映画「アズミハルコは行方不明」 平成28年12月3日公開 ★★★☆☆
原作本「アズミハルコは行方不明」山内マリコ 幻冬舎
地方都市在住で27歳独身の会社員安曇春子(蒼井優)は、実家で両親と高齢の祖母と猫のみーちゃんと共に暮らしている。
祖母の介護でイライラしがちな母親のまき散らす険悪な雰囲気が漂う家は、彼女にとって安らげる場所ではなかった。
一方、成人式で中学時代の友人ユキオと再会した20歳の愛菜(高畑充希)は、流れでつい体の関係を持つ。(シネマ・トゥデイ)
新しく生まれ変わった新宿武蔵野館。
どちらかというと私の好みの映画は「シネマカリテ」のほうで引き継いでしまったので、なかなか行くチャンスがなかったですが
ようやく行ってきました。
(あのアナログな入場整理券は姿を消し、ネット予約が可能になりました!)
新しいホールはカリテよりもずっと広いので、展示もすごい!
全部撮りたかったけど、人が映り込んでしまうので、とりあえず、アズミハルコのを・・・・
この話のメインは「交番なんかに貼ってある行方不明写真をグラフィックアートにして拡散する」ということなので、
映画を拡散するためのチラシも、ふつうのやつと、グラフィックアート仕様のものがあって、
私はシネマカリテに行くたびに1枚ずつ頂いてきてたんですが、並べるとこんな感じ。
ホール展示をみると、このほかに、イエローのもあったみたいですね。ショック!
で、本編のほうですが、映画では時系列をめちゃくちゃにして、
「たずね人安曇春子」のステンシルのグラフィックと同時に、まだ行方不明になる前のハルコの日常描写があるので
かなり混乱しますが、整理してしまうと、やり場のない閉塞感につぶされそうな地方都市の若者たちを
アラサー、ハタチ、女子高生の三世代にわけて描いている・・・ということでしょうか?
「車を停めてタバコを吸い、そのたちのぼる煙の向こうでフッと姿を消す」というオープニングなので
サスペンス的展開を期待しちゃいますが、まあ、ストーリーはあっててないようなもので
コラージュ的に目まぐるしくいろんな要素をぶち込んでくることで、なにか意味があるかのようにみせかけるのは
まさにグラフィックアート的手法かな?
地方都市だと、人の出入りが少ないから、小学校や中学生の時の同級生がそのまま大人になってどこまでも並列的なんですね。
アラサー(といっても27.8歳くらい)も充分若いんですけど、ハルコは「早く結婚しろ」とか「35で女性は腐ってくる」
とかうるさく言われ、
といっても選択肢も少なく、ごみ溜めみたいなとこに住んでる元おさななじみに雑に抱かれるシーンは嫌悪感で吐きそう。
二十歳のアイナたちも花魁みたいな晴れ着を着て成人式ではしゃぐ姿は楽しそうだけど
同級生のユキオには陰でババア扱いされ、しかも
「頼めばすぐにやらせる」とか「(可愛いからギリ許すけど)めちゃくちゃウザイ」とか言われてます。
ホントに出てくる男たちはどいつもこいつもクズばかりで、いらいらするんですが、そういう中で
女子高生たちが無差別に通りがかりの男をボコる「少女GANG団」が社会問題となります。
完全に犯罪行為なんですけど、ちょっとスッキリ。
ただ、血祭りにあげて欲しい対象はちょっと違うんですけど・・・
ところで、ユキオが同級生のマナブとアイナを巻き込んで、街中に落書きをするんですが
そのきっかけとなったのが、映画「イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ」
グラフィックアートの第一人者バンクシーが登場する映画で、私も前に見て、けっこうおもしろかったです。
ただ、私は「おれも落書きするべ~!」とは思わなかったけど。
明らかに器物損壊の犯罪行為ですが、たずね人をアートにするというのは、そこそこ名案。
「WANTED」だったらダメですが、ちゃんと「MISSING」にしてるしね。
で、彼らの落書きがネットで拡散されると、それに乗っかろうとする人たちの手で、
アート作品として地域おこしに利用されることになるのです。
いきなり「おかみ」のお墨付きをもらったわけですが、ここまでくると犯罪すれすれのワクワク感は皆無で
当然集客もできずにイベント失敗という・・・何重にも地方都市(具体的には足利市です)がディスられています。
映画の中でよく「ダサイ」代表で舞台にされるのは北関東と相場が決まってるんですが、
架空の地名を使わずに、実名で登場することが多いのが最近の傾向です。
コメディ感覚でふっきれた「SRサイタマノラッパー」の深谷市なんかは面白かったけど、
足利はイメージ悪くなると思うんだけどな・・・
ちなみに足利市は「映画のまち足利」ということで、映画ロケ地の招致活動を積極的に推進しているようです。
なかにはイメージアップにつながりそうなものもあるけど、「君の名は。」のような聖地巡礼は無理だと思いますけど・・・
この映画、キャストの大トリをしめるのが加瀬亮という、大御所不在の、軽~い低予算映画。
あんまり期待して観たらダメですが、おすすめポイントを書くなら、二人の女優の演技ですかね。
「岸辺の旅」以降、ほんわりした森ガールのイメージを脱却した蒼井優もですが、今売れっ子の高畑充希の弾けっぷりには唖然とします。
「植物図鑑」みたいなヒロイン路線でもよさそうなものを、あえてこのネジが1本抜けたようなウザい「すぐやらせる女」をやるか?
もっとスケベな演出もありえるんですが、とりあえず、彼女の演技力にかけた演出に感謝。
「あたし、チョー人に飢えてるし・・・」としつこくLINEをおくってくるウザい子なんですが、
気持ちわかるな~!許せるな~!と思わせるくらいやり切った感がスゴイ。(関係ないけどLINE打つの速くて尊敬!)
結局のところ、今は若くても、だんだんババアになっていくから、こんな田舎町では、
そこそこで妥協して結婚して、認知症の年寄りの世話をする・・・
こんなのが未来の姿だというのは、それじゃあんまりお先真っ暗で、若い女の子たちが可愛そうです。
だから、今のうちにやんちゃなことをやっておこう、というのが「ヤンキー文化」なら、それもあまりに残念です。
この映画のなかには「まともに成熟した大人」が全然でてこないんですが、
ここに出てくるひとりひとりに
「ジジイになっても、ババアになっても、そんなに悪いことばっかりでもないよ」
と説いてまわりたい心境になりました。