映画「彼は秘密の女ともだち」 平成27年8月8日公開 ★★★☆☆
原作本「女ともだち(レンデル傑作集3)」 ルース・レンデル 角川文庫




親友が死去し気を落としていたクレールは、残された夫ダヴィッド(ロマン・デュリス)と赤ん坊の様子を見るために
彼らの家に行くと、亡き妻の服を着て娘の世話をするダヴィッドに出くわす。
彼から女性の服を着たいと打ち明けられ困惑するクレールだったが、やがてダヴィッドをヴィルジニアと呼び
夫に内緒で交流を重ねるうちに、クレール自身も女性としての輝きが増していく(シネマ・トゥデイ)

大親友のローラの葬儀の日。
クレールはスピーチをしながら過去を振り返っていました。
7歳で出会った時からずっといっしょにすごし、彼氏ができたり裏切られたり・・・
やがてローラがダビッドと結婚、つづいてクレールもジルと結婚、
ローラが妊娠し、リュシ―を出産、洗礼・・・・
そしてローラは愛する夫と娘をおいて旅立ってしまったのでした。
「私の命ある限り、リュシ―とダビッドを見守ると誓うわ!」


ところが親友を失ったクレールは茫然自失で仕事も手につかず、1週間の休暇をとることに。
ダビッドの家を訪れると、リュシ―を抱いていたのは、ローラの服を着たダビッドなのでした・・・・

とまあ、ここまでは「折込済み」で、あの毛深くてごつごつしたロマン・デュリスがどこまで化けるか?
・・・っていうのが楽しみでもあり、恐怖でもありますが、
まずはローラと出会った時の(多分)10代のダビッドが若くてびっくり!
一瞬だったけれど、41歳のロマン・デュリス、頑張りました。

女装の方は、まずひきしまった美脚にびっくり。
ウエストも細くて、お直しなしで着られる服もあるほど。
そして身のこなしや化粧した後の目の輝きが素晴らしい。やっぱ名優だわっ!

ストーリーが進むにつれ、普通だったら女装のクオリティがあがりそうなものなんですが、
最後まで女性にはなりきれていなかったような・・・・

当初ダビッドは女装することについて
「リュシのためにママの臭いのする服を着た」というんですが、それは言い訳で
実際は生まれついての「女装癖」があったようです。
生前のローラは黙認していたというのですが、クレールは嫌悪感をあらわにして
「自分の快楽のためね。変態だわ」
でもローラを忘れられる日までは仕方ないと感じて、いっしょにショッピングに出かけます。

「女ともだちとでかける」と夫のジルにはいっていたので、
名前を聞かれて思わず職場の前のホテルの名前「ヴィルジニア」と答えてしまうのですが、
この「ヴィルジニア」がダビッドの女装している時の名前となります。

街中では気味悪がられたり、映画館で痴漢(たぶんオゾン監督では?)に出会ったり。
二人はふたりだけの秘密を共有する楽しさにちょっと浸ったりして・・

オゾン監督自身がゲイをカムアウトしているくらいですから、一見ゲイ映画にみえるんですが、
結局ダビッドは性同一障害でも男色家でもなく、
ただ女性の姿になるのが好きな「女装家」といえそうです。
「ヴィルジニア」という名前を手に入れてからは、
自分のなかの男女の二つの人格を楽しんだりとまどったりしているようです。

フランスなんかではゲイはけっこう認知されてきているので、
むしろダビッドのような女装癖のほうが「みっともない」「変態」と言われる存在。
このカテゴリーは人それぞれで、なかには女性より美しい人もすくなくないようですが、
ヴィルジニアは最後まで完成度低かったなぁ~
あれだけ細いんだからメイク技術でどうにでもなりそうだと思うんだけど・・・
邦画だったら「海月姫」の菅田将暉なんて上手に撮ってもらって、インパクトある美しさでしたもの。


観てる方から言うと、美しい方が有り難いけれど、
やっぱりヴィルジニアはみっともなくて恥ずかしいビジュアルでなければダメのようです。
メイクに頼らず演技力で乗り切ったロマンはさすがですね。

最初理解できなかったのが、クレールは優しい夫がいながら、なんで「ヴィルジニアが恋しい」なんて言ったこと。
彼女があそこで退却したら、ダビッドはノーマルな生活に戻れそうだったのに・・・

多分クレールはヴィルジニアとつきあうことで、ローラを失った悲しみを癒せたのでしょう。
子どもの時からローラの少しあとを歩いていくような控え目な少女だったクレールは、
ヴィルジニアのなかにローラの姿を見つけたのでしょうか。
むしろクレールの方が隠れレズビアンだったのかもね。

結局ジルはこのふたりにはついていけず、離婚。
ヴィルジニアとクレールで(葬儀の時の誓い通り)リュシ―を育てることになります。

7年後可愛らしく成長した小学生のリュシ―を迎えに行くのは、
ばっちり女装した(でもやっぱり気持ち悪い)ヴィルジニアとクレール。
そしてお腹の中には赤ちゃんが・・・
つまりリュシ―は「女装家の実の父」と「血のつながらない母」に育てられて、
もうすぐ異父弟妹が生まれるというビミョーな状態。
リュシ―が学校でいじめられないことを祈りますが、
かといって、ここまで多様化の認められた自由な社会、というのもちょっとめんどくさそうです。
頭がこんがらがってかなり戸惑いますが、まあフランス映画ですからね。
不思議な体験をさせてもらいました。


ルース・レンデルが原作と言うので、気になって読んだのですが、
共通するのは「友人の女装癖の夫と外出して楽しくすごす」というところだけで
小説の方の結末はかなりブラックです。
この小説が発表されたのは80年代。
この時代には、この話をおわらせるには「殺す」しかなかったんでしょうか?
いろんな性癖の人たちが共存できる社会なりつつあるのは確かなので、
フランス映画をたくさん見て、フレキシブルに対応できるようにならなければ・・・