映画「グラスホッパー」 平成27年11月7日公開 ★★☆☆☆
原作本 「グラスホッパー」 伊坂幸太郎 新潮文庫 ★★★★☆


恋人を殺害した犯人へのリベンジを誓った鈴木(生田斗真)は、教職を辞め
裏社会の組織に潜入しその機会をうかがっていた。
絶好の機会が訪れた矢先、押し屋と呼ばれる殺し屋の仕業で犯人が目前であっけなく死んでしまう。
正体を探るため鈴木が押し屋の後を追う一方、特殊な力で標的を自殺に追い込む殺し屋・鯨(浅野忠信)は、
ある任務を終えたとき、殺人現場を目撃し……。(シネマ・トゥデイ)

妻を殺された復讐のためにヤバい会社に潜入した「普通の元教師」鈴木が
そこで出会ったちょっと変わった殺し屋たちとわたりあう話で、
「マリアビートル」へとつづく伊坂幸太郎の人気路線なんですけど、
監督が「初伊坂」の人だったので、ちょっと心配でした。
でも彼の小説は「映像化は無理」といわれながらも、「ラッシュライフ」(←これはヒドイ!)以外は
けっこう成功しているんですよね。
中村義洋監督で、『鈴木」が堺雅人、「蝉」は濱田岳、といった
「ゴールデンスランバー」のときの鉄板メンバーを期待していましたが、監督は滝本智行。
原作を読んだかどうか不安になるほどの改変がされていましたが、
とりあえず、冒頭の渋谷スクランブル交差点のシーンにはただただ圧倒されました。

ハロウィーンの夜。
仮装をした人でにぎわう渋谷の街に脱法ハーブを吸った男がアクセル全開で突っ込むという・・・
そしてその被害者の写真をスマホで写して拡散する傍観者たち・・・
最近の衝撃事件を集約して過剰にしたような、ショッキングな大事件です。
どう見ても渋谷で実際にロケしたとしか思えない映像がすごくて、
(実際は千葉県市原市のつぶれたショッピングセンターの駐車場にスクランブル交差点を「再現」したそうですが)
その完成度の高さには驚きました。

ただ、これが最大の見どころで、オープニングで派手にかました割には尻つぼみで、
「これ、結局必要だった?」となるのが残念。

伊坂さんの小説は(舞台が仙台以外のときは)地名がでてきても現実感薄くて
警察やマスコミがでてこなくてもそんなに気にならないんですが、
ここまですごい事件にしてしまうどそうはいきません。
警察も威信をかけて捜査し、(鈴木ががんばらなくても)ほどなく寺原にたどりつくでしょうし、
だいたいハロウィンの夜の渋谷の現場なんて警官だらけですよ!
テレビ局のカメラもたくさんあったはずだし、その後のワイドショーでも
「被害者の夫(映画では婚約者?)」として、きっと鈴木のところにも取材申し込みがあったはず・・・
なんて余計なことをいろいろ考えてしまいます。

原作は「鈴木」とナイフ使いの「蝉」と自殺屋の「鯨」の三人が交互に語り部をつとめるのですが
よくしゃべるから「蝉」、身体が大きいから「鯨」というのは全く無視されてました。
ただ、山田涼介(蝉)の身体能力、殺した人間の幻影に苦しむ浅野忠信(鯨)は見ごたえあり。
いつも付きまとう殺した父親の幻が宇崎竜堂というのも、ナイスキャスティング!

比与子も、奈々緒が最初から悪女キャラ全開で楽しげに演じてましたが、
そもそも彼女は鈴木に仕事を教える地味な教育係の設定では?
奈々緒もテレビの再現シーンレベルの悪女なので、劇場公開映画で生き延びていくには
もうちょっとアクションとかできないと話にならないですよね。

登場人物のキャラを変えるのはこの監督の特徴のようで、
「脳男」の緑川を女性にしたのは二階堂ふみの好演もあって成功でしたが、
今回は一部を除いてスベリたおしてました。
ジャニーズのふたりが役者っぽく見えれば後はいいや・・・みたいな?
原作ファンとかほぼ無視ですかね。

「密集して育ったトノサマバッタは「群集相」と呼ばれる凶暴なタイプになる」という押し屋のセリフや
岩西がたびたび引用する「ジャック・クリスピンの名言」なんかはいかにも伊坂幸太郎!なんですけど
唐突な感じで浮いていましたね。
「フィッシュ・ストーリー」の時のようにジャック・クリスピンのレコードが出てきたときは興奮しましたが、
あんまりふくらましてもらえなくて残念・・・

比与子や寺西社長の登場シーンや、すみれがぺらぺらとネタバラシするところとか
映画と言うより、お安いテレビドラマみたいで、映画ファンや伊坂ファンの心ははなれてしまいます。

冒頭の渋谷のシーンで、本作の続編にあたる「マリアビートル」の垂れ幕がかかってましたが
これは「続編も監督するから見てね」というメッセージ?

個人的には山本義洋監督でぜひ撮って欲しいと思ってしまいました。