投資会社のトップで、コネ入社のデイヴィスもそれなりの地位にいます。
5時半起床、トレーニングをしてシャワーを浴び、顔の手入れをして身なりを整え出社する姿はまさにセレブの日常。
 
事故後、すぐ仕事に復帰したデイヴィスに義父のフィル(クリス・クーパー)はむしろ好意的で
「感情を表さないのは、強さの印だ」
「これからは会社の保険部門の方もみてほしい」
「君とはこれから先もつながり続けたい」といいます。
ただ、フィル自身は最愛の娘を失ったことを受け入れられず
「妻をなくしたらやもめ、親を亡くしたら孤児なのに、子どもを失った親には言葉すらない」と嘆きます。
フィルは、ジュリアの遺産を基金として優秀な若者に奨学金を出すことで、悲しみから立ち直ろうとします。
 
ところが、デイヴィスのほうは、妻が死んでも、実は何の悲しみもなかったのです。
この辺、「永い言い訳」の衣笠幸夫と同じなんですけど、幸夫が共感可能なキャラ設定だったのにくらべ
デイヴィスは、そもそも他人と上手くつながることが出来ず、
ビジネスでは、むしろ感情的でない彼の性格がいい方に働いたか、上手くいっていたようですが、
それ以外のことには驚くほど全く関心がないのです。
 
冒頭の車中の会話では、ジュリアはずいぶんズケズケいう女性という印象を持つのですが、、
彼女はデイヴィスともっと繋がりたいと思ってたはず、ということが観客にはわかるんだけど
デイヴィスはこの時点でまだ気づいていません。
 
ただ、冷蔵庫を直して、と最後にいってたことはようやく思い出しますが、うまく直せず、バラバラにしてしまいます。
さらに、その後も電灯とかトイレとかパソコンとか2000ドルのカプチーノマシンとか、次から次へと分解してしまいます。
当然元の形には戻せないんですが、もう引きかえすことも無理で、列車の停止ボタンを押して列車を止めたり
奇行とも思える行動を繰り返すデイヴィス。
 
それでも、周囲は、妻を亡くしたショックで精神が不安定になっていると問題視しないから、ますますエスカレートしていきます。
 
一方、デイヴィスが手紙を送った自販機のカスタマーセンターのカレンモレノと名乗る女性から電話があり
「あの手紙を読んで泣いた」と。
彼女は実在の女性で、15歳の息子を育てるシングルマザー。
「苦情は担当に伝えましたが、私でお役に立てることがあればなんなりと・・・」
 
カレンも恋人(自販機会社の社長のカール)がいながら、デイヴィスと逢瀬を重ね、
彼女が溺愛する息子のクリスとデイヴィスもまるで親友の関係になります。
実弾をぶっ放したり、ピカピカの豪邸をブルドーザーでぶっ壊したり、常人ではついていけないレベルですが
この問題をかかえるクリスの出現で、次第にデイヴィスは失った愛の大きさに気付き、
最後になってようやく「壊れたものを再生する」ことができるようになる・・・といった再生の物語。
 
ジュリアの好きだった廃棄直前の古いエルドラドの再生なんですけど、
多分それは奨学金の基金以上に、ジュリアが望んでいたことなんじゃないかと思いますよ。
 
この映画、音楽にもかなりこだわりがあるようで、分かる人には分かるんでしょうけど、私にはサッパリ。
ただ、冒頭車のなかで流れていた「ノクターン」がラストでまたかかるんですが、
この曲を聴くデイヴィスは、最初のデイヴィスとは全く違う感覚で最後にはこれを聴いたんだろうな。
 
この邦題は、車のサンバイザーからはらりと落ちたジュリアのメモから。
 If it's rainy, You won't see me, If it's sunny, You'll Think of me
(もし雨がふったらこのメモには気づかないわね。晴れた日にはこのメモをみて私を思い出して)
というのが本来の意味なんでしょうけど、
「早く水漏れなおしてよ」
「あなたは関係ないと思ってるんでしょうけど。オレの椅子じゃないってね」
なんていう、事故前の最期の言葉もいとおしく思い出すのです。
 
そして、妻の秘密(自分以外の男の子を宿していた)もふくめ、良いことも悪いこともありのままのジュリアを受け入れ
失った愛の大きさに愕然とするのです。
 
「おろそかにしていたけれど、愛していたとわかった」
 
「永い言い訳」とちがって、けっこう暴力的なシーンも多く、狂気を演じさせたら天下一のジェイクが演じているので
途中、笑うしかないような過激なシーンも多いですが、これ、見終わった後に、ちょっぴり世界が変わって見えるような
すごい映画です。
 
エンドロール後の最後の一行。
「心を込めて デイヴィスより」にもやられました。