映画「フレンチアルプスで起きたこと」 平成27年7月4日公開 ★★★★☆
 

フランスのスキーリゾート地にスウェーデン人一家がバカンスにやって来る。
山際のテラスで昼ご飯を食べていると、突如ごう音が鳴り響き目の前の斜面で雪崩が発生。
大事には至らず家族は無事だったが、夫トマスが取った行動により頼れる理想のパパ像は崩れ去り、
妻と子供たちの反感を買い家族はバラバラなってしまう。
(シネマ・トゥデイ)


この映画まったくノーマークだったんですが、巷の高評価で鑑賞決定。
ゴールデングローブ賞外国映画賞にノミネートされた「ツーリスト」っていうのがこれだったんですね。
ちなみに原題の「FORCE MAJEURE」はフランス語で不可抗力、みたいな意味だとか。
日本語タイトルはなんだかドキュメンタりー映画みたいですが、
「ツーリスト」「不可抗力」「フレンチアルプスで起きたこと」のタイトルから内容が推理できたらたいしたものです。

そもそも「フレンチアルプス」なんて言葉、初めて聞きました。
アルプスといったら、私のような行ったことない人にはスイスとかオーストリアのイメージですが
独、仏、伊、リヒテンシュタイン、スロバニアにかけても広がっているとか。
そうそう、フランスで開かれた冬季オリンピック、グルノーブル、シャモニー、アルベールビル、
そのあたりが「フレンチアルプス」なんでしょうかね?名前しか聞いたことないけど・・

登場するのは、この高級リゾート地にスウェーデンからやってきた4人家族。
父のトマスはかなりの仕事人間のようで、ようやく取れた5日の休暇を
家族サービスに使おうとフランスまでスキーをしにきたのです。
妻のエバは美人だし、ベラとハリーの子どもたちも可愛いし、ホントに理想的な家族にみえます。

ゴキゲンな様子で家族写真に納まった彼らは初日からガンガンすべりまくります。
リゾート地ではありますが雪山ですから、危険がないとはいえません。
ときおりバカンスとはそぐわないビバルディの四季「夏」が鳴り響き、不安を誘います。

「四季」は明るい春の第一楽章と美しい冬の第二楽章が有名ですが、ビバルディには激しい嵐の音楽も多く、
「和声と創意への試み」では「四季」4曲に続いて「海の嵐」という協奏曲が続き、これは3楽章とも嵐ですからね。
不吉な予感が現実となり、情け容赦なく自然の驚異が人間たちを襲う、けっこう激しい曲調です。

さて、「事件」が起こるのは2日目。
朝のスキーを終え、見晴らしのいいデッキでランチを楽しんでいると、山の方から雪崩の音が。
これは大きな雪崩を防ぐために、安全対策として人工的に爆薬を使っておこしている小さな雪崩で
「プロの仕事だから大丈夫」とトマスは不安がる家族を安心させます。
ところが、次の瞬間、轟音とともに巨大な雪の壁がすぐそばまで迫ってくるのです。
叫び声が飛び交い、みんなパニック状態!

幸い雪崩は手前で止まり、真っ白い雪煙が舞ったくらいで済んだのですが、
なんと家族を守るべきトマスがスマホと手袋をもって誰より先に逃げ出してしまったのです!
逃げ出す夫をしっかり目撃してしまったエバはショックを隠し切れません。
一方のトマスは何事もなかったかのように元の席に戻るのですが、みんな無言。
トマスの席はみんなとは離れていたのかな?とも思ったのですが
↑の画像を見る限り、すぐとなりにハリーがいるにもかかわらず、躊躇なく逃げ出してますよね~!
これは酷い。

最初は遠慮してこのことに触れなかったエバも、あんまりトマスがしゃあしゃあとしてるから
だんだん腹がたってくるんですね。

夜、たまたま知り合ったカップルと雪崩の話題になるのですが
「トマスはあの時私たちをほったらかしにして逃げたのよ!」とエバ。
それまで英語で話していた二人は、スエーデン語で「逃げた」「逃げない」とケンカを始めます。
子どもたちもパパが逃げたのはわかっているから、なんとなく尊敬できなくなるし
逆に子どもたちが反抗的な態度をとってもトマスは叱ることさえできなくなります。

3日目。
エバは子どもの世話を夫におしつけて一人でスキーを楽しみます。
両親の不仲を察した子どもたちは「ママと別れないで~」と涙。
夕食に、トマスの友人マッツが二十歳の恋人とやってきますが、ここでもエバは例の話を。
「起きたことを認めないのはおかしい」というエバに
マッツはトマスの友人だから「そういう状況では人間は自分の価値観と違う行動にでることがある」
「(一緒に雪崩の下敷きになったら全滅だから)まず自分が助かって家族を助けようとしたんじゃないか」
などと必死でかばいますが、今度はマッツのほうまで恋人のファンニから
「あなたもきっと逃げるタイプね」といわれて落ち込みます。

4日目
こんどはトマスがマッツと一緒にかなり山頂に近いところからのスキーを楽しみますが
ホテルの部屋に入ろうとしたら締め出されてしまい、もう心が折れて大泣きしてしまいます。
「嘘つくし 浮気するし 子どもとゲームするとズルするし
こんなサイテーの性格はもう捨ててしまいたいよ~」
いかにもエリートサラリーマンの風貌、マーク・ウォルバーグ似のマッチョなイケメンのトマスが
哀れな駄々っ子になってしまって、情けないったらありゃしないです。


「夫婦あるあるネタ」がちりばめられていてコメディタッチではありますが、
普段ちょっとエラそうにしている男性にとっては「ホラー」になるかもしれません。
ホントは弱虫なくせに「男は家族を守らなきゃいけない」という男のプライドがあるから
素直に「はい、逃げました」とは言えないんでしょうか。

雪崩のような危機のときに自分がどういう行動をとるかはシミュレーションできないことです。
(前にも書いたけれど)311の時私は自分の逃げ足の速さに驚きました。
映画館で映画観ていたのに、最初の揺れで誰よりも早く外に飛び出して、階段まで逃げましたもの。
でももし幼い子どもを連れていたら、絶対に一人で逃げることは考えられません。
これは母親ならきっとみんなそうだと思います。

うちの夫は、高いところが怖くて、しかも泳げないから、(逃げる逃げないはともかく)
山や海で助けてもらおうなんて最初から期待していません。
そして夫は「まずは謝る」タイプなので、トマスとエバのような不幸な結果にはなりそうもないので
とりあえずは安心、ですかね。

常日ごろリーダーシップをとりたがる「俺様系」夫だったりすると、
いっしょに観に行って気まずくなること請け合いです。
でも、そういう人にこそ見て欲しいなあ~

本作は外国語映画賞最多15冠とったと公式サイトにありましたが
舞台がフランスなので、現地ではフランス語、旅行客やホテルスタッフとは英語、
そして夫婦や親子の会話はスウェーデン語と使い分けられているのも見どころ。

ドローンの飛行音や電動歯ブラシの機械音の不気味さ、
この家族をいつも傍観しているホテルスタッフの存在とか、あきらかに意識しているんでしょうが
あの放尿シーンの多さだけはちょっと狙いがわかりませんでした。
シンプルな話なので、冗長なところは削って、1時間半くらいにコンパクトにまとめて欲しかったかな。