映画「完全なるチェックメイト」 平成27年12月26日公開 ★★☆☆☆

原作本「完全なるチェス 天才ボビーフィッシャーの生涯」 フランク・ブレイディー 文芸春秋


1972年、アイスランドで行われたチェス世界選手権で、
ボビー・フィッシャー(トビー・マグワイア)とボリス・スパスキー(リーヴ・シュレイバー)が対戦する。
長きにわたりソ連がタイトルを持ち続けてきたが、史上初のアメリカ人挑戦者が誕生。
若き天才の登場に世界中が注目する中、ボビーは第2局に出現することなく不戦敗となり……。(シネマ・トゥデイ)

チェスは欧米映画のガジェットとして登場することが多く、特に、ミステリーなんかでは
駒の種類や最低限のルールが知ってないと、まったくオチが分からなかったりするんですが、
本作はチェスの映画だというのに、ルールわからなくても全然オッケー・・・というのは意外でした。

ボリスは子どもの頃貧しくて、唯一のおもちゃである1ドルのチェス盤で遊んでいるうちに
まわりの大人を負かすようになって、15歳でグランド・マスターとなり、引退と復帰をくりかえしながら
世界選手権を勝ち上がって、チャンピオンのソ連のボリス・スパスキーに挑戦するって話なのですが
このボリスという男は以上に神経質で変わり者。
嫌がらせみたいな行動ばかりで、周りの人たちはたまったもんじゃありません。
盗聴を疑って部屋中のものを分解したり、カメラのノイズ音や客の咳払いにキレたり・・・
一番困るのは、大事な試合にやってこないこと。
ジェームス・ディーンも昨日の映画の中で、大事なプレミアをサボってましたが、
プロの棋士が選手権をすっぽかす(それもひんぱんに)なんて、敵前逃亡といわれてもしょうがない。
もうそれだけで資格はく奪に等しいです。

それでも彼が評価されるのは、他の人が考えもしないような華麗な差し手で相手を追い詰めること。
ソ連の世界チャンピオンボリススパンキーとの決勝戦の第三戦でも、
シシリアン・ディフェンスというチェスの定石を放棄して前代未聞の見事な差し手を披露しました。
チェスのわからない人に説明してもしょうがないですが、
それでも上のカメラから駒の動きを写したりして説明するふりはしてほしかったな。
カメラは駒ではなく、プレイヤーの苦悩の表情ばかりとらえていて、ちょっと飽きてしまいました。

協会幹部やチェスのファンたちをイラつかせ、スタッフたちを困らせる彼の傍若無人なふるまいも
たまにならいいですが、終始こればかりなので、これにも飽き飽き。

思ったんですけど、「マツコ&有吉の怒り新党」という私の好きな数少ないテレビ番組があるんですけど
その「新3大○○調査会」のなかで、「ボリス・フィッシャーの華麗なる神の一手」とかで
サクッと説明した方が良かったのかも。
彼はこのほかにもクイーンやナイトをわざと捨てて勝ったりもしてたそうだから、
その中から有名な勝負を3つ選び、解説付きで紹介しつつも、彼の変人ぶりに触れたりして・・・
30分以内にコンパクトにまとめて、ある程度彼をわかったつもりになりたかったです。

上映時間2時間近いわりには、そんなに彼の内面にせまっているとはいえないし、
「米ソの代理戦争」というわりには、(キッシンジャーから電話がかかった以外は)
セキュリティにしろ、移動手段にしろ、けっこうボビーに対する扱いは雑だったように感じます。

映画の冒頭でボビーの母親がロシア語を話していたので、もしかしてロシア人?と思ったんですが
彼の母は数か国語をこなす国際人にしてシングルマザー。
スパイの容疑をかけられたりもしていたから、それで彼も盗聴にひどく敏感だったのでしょうね。
原作本には彼の生い立ちが詳しくかかれているのですが、ボビーが一度もあったことない父親の話とか
(トビー・マグワイアのキレ芸よりも)こっちのほうが興味があります。

彼の晩年は、映画ではエンドロールでの紹介でしたが、日本にもチェスプレイヤーの現地妻がいて
なんと8年も事実婚状態で、10年前まで日本にいたのに、名前を聞いたことすらないのが不思議です。

一番近くにいた牧師や弁護士、あるいは一番の理解者といわれる姉の目線で描いても良かったかも。

かなり好きなカテゴリーの映画なんですが、非常に残念でした。