映画「キセキ ー あの日のソビト」平成29年1月28日公開 ★★★★☆

 

 

厳格な父の反対を押し切って音楽の道に進んだジン(松坂桃李)だったが、なかなか思うようにいかない。

あるとき、父の期待に応え歯科医を目指していた弟のヒデ(菅田将暉)と仲間に音楽の才能があることに気付き、

彼らに自分の夢を託す。

そして、歯科医を目指しつつ音楽も諦めたくないということを父に言い出せない兄弟は、

顔を出さずにCDデビューしようと考える。                     (シネマ・トゥデイ)

 

GReeeeNの「キセキ」といえば、平成以降の歌に全く疎い私でもちょっとは歌えるくらいの大ヒット曲。

メンバーが現役歯科医で、顔出ししないでCDデビューしたことも承知していましたが、

なんで急にそれがドラマ化されたのか興味があって、初日(初回)に鑑賞。

 

グループの音楽活動というよりは、リーダー格のヒデとその家族のドラマでしたね。

兄のジンは「ハイスピード」というメタルバンドのボーカルで、素人ながらライブでは結構な人気。

やがて音楽事務所から声がかかりメジャーデビューが決まりますが

事務所のディレクター(野間口徹)からはダメ出しの連続で、プロだから仕方ないと思いつつ、メンバーの士気は落ちる一方。

 

この映画、オープニングシーンはメタルバンド「ハイスピード」のライブシーン。

黒のランクトップにひげを生やし、腕にはタトゥーといういでたちで現れた松坂桃李が演じるのは、ヒデの兄のジンです。

ビジュアルは申し分なくかっこいいんですけど、申し訳ないけどうるさいだけのペッタンコな曲で、

ボーカルもメロディーをさらってる感じでグルーブ感ゼロ!

って思いながら聴いていました。

そしたら、野間口さんが私が思ったのと同じことを言ってたので、これは松坂クンのリズム感が悪いんじゃなくて

「そういう設定なんだ!」と納得した次第です。

 

実はジンの父親は優秀な外科医で、彼の音楽活動には大反対。

優しい母や姉たちはジンがプロになるのを喜んでくれているけど、

「音楽なんて所詮お遊びだ」

「医者のような人を助けられる仕事につけ」

という主張を押し付け、堪えられなくなったジンは家を出てしまいます。

 

父と兄のそんな諍いをいつも聞いていた次男のヒデは、まじめに勉強して医学部を目指しますが

なかなか学力が伴わずに、一浪して歯科大学に入学します。

 

海援隊のファンのヒデ。音楽の方向性は兄とは違うけど、音楽好きには違いなく、

大学の同級生たちと即興で曲を作って盛り上がったりするようになります。

ちょっとギターやピアノが弾ける程度の素人集団ですが、つくりだす曲は新鮮で共感度高く、

プロミュージシャンのジンのアレンジにより、プロへの道も開けますが、

「好きな音楽」と「学業優先」の間で揺れ動くグリーンボーイズ(GReeeeNの前身)たち・・・

というような話です。

 

ミュージシャンをめざしてない歯医者さんときいて、フォークルの北山修さんなんかを連想してしまったんですが(古!)

(映画を観る前は)優秀な人は本気出さなくても、片手間ですごい曲を作っちゃうんだよな~なんて思っていました。

 

一浪でぎりぎり歯科大に入れた話とか、ちょっと音楽に夢中になると授業がおろそかになって進級もヤバい状況になったり

本当にどこにでもいそうな大学生だったのがちょっと嬉しくなりました。

 

音楽映画でクループものだと、絶対にメンバーの間で確執が起こるにきまってるんですが

彼ら4人はいつも仲良しで、会話もすべてアドリブなんじゃないかと思うくらい自然で、セリフ感が全くありません。

歌の中でのあの絶妙な掛け合いも、自己主張するような人がいてはダメで、4人でここで唄えて幸せ!!

という気持ちにあふれていて、それが聴いている方にも伝わるんだと思う。

作中の歌もすべて俳優が本当に歌っていると聞き、ちょっと感動しました。

 

一方で、ジンとヒデの家には、頑固おやじの父が君臨していて、いちいち優しい母がとりなす、という

まるで昭和の「寺内貫太郎」の世界です。

息子には一言も口答えを許さず、激怒すると日本刀を振りかざし、でも病院の患者たちには優しい先生で通っているという・・・

きょうび、かなりデフォルメされた虚構の世界にしか思えないんですけど、

これがあるから、GReeeNのメンバーの「頑張りすぎない自然体の二刀流」が心地よく響いてくるでしょうね。

 

この映画を機にGReeeNのプロフィールが公開されるわけでもないから、どこまでホントなのか

ドキュメンタリーでもノンフィクションでもないから、ちょっとモヤモヤしますけど、いい映画でした。

 

ヒデが予備校での模試の結果が芳しくなく、途中で医学部から歯学部に進路希望を変更するんですけど

その時に母親が

「おかあさん、あなたたちを産むたびに歯が悪くなって、もうボロボロなの。

あなたがタダで直してくれたら嬉しいなあ」

と、さりげなく動機づけをしてくれるところ、ホントに優しいなあ。

 

大学の最初の授業での

「歯科医は虫歯やかみ合わせの治療で、患者さんの人生をかえることができる大切な仕事です」

という教授の言葉とか、進路に迷っている若い人たちが「やりたいこと」「できること」「役にたつこと」

のはざまでしっかり悩んで決めて欲しいな、と思いました。