映画「アクトレス~女たちの舞台 」平成27年10月14日公開 ★★★★☆


映画界でその名をとどろかすマリア(ジュリエット・ビノシュ)は、
マネージャーのヴァレンティーヌ(クリステン・スチュワート)と一緒に仕事に励んでいた。
そんなある日、マリアは若いころの出世作のリメイク版への出演をオファーされるが、
彼女が演じた若き美女ではなく、ヒロインに振り回される中年上司役だった。
リメイク版の主役には、ハリウッドの新進女優ジョアン(クロエ・グレース・モレッツ)がキャスティングされていて……。
                       (シネマ・トゥデイ)

新旧人気女優三人の共演に、この邦題。
映画業界のバックヤードでの嫉妬や妬み、権謀術数のうごめくどろどろのドラマを想像して
劇場観賞を敬遠していたのですが、いやいや、全然違っていました。

特殊な業界の話ではなく、もっと普遍的な「老をどう受け入るか」という永遠のテーマを
女優たちの熱演で、それは見応えのあるドラマになっていました。

ヴァル(クリステン・スチュワート)は、大物女優マリア(ジュリエットビノシュ)の個人秘書で、
離婚調停中の彼女に配慮しながらもきっちり助言もかかさない有能な女性です。
アルプスを走る列車内でもヴァルの2台のスマホは鳴りっぱなし。

マリアが新人のころ彼女を発掘してくれた恩人の作家ヴィルヘルムが賞を受けたものの
かわりに受け取るよう本人から頼まれ、彼女はスイスへと向かっていたのでした。

そしてその直後、なんとヴィルヘルム本人の逝去が告げられ、ショックをうけるものの
なんとか授賞式に参加するマリア。
胸の大きくあいたディオールのドレス姿のマリアはとても美しく、
この写真が宣伝で多用されていますが、女優っぽいのはここだけ。

あとはほぼノーメークで、崩れた体形をかくすことなく全裸で泳いじゃったりもしてびっくり。
ほんとにさえないそこら辺のくたびれたおばさんなんですよ~

マリアをスターダムにおしあげてくれたのは、ウィルヘルムの戯曲「マローヤの蛇」でしたが、
このタイミングでこの作品のリメイクへのオファーがあります。
追悼の気持ちから断り切れず、OKしてしまうのですが、彼女の役は、中年女を翻弄する若いシグリッドではなく、
にふりまわされて自殺してしまう中年上司のヘレナの役だったのです。

マリアは18歳の時にシグリッド役でブレイクしたのですが、
アラフォーになってこの役は来ないでしょう・・・と誰もが思いますが
自分はジグリッドにしかなれない、ヘレナの気持ちなんか理解できないというのです。

そんなことじゃ女優と言えないでしょう!と私なんかは思っちゃうんですが、周囲は同情的。
演出家からは「ヘレンとジグリッドはひとりの人物の違う側面と考えて欲しい。
20年たってジグリッドがヘレンになったことを表現してほしい・・・・」
と懇願されます。

仕方なく、マネージャーのヴァルにジグリッドのセリフを言わせて、セリフ合わせするんですが、
これが、マリアとヴァルの会話か、ヘレンとジグリッドの劇なのか見わけがつかないくらい、
マリアはヘレンそのものなんですよ!皮肉。

わざわざ観客が混乱するような演出なんでしょうね?

そして、ジグリッド役に抜擢されたのは、ジョアン(クロエ・グレース・モリッツ)で、
彼女は過激な発言で注目されるSFコスチューム映画出身の女優。
素顔の彼女は、演技の研究にひたむきな真面目な女性で、新進気鋭の若手作家クラウスと不倫関係にあります。

クラウスがヘンデルのファン、というセリフがあるのですが、そのためか、
私の好きな古典音楽がきまって重要な場面にかかるので、とても嬉しいです。
記憶に残っているのはヘンデルの「オンブラマイフ」や「トリオソナタ」
それに、マローヤの霧がかかる雄大なシーンでは、あの「パッヘルベルのカノン」がかかります。満足。

ひと言で言えば、マリアが女優としての自分の「老い」を受け入れる話なんですけど
舞台上の虚構の世界と現実世界の境の曖昧さや、全編に流れる死の影など
奥行きのある深い世界を堪能しました。

3人の人気女優が多くのシーンで対峙するんですが、中でも素晴らしかったのが
ヴァル役のクリステン・スチュワート。
彼女はヴァンパイア映画のヒロインでブレイクして、ラズベリー賞の常連でしたが
「アリスのままで」そして本作のような等身大のリアルな女性が本当にはまり役で
助演女優賞軒並み獲得も納得です。
「エージェントウルトラ」のようなコメディも良かったし、これから最注目の女優さんですね。

彼女がマリアにいうセリフが忘れられません。
「あなたは人間として完成され女優としても円熟しているのに
なぜ、若さの特権にしがみつくの?」
そしてマリアが
「若さを望まなければ、老人扱いもされないわけね」
というような反応をするのですが、
これは女優に限ったことだけではなくて、私たちの世代には耳に痛いけれど、
最良のアドバイスだと思いました。