映画「疑惑のチャンピオン」 平成28年7月2日公開 ★★★☆☆


20代にガンを患いながらも克服した自転車ロードレース選手ランス・アームストロング(ベン・フォスター)は、
1999年から2005年に「ツール・ド・フランス」7連覇を達成する。
ガン患者を支援する社会活動にも奔走し、世界中から尊敬される英雄だった。
一方、記録のために手段を選ばない勝利への執着はすさまじく、
ある記者が彼にまとわりつく薬物使用疑惑をリサーチしており……。   (シネマ・トゥデイ)

テニスのシャラポワやロシア陸上界のドーピングが問題になっていますが、
この主人公ランス・アームストロングは、ツール・ド・フランス7連覇の自転車ロードレースの超人ながら
ドーピングですべての栄誉をはく奪された人物です。

彼は25歳の時に精巣ガンを発症し、すでに脳にまで転移したステージ3で、快復は難しいとされていましたが
奇跡的に生存し、過酷なリハビリを経て、USポータルサービスと契約し、プロ選手に復帰。

チャンピオンに返り咲くために、スポーツ医学の権威といわれていたイタリア人の医師ミケーレ・フェラーリのもとへ。
彼はアスリートのパフォーマンスを劇的に向上させるプログラムの実践者。
要するに、検査にひっかからないようなドーピングの指導をしていたのでした。

ランスは、1999年のツール・ド・フランスで、驚異的な上り坂の加速で優勝。一躍ヒーローとなります。
ランスはガンから生還してスポーツでトップに立ったわけですから、
これはもう同じ病気の人たちの希望の星となります。
がん患者を支援するさまざまな運動にも参加しており、リストバンドの売り上げ5000万ドルも寄付。

↓中央の「ただマイヨ・ジョーヌのためでなく」と言う本は、彼自身が書いた本で、
2000年の世界的ベストセラーだったのは私も記憶があります。
(マイヨ・ジョーヌというのは、優勝者だけに許される黄色いジャージのことです)
ガンによって、生殖機能と鍛え上げた筋肉を失った主人公が、挫折と喪失感を乗り越えて
他の強豪を退けて、最も過酷な競技のチャンピオンになるというのは、まさに感動的です。


こんな世界的ヒーローが不正をしているとは思いたくないですが、
彼の超人的なパフォーマンスは、薬物によるものだったのです。
血液中の赤血球を増加させるエポ(スイスでは普通の市販薬)という薬を使ったり、自分の血液を輸血したり・・・
彼がひとりでこっそりとやるわけでもなく、ダミーのツアーバス(?)のようなところで
チームメイトもいっしょだから、チーム内では公然の事実だったようです。

うっかり飲んだ風邪薬や、食事に含まれていた添加物とか、そういうのにたまたま反応してしまった・・・・
ドーピングにひっかかるのは、「気の毒なうっかりミス」というような印象が強かったのですが
けっこうしっかり意識してやっていて、想像以上に大がかりなんですね。
(ロシアスポーツ界もこんな感じなのかな?)

彼はいったん引退し、また復帰するもチャンピオンにはなれなかったのですが
不正が発覚するのは、そのあとの2012年のこと。
すべての記録が剥奪され、永久追放というのは、自業自得ではあるけれど、ちょっと気の毒な気がします。

映画の中では、ランス、後輩のチームメイトのフロイド、取材記者ウォルシュと、
複数の立場から描かれるため、「一番悪いのは誰か」がぼやかされて、ちょっともやもやしますが
結局は、ドーピング検査の厳格化とそれを回避できるワザとのいたちごっこ、っていう気がします。
バレて一番責任をとらされるのはアスリート本人ですが、チームドクターたちの責任のほうが重いと思いますけど・・・

その悪いドクターを演じるのは、たぶんキャストの中では一番のビッグネームのギョーム・カネ。
あまりに訛りのきつい英語で、見た目も変だったから、彼とはなかなか気づきませんでした。
ランスを演じるベン・フォスターは、X-MENのエンジェルが一番有名かなぁ?

ランスに利用されて怒りに燃えるフロイドを演じるジェシー・プレモンスはマット・デイモンのそっくりさんで
彼の青年期なんかを演じてた俳優さんです。



でももう彼も28歳になって、武骨で不器用な男の役が適役になりました。
「ブラックスキャンダル」ではけっこう太っていたから、役作りでずいぶん絞ったんでしょうね。

あ、うっかりしていましたが、ダスティン・ホフマンがスポンサー役でちょっとだけ登場していました。

ランスを摘発したのは全米アンチドーピング機関(USADA)というところで、
ここが正義の鉄槌を下した!みたいな印象なんですが、そもそも最初の時点で見抜くことができず、
ランスをヒーローにしたあげくに、引退後にすべてを奪うって、ずいぶんじゃありませんか?
本人だけじゃなくて、ガンを克服したランスに勇気づけられたがん患者の若者たちの
気持ちはどこに持って行ったらいいの??

ドーピングの片棒を担がされていたチームメイトたちはともかく、
業界団体は明らかにわかっててスルーしていたわけだし、マスコミも怪しいと思いつつ
美談にしておいたほうが金になるとおもったのか、みんなで口をつぐんでいたんでしょうし、
ホントにみんな反省しなければいけないですよね。
エンドロールに流れた曲が「Everybody Knows(誰もが知っている)」だったのも納得です。