映画「グッドライ いちばん優しい嘘」平成27年4月17日公開 ★★★★★

 カンザスシティーの職業紹介所勤務のキャリー(リース・ウィザースプーン)は、
スーダンの内戦で両親を亡くしたマメール(アーノルド・オーチェン)らを空港で出迎える。
これまで抜かりなく仕事をこなしてきた彼女の任務は、難民の彼らに勤め先を見つけることだった。
だが、電話など見たこともなく、マクドナルドも知らない彼らの就職は困難を極める。 (シネマ・トゥデイ)

いかにも「感動もの」っていう感じのタイトルにリース・ウィザースプーンの大写しのポスター。
スーダン難民の話らしいので、きっと彼女が自分を犠牲にする優しい嘘で彼らを救い、
組織や社会を動かしたんじゃないか・・・みたいな予感で、どうしても観たい、ってほどでもなかったのですが、
実際観たら、あら、びっくり!
主役はスーダン難民の青年たちで、、リース演じるキャリーは彼女が十八番のラブコメのヒロインそのまま。
ドライで口が悪くて片付けが苦手で・・・みたいな等身大の女性です。

1983年に始まった(第2次)スーダン内戦。
約二百五十万人の南部住人が殺され、数百万人が居住地を追われたといわれます。
文章にすると1行ですが、今まで平和に暮らしていたのに、ある日突然ヘリが空を飛び
銃をもった兵士が全く無抵抗の村人たちを無差別に射殺し、村は焼き払われ
残った子どもたちはうろたえるばかり。
どんなにか恐怖にさらされたことでしょう。
この内戦はアラブvs非アラブの抗争らしいですが、全く民間人の彼らにとってはなんのことやら・・・です。

それでも生き残るために村を捨て、兄弟で東へ向かいます。
前に長老が
「何かあったらエチオピアが安全だ」と聞かされていたから、ひたすら東へと・・・
持ち物は1冊の聖書と鍋だけ。
水も食べ物も見つかる保証はなく、猛獣がうろつき、兵士からいつ攻撃を受けるか分からない危険な旅路。
それでも、ヒョウの食べ残しを奪ったりしてなんとか東へ416㌔歩いてエチオピア国境へ。
ところが、逆にエチオピアから逃げてくる人たちと遭遇。
仕方なく、今度はケニア目指して南へと歩きはじめる兄弟たち。

 

右下の小さい目盛が100km。
これだけの距離を、何も持たず裸足で小さい子どもたちが歩き続けるんですよ!

ある大きな川にさしかかった時、兄のテオが
「この先は危険だ。川を渡ろう」と。
弟たちもそれにしたがい、つるを体に巻きつけて流されないようにしながら渡り始めると
兄の予測どおり、上流からたくさんの死体が流れてきます。
死体をかきわけ、やっとのことで向こう岸へたどり着く兄弟たち。

ところがその夜、茂みで眠っていた時に弟のマメールが政府軍の兵士に見つかってしまいます。
すると兄のテオが飛び出してきて両手をあげながら
「仲間とはぐれてしまった」といって自分から兵士に捕われ、弟たちを助けます。
そして1256㌔歩き続けて、ようやくケニアのキャンプに到着。
そこで7年もの間生活することになります。

「キャンプでは団結が強まったが、よくなる兆しは高まっては消えた」
キャンプで暮らすうちに彼らは英語を覚え、マメールは看護の助手をしながら医師になることを夢見ていました。

2000年、ロストボーイとよばれる彼らをアメリカに移住する計画に運よく選ばれた兄弟は
生まれて初めて飛行機に乗ってカンサスシティに到着します。

そこで出会ったのが職業紹介所のキャリー。
英語はわかるものの、ファストフードもエスカレーターも電話すら知らない彼らの扱いは大変。
礼儀正しくひたむきな彼らに仕事を与えて自立させようと、キャリーは彼女なりに知恵を絞って頑張ります。

カルチャーギャップ系のあるあるネタばかりと思いきや、三人の兄弟の個性も尊重して
やさしく見守る視線が温かいです。

 
  
右 → 勉強熱心で努力家のマメール
中 → 信心深く心優しいジェレマイヤー
左 → 手先が器用なポール

ポールは工場の部品製造ラインで実力を発揮するも、白人の同僚に恨まれ薬物の罠にはまり・・・
マメールは仕事はできるのに納得いかないといつまでも食いさがるから煙たがれ・・・
ポールは期限切れ商品をホームレスに与えたのがバレて、スーパーをクビになります。

この国ではペットの餌をお金を出して買うくせに、捨てるものを飢えた人間に与えても罪だという。
それがどうしても納得いかないと涙を流すポールにキャリーはいいます。
「社会には権力のあるバカがいて、そいつに従わないとワリを食うことがあるの」
そして「難民」「スーダン」でググると、今まで知らなかったロストボーイたちの悲惨な画像が・・・

彼らにはアビタルという姉がいて、アフリカではかたときも離れずに一緒だったのに
アメリカ側の事情でNYの空港で引き離され、ひとりボストンにおくられてしまっていました。
911のテロ以来、イスラム支援国家スーダンからの難民受け入れはストップし
スーダン人の国内移動も限られていたのですが、キャリーはそれに納得できず、移民局に直接談判。
(このへんは予告編でもやっていました)

マメールたちはイスラムのスーダン政府軍から迫害されていたのだから、
彼らがスーダン人を理由に不利な扱いを受けるのは筋違いですよね。
どうしても姉と一緒にカンサスシティで暮らさせてあげたい!
女性の場合は受け入れ家庭があれば何とかなりそうなのを知ったキャリーは
散らかり放題の汚部屋を片付けて認定を受け、無事アビダルを迎え入れるのに成功します。
兄弟の感動的な再会で、めでたし、めでたし・・・

ただキャリーはゴリ押しはしたものの、嘘はついていないので、あれれ・・・?と思っていたら
この話にはまた続きがありました。

私は彼らはみんな実の兄弟だと思っていたんですが、マメール、アビタル、(捕えられた)テオ以外は
難民仲間だったんですね(そういえば全然似ていない)
そこへ、生き別れになったテオらしき人物の生存情報が寄せられ、
マメールはテオを探しにひとりカクマ難民キャンプへ旅立ちます。

名簿もあってないようなものだから、10万人もいるという難民の中から兄を探すのは困難を極めましたが
奇跡的に兄に再会!!

ただ問題はこれからで、どうやって兄をアメリカに連れて行くか?
親米国の大使館に片っ端から保護を求めてビザを出してもらうしか方法はないのですが
テオは病気に侵されていて、彼には時間がもうあまりないのです。
思い余ったマメールは、テオに「ビザは手に入った」と嘘をついて、兄の髭をそって
いっしょに空港に向かいます。
そして出国審査の列にならんでいるときに
「これからは兄さんがマメールだ」と自分のパスポートを渡してそっと列から外れるのです。
とっさの嘘で自分たちを救ってくれた兄へのマメールからの「グッドライ」
自分は難民キャンプで医師たちの手伝いをしながら残りの人生をすごすことを選択するのです。

嘘をつかざるを得ないのは、受け入れ国のお役所的事情によるものですが
日本はスーダン難民を受け入れることすらしていないし、
私自身も何もしていないのに気づいて愕然としました。

スーダンの彼らには私たちがどんな生活をしているのかは想像もつかないでしょが
「スーダン」「難民」でググればいくらでも情報でてくるのにみないようにしている私たち。
職業紹介の仕事をしながらもロストボーイのことはよくわかってないキャリーが彼らと出会って
自分のできることをしよう!と一念発起するシーンはとても共感できました。
こういうドラマでは誰かを「悪役」にして、そいつをぎゃふんと言わせる方が見てる方はすっきりするのですが
難民局の職員たちもボランティアたちも、自分たちの仕事をまじめにこなしているし
スーパーのオーナーにしたって、法令順守しているだけ。
悪人をつくりあげないのは、むしろフェアな気がします。

また本作では、「スーダン人は気の毒な可哀そうな国民」という見方もしていません。
彼らは自分たちの民族に誇りをもっているし、祖先から引き継いだものをとても大切にしています。

マティング・マジョク・アゴン・・・みたいに次々に祖先の名前を言い合うゲームのようなものがあって
テオとマメールも子どもの頃からやっていたこのゲームがいい使われ方をしていました。
「急ぐならひとりで行け
遠くへ行くならみんなで行け」

最後に出たテロップも深いな~と思いました。

本作は実話ではありませんが、マメールもジェイマールやポールもその他ほとんどの難民役の俳優が
本当にアメリカに移住したスーダン難民やその2世だとか。
ストーリー的にはたしかに上手くいきすぎのところもあるし、笑えるシーンも人為的な気もしますが
これこそ「グッドライ」なんじゃないかと思います。
映画には人を動かす力がありますからね。

それに比べたら、邦画の「風に立つライオン」は同じケニアの難民キャンプを扱いながらも
ピントはずれな脚色で、けっして「グッドライ」ではないですね。

ほとんどなにも受賞してない「無印」作品ではありますが、
そのなかでは今年ピカイチの映画ではないかと・・・・
上映館が少ない(23区では角川シネマ新宿のみ)のが本当に残念です。