映画「君の名は。」 平成28年9月10日公開 ★★★★☆
ノベライズ「君の名は。」 新海 誠  小学館文庫



1,000年に1度のすい星来訪が、1か月後に迫る日本。
山々に囲まれた田舎町に住む女子高生の三葉は、町長である父の選挙運動や、
家系の神社の風習などに鬱屈(うっくつ)していた。
それゆえに都会への憧れを強く持っていたが、
ある日彼女は自分が都会に暮らしている少年になった夢を見る。
夢では東京での生活を楽しみながらも、その不思議な感覚に困惑する三葉。
一方、東京在住の男子高校生・瀧も自分が田舎町に生活する少女になった夢を見る。
やがて、その奇妙な夢を通じて彼らは引き合うようになっていくが……。(シネマ・トゥデイ)

最初にタイトルを聞いた時はあの真知子と春樹のメロドラマのバッタもんか?って思ったんですが・・・

   (↓)これ



今や、「君の名は。」の「。」をつけ忘れても、検索するとこのアニメ映画しか出て来やしません。
ついでにいうと、このノベライズは出版された直後は図書館で楽々借りられたのに、
きのうの時点で200件以上の予約がはいっていました。おおっ!


ともかく、すでに興行収入100億円越えの大ヒットになっているとか
もう連日「ジブリ越え」だとか、景気のいい話しか聞こえてきません。
私はあまりアニメは観ないんですが、たしかに「サマーウォーズ」を観た時の軽い興奮を覚えました。

基本は「少年少女の入れ替わり」劇で、古くは尾美よしのりと小林聡美がいれかわる「転校生」とか
いかにも古典的なパターンなんですが、ミツハとタキは、知り合いでもなんでもなくて、
都会のマンション暮らしと山間部の神社の家柄の古い家という全く違う環境。
スカート穿いて足を広げちゃったり、うっかり女言葉をつかったり、
マックもモスもないのにスナックは2軒あるとか、9時に閉まるコンビニとかの田舎の自虐ネタなど、
「お約束」が延々続いて、ちょっといらっとした頃に、
入れ替わりは「同時」ではなくて、3年のタイムラグがあることがわかり
こじんまりした「入れ替わり」じゃなくて、時空を超えたスケール感。
俄然、時間的空間的広がりが生じてきます。

ただ、いわゆる「タイムパラドックスもの」だと思うと、つっこみどころ満載で、
(私みたいに)こっちが気になる人には、どうしても素直に楽しめないんですが、
会いたくて会えないじりじり感とか(元祖「君の名は」はもそうでした)作画のクオリティの高さもすごいです。

一見写実的なんだけど、光をうまくつかって、これはその時の心に映った心象風景。
「かたわれ時」の映像美はもとより、私には弁慶橋とか信濃町の歩道橋とか代々木のドコモタワーとか
都心の風景のことが印象にのこりました。
全く忘れていたんですが、昔はじめてコンタクトレンズにしたときに経験した人生最高の絶景
「四谷トンネルを抜けた時にJR車内から観た、天国のように美しい外堀の土手の景色」
が突然浮かび上がって、うるうるしてしまいました。

四谷界隈と岐阜県飛騨市で本作の「聖地巡礼」をする人が後をたたないそうですが、
それもなんとなくわかる気がします。

四谷の「須賀神社」の階段もそのポイントのひとつのようですが、私は東京の凸凹地形好きなので
同じ四谷でも、紀尾井坂や清水谷坂などお濠の内側は良く行きますが、
四谷の新宿寄りにこんないい感じの階段があるとは・・・
ここだけでもぜひ「巡礼」してみたいです。

話が脱線したついでに、「かたわれ時」の意味ですが、劇中では「かわたれどき」「たそがれどき」の
この地方の方言で、もうひとりの自分に会えるという伝説がある・・・みたいな説明でした。

彼は誰? → かはだれ → かわたれ (明け方のまだ暗い時)
誰そ彼? → たそかれ → たそがれ  (夕方の暗くなったとき)

という日本語はあるけれど、多分この「かたわれ」というのは作者の造語ですよね。

ミツハのおばあちゃんが
「土地の氏神様のことを産霊(むすび)といって、糸をつなぐことも、時間が流れるのもむすびという・・・」
というようなことを言うんですが、この言葉はオリジナルでなくて本物でした。
「寄り集まって形をつくるもの」の象徴として、ミツハが髪をむすんでいた組みひもが登場し
これが時間の流れを暗喩しているわけです。

「むすび」「かたわれどき」といった単語の言霊(ことだま)からインスパイアされて、彗星の方は後付け?
なんて思いながら見てたんですが、
感想の大部分を占める「涙が止まらなかった」なんてことは、けっしてなかったです。
(若い時に見たら泣いたかもしれないけど、もうオバサンなので・・・)

なんかねぇ、こういうのがヒットすると、みんなで見に行って
「泣けない人は感性が鈍い」みたいな差別が生まれそうなのが、とっても怖いです。
甘ったるい恋愛アニメよりは全然いいですけど、別に無理して泣かなくてもいいよ~といいたいです。

作家性の高い作品なので、あんまり注目されてないけど、主役ふたりの声優もとってもいいです。
「サマーウォーズ」のヒットも神木隆之介と(当時新人の)桜庭ななみがうまかったですが
本作も同じく神木隆之介と上白石萌音がタキとミツハの声。
ふたりが入れ替えるところでも、しっかり「俳優として演技」しているところが素晴らしい。
プロの声優を差し置いてのタレント起用にはいつもいらいらしますが、今回ばかりはそんなことない。
ぜひ、もっと評価してほしいな。