映画「神様の思し召し」 平成28年8月27日公開  ★★★★★



腕利きの心臓外科医トンマーゾ(マルコ・ジャリーニ)は、傲慢(ごうまん)な性格が災いし、
周囲からは面倒がられ、妻との仲は冷え切っていた。
医大に通う優秀な息子が自分の跡を継ぐことを願っているが、ある日神父になりたいと告白されてしまう。
そこでトンマーゾは、息子が慕うピエトロ神父(アレッサンドロ・ガスマン)の正体を暴くために、
信者を装い教会に潜り込むが……。                     (シネマ・トゥデイ)


映画サイトCOCOの「映画レビュア満足度ランキング」でいきなりこの作品が1位に!!
なんの情報もなかったのでびっくりしました。
劇場予告も観ていないし、チラシすら持ってなかったので、↑に貼り付けてみました。

イタリアの家族がテーマのハートフルコメディ・・・的なのは、たいていシネスイッチ銀座でやることが多く
あしたのパスタはアルデンテ」「カプチーノはお熱いうちに」とか、みんなここで観ています。
本作も確実にこのラインだと思ったんですが、なんで見送ったかは、見てる途中で気づきました。(これはあとで書きます)

とにかく、23区ではシネマカリテの単館上映はもったいない!
と叫びたくなるような掘り出し物の作品でした。


心臓外科医のトンマーゾは、難しい冠動脈の手術を終え、患者家族に感謝されても
「奇跡などない、すべて私の力だ」と言い放つような、傲慢な自信家。
高級住宅地に立つ豪邸には、美しい妻のカルラと、二人の子どもとインド人のメイドのクセニア。
カルラはやることなくてボランテイアに夢中で、アルコール中毒っぽく、
長女のビアンカは恋人のジャンニと隣に住んでるんですが、食事のたびにやってきて、
訳アリ物件を売りまくっている調子もののジャンニのことを、トンマーゾは大っ嫌い。
唯一、自分の後をついでくれそうな医学生の長男のアンドレアに期待しているんですが、
どうも最近彼のようすがおかしいのです。
毎晩、友人のフリオ(男)と出かけるのがすごく怪しい。
どうも愛するアンドレアはゲイかもしれない???

息子のゲイのカムアウトって、イタリア映画ではよくありますよね。
「あしたのパスタ・・・」も名家の息子がふたりともゲイでした。

「大事な話がある」というアンドレアに、父は覚悟を決めます。
「性的志向で人を差別してはいけない」と、家族に動揺しないように根回しをし、
「大切なのは愛だ」と物わかりのいいところを見せます。

そしてアンドレアの告白は
「自分の人生に何が足りないのか、ずっと悩んでいたけれど
ようやく答えとなる人に出会った」
「その人の名は・・・・・・・ イエス!」
「イエス・キリストだ!」
「ボクは神学校にはいる決断をした」

「お前が幸せなら、パパもママも幸せだよ」
のトンマーゾの返答にアンドレアは大喜びして出かけて行きますが、
ところが息子がいなくなると
「息子が神父だって?!神父など人生の浪費だ」
「敵はカトリック教団。蒙昧主義の巨大組織だぞ!」

建前ではアンドレアを了承したものの、医者への道を閉ざして神父なんて断固反対のトンマーゾは
ヘタレ呼ばわりしていたジャンニを相棒に、アンドレアの行動を監視します。

息子が夜出かけていくのは、若者を集めて聖書を語るピエトロ神父の集会。
2匹の魚と5つのパンで5000人の飢えた人々を救ったというヨハネ伝の「パンと魚の奇跡」なんかも
面白おかしく説明してくれて、大喝采の群衆の中で、ひとりトンマーゾは苦虫をかんだような顔をしています。

アンドレアはこの口の上手い神父に洗脳されたにちがいない!と断定。
彼は昔、罪を犯して監獄にはいり、そこで出会った神父に感化されて,出所後神学校に行った変わり種。
前科者ではあるけれど、刑期をつとめた今は潔白の身なので、警察も関与できず。

それでも何とかピエトロ神父の裏の顔を暴露してアンドレアを諦めさせよう・・・と
トンマーゾはピエトロ神父に近づいて悩みを聞いてもらいます。
エリート外科医ではだめなので、「DVの妻と障碍者の弟をもつ失業者の人生どん底のマウロ」として・・・

ピエトロがマウロの家を訪ねたいといいだし、困ったトンマーゾはジャンニに相談。
ジャンニの部下の調査員ピッツィティのぼろアパートを借り、知障の弟にジャンニ、
DV妻も病院の看護師が見事に演じてくれてその場をごまかすのに成功します。

実はこの時、ジャンニがちょっと大げさに知的障碍者の真似をするところがあり、観客大爆笑。
おそらくこのシーンが(障碍者への差別と判断され)日本ではモラル的にアウトだったんでしょう。
これがなかったら、もっとたくさんの映画館で上映されていたかもしれません。

ただ、「健常者が障碍者を装う」というのは必ずしも「障碍者をバカにしている」わけでもなく
ピンチを脱出するため(おそらく「レインマン」のダスティ・ホフマンの演技を参考に)頑張って演じたジャンニには
なんの悪意もなく、差別意識があるのは、それを笑う私たちの方なんでしょうか?
私を含め、あそこで笑っちゃった人は、笑いながらも、一抹の罪の意識を感じていたのかも。
建前では差別意識を封印しながらも、本音の部分はどうしようもないトンマーゾの思いが
わかったような気がしました。

結局トンマーゾの小芝居はピエトロの知るところとなり、罰として荒れた教会の修復を
ボランティアで手伝うことになるんですが、
全く正反対の立場ふたりがそうやって仕事をするうちに打ち解けていくのです。

日本ではそれほどメジャーな俳優さんではないんですが、このふたりのキャスティングはぴったりです。


患者の病気を治して命を救う無神論者の外科医と、病気は治せないけれど
柔軟な発想で人の人生を修復できる神父。
この辺からチラシのキャッチコピー「最強のふたり」となるんでしょうが、あの大ヒットフランス映画とは
かなり違ったテイストだと思いました。

あれだけ嫌っていたジャンニとタッグを組んだ時点で、ずいぶん意識改革できてた気もしますが
今まで無頓着だった妻との関係にも気づき、優秀な外科医としてのプライドだけで生きていた彼も
次第に柔軟化していき、そのうち、当のアンドレアが
「やっぱり自分に神父は無理なのがわかった」といいだし、話は振り出しに戻ります。

やれやれ、と思ったとたん、こんどはピエトロ神父がバイク事故で病院に運ばれ緊急手術。
トンマーゾはあえて手術に立ち会うことをやめて、完成まであと一息になった教会にいって
床をぴかぴかに磨き上げ、ピエトロのために奇跡がおきるのを祈るのでした。

ハッピーエンドになるかバッドエンドになるかは観客に想像させるような終わり方なんだけど
押しつけがましくない素敵なラストで、私はとても好きです。

公開館がもっと増えるといいな・・・・