映画「殿、利息でござる」 平成28年5月13日公開 ★★★★☆
原作本 「穀田屋十三郎」(「無私の日本人」所収) 文春文庫 礒田道史




江戸中期、財政の逼迫(ひっぱく)した仙台藩が領民へ重税を課したことで
破産や夜逃げが続出し、小さな宿場町・吉岡宿は困窮し切っていた。
このままではダメだと考える商人・穀田屋十三郎(阿部サダヲ)と同志たちは、
藩に金を貸し付け毎年の利息を住民に配る「宿場救済計画」を考えつく。
町の存続を図るため、前代未聞の金貸し事業を成功させるべく、彼らは私財を投げ打ち……。(シネマトゥデイ)


公開してもうひと月たっていますが、実は私がこれを見たのは1月でして、
当時は未公開情報がたくさんある状態での最速試写会でした。
羽生クンの出演も極秘事項で、予告編でも最初は、殿の映像は首から下しか映っていませんでした。
SNSへの投稿も厳禁だったので、ひっそり胸に秘めること5か月。
原作も読んでから半年はたっているので、もう感想を書くのは無理と思っていたら
たまたま今日、映画を観ながら書いてた走り書きのメモがでてきたので、何か残しておくことにします。

1766年、(明和3年)10代将軍徳川家治の時代、といってもピンとこないので
側用人田沼意次の時代、といったほうが分かりやすいでしょうか・・・
そのころ、仙台藩の吉岡宿では、お上の物資を次の宿場まで運ぶ「伝馬役」をおおせつかっており
馬を買い人足をやとうのも予算がつくわけでもなくすべて自腹。
これはもう地方に課された重い税金のようなもので、とても賄いきれず夜逃げが後をたたず
200軒も家が減ってしまいました。

酒屋の穀田屋十三郎(阿部サダヲ)は自分の命をかけてもと訴状をしたためていたのですが
思い直して知恵者の茶師、菅原屋(瑛太)に相談したところ、
「伊達の殿さまに銭を貸し、その利息を伝馬に使う」という妙案をひねりだします。
お上は金に困っているはずだからきっと上手くいく・・・と。
金1000両は銭にすると5000貫文、今の金に換算すると、ざっと3億円になります。

庶民が殿さまに金を貸すという発想も、その額にもびっくりなんですが
いろいろ紆余曲折あってこの案にたどりつくのではなく、最初からこのプランありきで
仲間をどう説得するか、役人にどう話をとりつけるか・・・?ってことにほとんどの時間が割かれます。

穀田屋は、ひとり500貫で10口集めれば行ける!と、張り切って出資者を集めようとするのですが
そんな1000万円単位のお金を出せる人がいるのか?
こんなさびれた宿場町だというので、男気だったりライバル心だったり、
ともかく少しずつお金が集まっていくのです。
細かいエピソードは忘れたけれど、芸達者な個性俳優たちが、
一癖もふた癖もある商人たちを楽し気に演じてくれます。

お上との交渉も、町人が直接やることはできないので、肝煎という役人
その上の大肝煎、千坂を通じて交渉、ということになるのですが、
彼らもこの案に賛同してお金をだしてくれたり、食堂のおばちゃんや商人以外の人たちも
小銭を描きあつめ、そして、穀田屋の実の弟である浅野屋が1500貫も出してくれて
なんと目標額に到達!

基本コメディタッチですが、しっかり感動ポイントもあります!

① 浅野屋は実は穀田屋十三郎の実家で、兄の彼が養子にだされ、弟が実家をついていました。
十三郎は(自分が長男なのに)家を継がせてもらえなかったことをずっと恨んでいたんですが
養子にだされた本当の理由がわかり、兄は感動するのです。

②兄弟の父である先代の浅野屋(山崎努)はケチで有名でしたが、実は地域の人たちの幸せが第一で
自分たち家族は節約第一。
道は端を歩き、いつも末席におり、善行をしても報いを求めない「つつしみの掟」を代々守ってきていました。

③この話を知った龍泉院の住職が「ことのてんまつを後世に残そう」と、
「国恩記」という書物に残したのですが、あまり人目にふれず。
最近になって吉田さんという人が、このことをぜひ取り上げて欲しいと
歴史研究家の礒田先生に話し、「無死の日本人」のなかで穀田屋のことを書き、
そしてこれが今回映画になったというわけです。
(↑このへんのことは、映画でなく原作のなかに書いてあったのかも??)

穀田屋酒店は今も現存し、エンドロールで映されますが、大店というよりは、
場末のよろずやさんのような地味な店構えでした。
残念ながら浅野屋はあのあと店をたたんだようです。
せっかく殿(羽生結弦)が、自分が名前を付けた酒の販売を許したのにね。

羽生クンが登場したのは仙台の復興がらみだと思いますが、
彼が実力派俳優のなかで浮かないように配慮したのか、
ジャニーズの若手を息子役にしたり、一番偉い大肝煎に千葉雄大を起用したり
このへんはバランスを考えたんでしょうか?
少なくとも監督の意向ではないと思いますが、こんな無理やりなキャスティングでも
中村監督はしっかり映画を完成させるんですね。
どんなジャンルでも、変な自己主張や原作の改変をせず、きっちりと撮ってくれる中村監督は
誰よりも信頼できる監督さんだと思います。
今回も(多分)はじめての時代劇でしたが、とても楽しめました。