映画「世界から猫が消えたなら」 平成28年5月14日公開 ★★☆☆☆
原作本「世界から猫が消えたなら」 川村元気 マガジンハウス ★☆☆☆☆



ある日、余命いくばくもないごく平凡な30歳の郵便配達員(佐藤健)の前に、
自分と同じ容姿を持つ悪魔(佐藤健)が出現する。
その悪魔は、彼の身の回りの大切なものと引き換えに一日の命をくれるというのだ。
次々と電話や映画や時計などが消えていく中、彼は初恋の女性(宮崎あおい)と再会し、
共に過ごした日々を振り返る。                    (シネマ・トゥデイ)


前にも書きましたが、この原作は2013年の本屋大賞ノミネート作です。
この年に限って言うと、「ソロモンの偽証」「きみはいい子」がすでに映画化され、「64」と本作が上映中。
そして大賞受賞の「海賊と呼ばれた男」が12月に公開予定です。

他の作品は(映画も見ましたし)本も早い段階で読んでいたんですが、
本作だけは、ぺらっぺらの携帯小説、って感じだったのでどうしても読む気になれず、
先日原作本の記事を書くときに図書館から借りてきたものの、その後もほったらかしで、
公開直前にようやく読みました。30分はかからなかったと思います。





原作本に★ひとつしかつけないことなんて初めてかもしれませんが、これはちょっとね。
元気という名前から、高校生くらいの子を想像していたら、有名な映画プロデューサーだそうです。
名前と文体で判断しちゃダメですが、小説1本書くんだったら、それも処女作だったら、
もっと考えて考えて考えたおして書いてほしいなぁ・・・・

自分の命を1日伸ばすのと引き換えに、なにか代償を払う、というのは、そんな突飛なことじゃなくて
日本のような長寿国は、それなりの対価をはらってるから・・・といつも思ってるんですが、
ここでの命の代償は、(普通は、その人のもっている「大切なもの」を渡すんですけど)
この世の中から「みんなの大切なもの」を消す、というのがちょっと目新しいです。

電話とか映画とか時間とか・・・これはもうSFの世界ですね。
星新一のショートショートだったら、ノックの音とともに自分とそっくりの悪魔(原作ではアロハシャツの男)

が現れても、問題なくしっくりときます。

電話を消したら、「友達と連絡が途絶える」だけじゃなくて、現実の経済活動がストップしてしまうし、
映画を消したら、どういう形で大衆娯楽の文化が花開くか興味深いし、
まして時計を消すというのは時間を消すことだから、この世の中が存在しなくなっちゃうと思うのですが・・・
「ショートショート」で読者の想像力にゆだねるのならともかく、
そこそこの「長編小説」で、どこまで想定して書いたのかとても疑問です。

作者は映像の仕事をしているひとなら、映像化もきっと視野に入れていたんでしょうが、
映画というのは、突拍子もないものを「出現させる」のは適していますが、
生活に欠かせないものを「消す」というのは一番難しいんですけどね・・・

映画のほうの流れを一応書いておくと、
郵便配達員の主人公は、一人暮らしで猫を飼っていて、前かごに猫を乗せて
自転車で走っている時に激しい頭痛に襲われ、転倒します。

場面かわって、病院の診察室、
病名はステージ4の脳腫瘍で、手術も難しく、腫瘍が破裂したら即、死亡だと。

傷心の思いで部屋に戻ると、悪魔がいて、彼を取引をして
世の中から、電話、映画、時計・・・とひきかえに何日か命を持たせるのですが
「次は猫を消す」というのには同意できずに、ついに最後の日を迎える・・・
っていうような話です。

原作では、ずっと折り合いの悪かった父親(奥田瑛士)との和解が大きなテーマになっていましたが
映画では元カノ(宮崎あおい)とのシーンが非常に長かったです。
(私は実はあんまり好きではないんですが)彼女が笑ったり泣いたりするだけで、
なんかもう絵になりますよね。

映画の方は、素晴らしい!とはいえないけれど、全編に流れるピアノ曲が美しく、絵的にもきれいなシーンが多くて、まあいいんじゃないですか?
ベタですけど、母親役の原田美枝子がきっちり泣かしてくれるし、猫たちも可愛い。

猫(レタスとキャベツ)は、先日の「先生と迷いネコ」のミイよりも出番は少なかったけれど、
「佐藤健がこぐ自転車の籐の前かごから猫のキャベツが顔をだしている」シーンは
これはもう胸キュンの可愛らしさですよ。反則だ!

あと、舞台となった函館の路面電車や街並みや海辺の風景がまた美しいこと!
アルゼンチンの世界遺産、「イグアスの滝」まで行ってロケしてきたみたいです。
ストーリーとはほとんど絡まないから「これ要るか?」とも思いましたが・・・

↑の画像の「ミナト座」は、もし現存の映画館だったら、先日の写真集に載ってるでしょうが、
これは関係ない建物を映画館のセットにしただけみたいです。でも素敵!

たしか上映していたのはブラピの「ファイトクラブ」
それに画面には「花と」しか映らなかったけれど、あのロゴは岩井監督の「花とアリス」ですね。

公開時期が全然違うから、名画座の二本立てなんでしょうけど、普通名画座って、
関連付けた2,3本を上映すると思うんですが、この2本に共通点はあるんでしょうか?
もうそのことばかり気になってしまいました。

猫は好きじゃないけど映画は好きなので、映画好きのタツヤ(濱田岳)のシーンは一生懸命見ましたが、
彼のおススメ映画は「メトロポリス」 「海の上のピアニスト」ライムライト」とか、
誰もが見るような入門編のタイトルばかりで、ちょっとがっかり。
元カノとのアルゼンチン旅行のきっかけで使われた香港映画「ブエノスアイレス」だけが
未見の作品でした。「イグアスの滝」とか出てくるのかな?

ところで、その映画がなくなったことを映像でどう表すか?
たしか、ミナト座は姿を消して更地になり、レンタルショップからDVDがどんどん消えて
代わりに棚には本が並べられて、ビデオ屋が書店になるのです。
電話が消えた時は、街中の人たちの手からスマホが溶け出し、公衆電話ボックスは破裂、
ソフトバンクのショップからスマホがなくなって、そこは文房具屋に変身しました。

DVD→本 は予想できたけど、電話がなくなると、紙とペンで人は手紙を書く、ってことでしょうか。
こういう無責任な話を映像にするのって、ホントに骨がおれて大変ですね。

このほかにも、映像化にあたっていろいろ苦労したようで、
たとえば、冒頭の転倒シーンは原作にはありません。
転倒→病院のシーンだと、「ケガで病院に運ばれて念のため脳の検査をしたら脳腫瘍が見つかった」
・・・・と思ってしまいますが、
でも、転倒シーンと告知のシーンは連続していなくて、実は冒頭シーンは「最後の瞬間」で
あの時に主人公は死んでしまうのだというのが私の考えですが、
ラストシーンはどっちともとれるような感じになっていました。

最後坂道にさしかかったときに、プチン、と映像が切れて、エンドロール・・・
なんていうのだったら、全員納得で、すっきり終われた感じがするのですがね。

今度見ることがあったら(多分ないと思うけれど)自転車に乗る時の主人公の服装とかチェックしてみたいと思います。