映画「クリード チャンプを継ぐ男」 平成27年12月23日公開 ★★★★☆




ボクシングのヘビー級チャンピオンであったアポロ・クリードの息子、アドニス・ジョンソン(マイケル・B・ジョーダン)。
さまざまな伝説を残したアポロだが、彼が亡くなった後に生まれたために
アドニスはそうした偉業を知らない上に、父との思い出もなかった。
それでもアドニスには、アポロから受け継いだボクシングの才能があった。
そして父のライバルで親友だったロッキー(シルヴェスター・スタローン)を訪ねて
トレーナーになってほしいと申し出る。                 (シネマ・トゥデイ)

クリードというのは、大昔にロッキーが戦ったあの星条旗パンツのアポロの苗字です。


映画「ロッキー」の公開は1977年4月。
なんと今大ブームの「スターウォーズ」のちょっと前に公開されました。
この時期、私は(今ほどではありませんが)年に40本くらい映画を観ていて
どちらかというと、「スターウォーズ」より「ロッキー」の記憶が強くて、多分2回は観てると思います。
当時は今ほど洋画の封切りが多くなかったし、ヒットすると何か月もやってるので「スター誕生」なんて7回も観ました。
そういえば、レンタルビデオ店もまだなかったから、映画館でみるしかなかったんですよね。

リアルな練習風景、あのテーマ曲の高揚感もですが、
主役のロッキーを演じたシルベスター・スタローンは無名の脚本家で
どうしてもこの企画を通したくて、自ら主演をつとめ、切り詰められる所はすべて切り詰めて
とんでもない低予算で作った結果が、大ヒットして高評価、
アカデミー賞作品賞まで獲った・・・という実話の方もなかなか感動的でした。

ロッキーはその後何回も続編が作られましたが、こちらの方は「スターウォーズ」とは大違いで
だんだんクオリティが落ちてきて、2008年に終了。
その後「ランボー」のシリーズでアクション俳優としての立ち位置は不動のものとなり、
2010年から始まったオールスター+若手組の「エクスペンダブルズ」のシリーズもパワーアップしてるので
もうロッキーは過去のものと思っていたら、なんとそのスピンオフ作品が公開!

それがこの「クリード チャンプを継ぐ男」なんですが、
「チャンプ」というのはロッキーではなくて、彼の永遠のライバル、アポロ・クリードの方なんですね。
私は、「イタリアの種馬、ロッキー・バルボア」は覚えてましたが、
アポロの苗字である「クリード」はすっかり忘れていたので、すぐにはピンとこなかったです。

本作の主人公アドニス(ドニー)はアポロが愛人に産ませた息子で、アポロの死後に生まれたから
父のことは全く知りません。
母も亡くなり、施設にいるところを、養子に迎えたいというセレブな女性が・・・
なんと彼女は、アポロの正妻メリー・アンで、彼女に引き取られて、大学を出て就職しますが
趣味でやっていたボクシングをどうしても極めたくて、仕事を辞め家も出てしまいます。

フィラデルフィアにアパートを見つけ、ボクシングジムで練習をはじめ、
宿敵のロッキーをさがすと、彼はもうボクシングを辞めて、カフェ「エイドリアン」を経営する一般人に。
それでもしつこく頼み込んで個人レッスンを了承させ、
「マイティミッキーのボクシングジム」の片隅でマンツーマンの練習が始まります。
なわとびや、鶏を追いかけたり、あのロッキーステップ(フィラデルフィア美術館の階段)まで出てきて
第一作を観た人にはたまらない演出になっています。
アパートも出てロッキーの家に住み込んでほとんど親子みたいです。

施設の問題児だったダニーが、実母の恋敵である父の正妻にひきとられ、
父を殺した宿敵にボクシングのトレーナーになってもらう、なんてずいぶんですが、
人の嫉妬や憎悪のような感情を超越したものがボクシングにはあるのでしょう。
そういえば、ロッキーの息子のロバートは既にボクシングをやめちゃってるので
いい素質をもった若者がいたら自分の手で育ててみたい、という気持ちもつよいのでしょうか。

ドニーには、ジムのコーチの息子で、今まで負けたことのないレオとの試合が組まれるのですが
練習の成果が出て、2ラウンドKOでドニーの勝利。
彼は母の姓ジョンソンをなのっていたので、あのアポロの息子だと知っているのは一部の人だけだったのが
このタイミングで公になってしまい、それに興味をもった世界チャンピオン、コンランから
「クリードを名乗ること」を条件に試合を申し込まれます。

ロッキーがなんの肩書きもなく「イタリアの種馬」というニックネームを面白がられて
世界チャンピオンと闘うことになったのとは大違いです。
2戦目でこんなに大きい試合が組まれるなんてありえないでしょうが、
いずれにしろ、ドニーは話題作りの「かませ犬扱い」
それでもドニーにとっては新人でも「クリードのプライド」という「失うもの」あるので
相当なストレスです。
負けたら、偽物といわれ、父の名を汚すことになるのですから・・・

①グローブ職人
②ミットの達人
③止血の名人
という三人のベテランスタッフ(一見ただのおじいちゃん)も加わり
エリート養成の「虎の穴」みたいな万全の体制。
ところが、ある日、ロッキーが体調に異変をきたします。

病名は「非ホジキンリンパ種」というリンパ節にできる腫瘍でガンの一種。
妻のエイドリアンも乳がんで、治療の甲斐なく亡くなっているので
ロッキーは治療をかたくなに拒否するのですが、ドニーは激怒。
これにはロッキーも折れて、病気との「勝ち目のうすい闘い」をすることになるのですが
世界王者との一戦もガンとの闘いも、壮絶な闘いにかわりはありません。

ドニーには歌手のビアンカという恋人もできるのですが、彼女も進行性の難聴で、
いつ耳が全くきこえなくなるかわかりません。
それでも今を楽しみたいという前向きな彼女とのこれからも気になります。

後半は「スポ魂もの」に「難病もの」がミックスされてきますが、最後のクライマックス
リバプールで行われるライトヘビー級のタイトルマッチへとつながります。

対戦相手をリング外でつぶしちゃうような乱暴者のチャンプ、コンランではありますが、
われらがチャンプの地元開催、相手は経験のない「親とトレーナーの七光り選手」だから
ドニーにとっては完全にアウエイ状態。

試合の経過は(ここがクライマックスなので)詳しくは書きませんが
「チャンピオンは試合に勝ち、挑戦者は闘いに勝った」といわしめる素晴らしいゲーム。
ここは大きな画面で見る価値が十分にあります。


「スターウォーズ」の新シリーズにハンソロのハリソン・フォードがしっかり登場したのも嬉しかったけれど
シルベスター・スタローンはそれ以上に大活躍で、限りなく主演に近い助演です。
30年以上前の第一作から、永い年月を経て、同じ人が同じ役柄で出てくれるのは
もう(初代を知るものにとっては)それだけで感慨無量です。
二人ともまだ第一線で活躍していて(経年劣化はしてるけど)今もオーラを放ちつづけてるのも嬉しいです。

ロッキーは、「末期がんで死期が近い」という設定ですけど、
まだまだ戦っても行けそうな気もします。
ロッキーはずっと長袖長ズボンでしたけど、胸板も厚くて、まだまだ肉体は健在のようにお見受けしました。

この作品で、シルベスター・スタローンは、ゴールデングローブ賞の助演賞にノミネートしてるんですね。
同じ役で二度ノミネートされた人は初めてだとか。
確かに何十年も経ったら、オリジナルのヒーローは,普通、カメオ的な扱いになりますよね。
(「スターウォーズ」にちらっと映ったマーク・ハミル程度)

多分本作にも続編がありそうですが、次くらいでロッキーは死んじゃうかな?
あるいは(エイドリアンみたいに)死んでるの前提で次作が始まるのじゃないかと思います。

シルベスター・スタローンには、「エクスペンダブルズ」のほうで、もっともっと体を張って頑張ってほしいです。