映画「ヘイル・シーザー!」平成28年5月13日公開 ★★★★★



1950年代のハリウッド。
スタジオの命運を左右する超大作『ヘイル、シーザー!』の撮影中、
世界的大スターの主演俳優ウィットロック(ジョージ・クルーニー)が何者かに誘拐されてしまう。
事件解決を任されたスタジオの何でも屋(ジョシュ・ブローリン)は、
魅力あふれる若手女優(スカーレット・ヨハンソン)や著名なミュージカルスター(チャニング・テイタム)ら
個性豊かな俳優たちを巻き込み、ウィットロック奪還に向け奮闘する。 (シネマ・トゥデイ)

コーエン兄弟の久しぶりの新作なので、当然初日に観賞。
日本版の予告編はおふざけ感Maxだったから、爆笑コメディだと思ってしまいますが、
ぼーっと見ているだけではなかなか面白さの伝わらない、複雑で奥の深いコメディでした。
日本版予告編は、面白いけど、あそこまでハードル下げちゃうのもどうかな?
とちょっと心配になりました。

主人公はキャピトル・ピクチャーズスタジオの「何でも屋」エディ・マニックス。
プロデューサークラスの幹部のようですが、
プライベートは、ほぼ毎日つまらないことでいちいち懺悔にいくような小心者です。

彼の扱う仕事はいろいろで、銀幕スターの奇人変人のお守りや、不祥事のしりぬぐい・・・
スタジオを支える陰の仕事で、ストレスはもうMax。
でも彼の働きぶりはわかる人にはちゃっと評価されていて、
実は今、内密にロッキード社から、転職をオファーされています。

スタジオでは常時いくつもの映画作品の制作が同時進行で進められており、
社の命運をかけた超大作が、キリストを扱った巨大歴史スペクタクル「ヘイル、シーザー!」
これには公開後に宗教団体からクレームがあってはマズいので、事前にカトリックの神父、
プロテスタントの牧師、ユダヤ教の導師たちを集めて、承諾をとりつけるのもエディの仕事です。
彼らは「キリストが神か人間か」で大もめしますが、まあ、映画上映の承諾は取り付けたので、オッケー・・・

シンクロの女性たちを従えてプールで優雅に人魚の姿で泳ぐ人気女優ディアナは、
父親不明の子を妊娠しており、もう水着がキツイ!と文句たらたら。
彼女は「水シリーズ」の清純派女優なので、このスキャンダルは絶対にアウトだから、
エディーは、撮影後、彼女を雲隠れさせて出産させ、そのあと養子として受け入れることにし、
これまた「何でも屋」の保証書取引代行業のジョーに相談に行きます。

西部劇のアクションで人気のボビーを、「われらは踊る」というセリフ劇に抜擢することになったのですが
ボビーは逆立ちや曲乗りは得意でも、セリフは愛馬を呼ぶ「ホワイティ!」しかしゃべったことがない。
あまりに訛りがひどくて、使い物にならないのです。
それでもローレンツ監督(レイフ・ファインズ)に頼み込み、彼もなんとか優しく教えようとしますが
あまりにひどさに切れまくってしまいます。(ここ、予告編で何度も使われています)

そうこうしてるうちに、突然、「ヘイル、シーザー!」の撮影現場から、
主役の(人気はあるけど大根役者)、ベアードが姿を消します。
エディは、「足首をくじいた」ことにして、代役で撮影を続行させようとしますが、
他の役者やエキストラをたくさん使ってるから、撮影の遅れは莫大な損失になります。
実は、彼はマリブに誘拐拉致されており、犯人たちは、ハリウッドの脚本家集団。
彼らは一日中議論ばかりしているインテリ集団で、ベアートを開放する見返りに10万ドル要求するが
「これは身代金ではなく、不当に搾取されたギャラのペイバックだ」と。
ベアードは、自分はけっこうギャラをもらってると思っていたんですが、
スタジオのスタッフたちの待遇改善を訴える彼らにまんまと言いくるめられ、犯人たちとグルになってしまいます。
ジョージ・クルーニーは、今回もぼんくらなおバカな役ですね、適役です!

誘拐団は「赤狩り」の標的になった映画人集団で、その中にはダルトン・トランボがいました。
何でわかったかというと、上映前の予告編で「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」をやっていたからです。
彼のほかにも、多分一人一人にモデルがいて分かる人には楽しいのでしょうが、
コメディとすると、このシーン、ちょっと長すぎると感じました。

チャニング・テイタムは、今回も華麗なタップダンスを披露、歌って踊る人気ミュージカルスターです。
セーラー服だったから、「踊る大紐育」のジーン・ケリーがモデルなのかな?



そうすると、さっきのプールで舞うスカーレット・ヨハンソンは、
きっと「水着の女王」や「百万弗の人魚」のエスター・ウィリアムズでしょうね。


このほかにもタイトル定かではありませんが「ものぐさなお月さま」とか「ヨナの娘」とか
いろんな撮影があちこちのスタジオで同時進行に進んでいて、頻繁に画面が切り替わるので
まるでテレビで映画をザッピングしているかのような忙しなさです。

しつこく付きまとうゴシップ記者の双子姉妹のティルダ・スウィントン、
暗闇のタバコの煙の中で、恐ろしく速い手さばきでテープの編集をしているフランシス・マクドーマンドなど
端役までスター起用で、つくづく豪華です。

その中でも、きっと誰もが注目してしまうのが、「ロデオ芸人」ボビーを演じたアルデン・エーレンライク!
ディン・デハーンを思い切り雑にしたような風貌です。




スターウォーズ」のスピンオフで、若き日のハンソロに抜擢されたそう。頑張れ!

誘拐事件も妊娠事件も、エディはなんとか解決し、ロッキード社への移籍に心動くエディ。
そしてまたもや、教会に懺悔に行きます。

「楽な道を選ぼうとするのは罪なことでしょうか?」
「もうひとつ、苦労だらけの仕事があって、自分にはこっちが正しいように思えるのです」

すると神父は
「あなたの良心の声が神の声なのですよ」

家に帰って妻(アリソン・ピル)に話をすると
「家に早く帰ってきてくれるのは嬉しいけれど、それはあなたが決めて」
というのです。
妻は困ったことは夫に相談するものの、「何でも屋のエディ」は自分の家庭のことは何一つ解決できず。
結局妻が全部問題処理して成り立ってきてたんですが、それでもちゃんと夫に相談はして、
ほったらかしにされても文句ひとつ言わず、夫の仕事にも口出ししない。
なんていう・・・妻の鏡なんでしょ!!

そして、エディーの決めた結論は・・・それは自分の良心に従ったものでした。

なんだ!結局、みんないい人ばかりじゃないですか!
ハリウッド映画とは対局にいる監督だから、批判しないまでも、ちょっとおちょくったりするのかと思ったら
古き良き時代の映画のオマージュと愛にあふれた作品でした。

「腹の底から仕事しろ」っていうエディのことばに思わずうなずき、
「映画とは光で綴られた永遠の物語」ということばにうっとりとしました。