映画「グランドフィナーレ」 平成28年4月14日公開 ★★☆☆☆



80歳になり現役を退いたイギリス人作曲家フレッド(マイケル・ケイン)は、
親友の映画監督ミック(ハーヴェイ・カイテル)と共にアルプスの高級ホテルで休暇を満喫していた。
ある日、エリザベス女王の使者という男が彼を訪ね、フレッドの代表作を女王のために演奏してほしいと依頼する。
ある理由からそれを断ったフレッドだったが、ホテルの滞在客との交流を通し心境に変化が起き……。
                                       (シネマ・トゥデイ)


パオロ・ソレンティーノ監督には、二年前に大いに騙されてしまったので、今回はすごく用心していました。
いや、監督に騙されたんじゃなくて、「外国映画賞受賞」というのを信頼しすぎてしまったというか・・・
カンヌのパルムドールだったらもっと用心したと思うのですが、
アカデミー賞外国映画賞を総なめした「グレートビューティ追憶のローマ」が
まさか意味不明のアート作品とは思いませんでした。

で、今回は監督自らノベライズした文庫本を読んだところ、一応ちゃんとしたストーリーがあって、とりあえず安心。
今回は舞台はイタリアですが全編英語なのでアカデミー賞は「外国映画賞」ではなく、
「主題歌賞」(ノミネート)でした。
最後はそんな評価の高いクラシック音楽で大団円、そして「グランドフィナーレ」の邦題・・・
と、心配要素はすべて払しょくされました。
しかし・・・・今回も、正直不満でした。

「シンプルソング」というこの主題歌、レビューをみると、みんなべたほめしてますから
私の感性に問題があるんでしょうが、メロディラインは美しいけど、シンプルと言うよりゴテゴテです。
正確に言うと、目を閉じて聞くとシンプルをいえなくもないけど、目をあけるとゴテゴテです。
私はスミ・ジョーという韓国出身の歌手を知らなかったのですが、
不自然な整形顔のおばさんが体をくねらして気持ち悪く歌ってるとしか思えない。
(あとでネットで見たら、普通に美しい声のソプラノ歌手でした。)
「グレートビューティ」のときも思ったんですが、監督はアジア人になんか偏見でもあるんでしょうかね?

いや、アジア人に限らず、明らかにマラドーナをモデルにしたと思える巨大デブの元アスリートや
「ベッドですごい」のだけが取り柄の不細工ポップ歌手・・・という実在の歌手パロマ・フェイスに至っては
出演オファーがあったときはまさかこんな役だとは思わなかったんじゃないか?とか、いろいろ気になっちゃいました。
見たくもない汚い全裸のおかげ(?)でR15になっちゃったり、全編嫌がらせにしか思えません。
なにげに英国王室もディスってましたね。

ところで、ストーリーの方は、セレブ達の話ではありますが、なんかしみじみとした展開。

アルプスの麓の長期滞在型高級ホテル。
温泉に入ったり、プールで泳いだり、腸内洗浄したり、マッサージを受けたり・・・
何にもすることのない人たちが働くでも遊ぶでもなく日々をすごしている時間がとまったかのような空間です。

ここに滞在するフレッドは引退したマエストロで、イギリス女王の特使に、自分の作曲した「シンプルソング」を
女王陛下の前で指揮して欲しい・・・という依頼をされますが、
にべもなく断ります。
特使は(そういうわけにはいかないので)なんどもやってきますが、気持ちは変わらず。

一方、彼の親友であるニックも同年代の80歳ですが、彼はまだ現役の映画監督で
ホテルに若い脚本家たちを呼んで最後の脚本の調整をしています。

このふたり、フレッドの娘のレナとニックの息子のジュリアンは夫婦なので、親戚でもあるのですが
御前演奏のオファーが来て困ってるとか、脚本に行き詰ってるとか
悩みを打ち明けるようなことは全くせずに、楽しい話か、前立腺とかのあたりさわりのないことしか話しません。

彼らのほかの滞在者たちもそれぞれに休暇や余生をここで過ごしているのですが、
若い年代の人もいて、
俳優のジミーはミスターQというロボット役で一世を風靡したものの、被り物以外は鳴かず飛ばず。
自分のイメージを払拭したくて、新しい役に挑戦しようとしています。

「シンプルソング」をバイオリンで何度もさらう少年や、アバヤ姿のアラブ女性、
浮遊するチベット僧、レストランスタッフの更衣室・・・
いろんな人がちらっと映りますが、伏線なのかそうでもないのか?その辺が分かりません。

ミスユニバースの副賞で滞在している美人の入浴シーンなんかもありますけど、
あんまり見たくない裸やファックシーンが不意打ちに登場したりするのでご用心ください。

ミックは、あとは大女優のブレンダがオファーを受けてくれれば映画の企画が通せるので
時間をかけて説得しているのですが、突然ブレンダ本人(ジェーンフォンダ)がホテルに現れ
ミックを力の限りなじるのです。
「あなたの最近の映画は3本ともクソよ」
「あなたの遺言映画なんて誰も興味ない」
「私の名前だけで映画を売ろうとしているから、出演しないことであなたを救うわ」
「これは尊厳の問題よ」

彼女がミックのためを思ってしているのはわかるのですが、老人にこれを言ったらだめだよね。
フレッドとミックのような関係がずっと長いこと友情を続けられると思いました。

ブレンダなしで映画を成功させてやるといったものの、失意のミックはホテルの部屋から飛び降り
一方のフレッドは「個人的な事情」をなんとか克服して演奏会にこぎつけるのです・・・


音楽を推している作品なので、見に行きやすい上映館(シネスイッチ、シネリーブル)の音響がイマイチで
躊躇してたんですが、映画館であれば、別にどこでもよかったかな?

予告編にもあった、牛たちを前にタクトをふるシーン。
カウベルや風の音が牧歌的なハーモニーを奏でます。
指揮で自分のイメージが具現化できるという幸福感でいっぱいになりますね。
こちらのほうがずっと記憶に残っています。

それにしても、グレートビューティといい、まだ40代の若い監督が、
なんでこんな老境に入った男の悲哀を描きたがるのかな?