映画「ソロモンの偽証 後篇 裁判」 平成27年4月11日公開 ★★★☆☆
原作本 「ソロモンの偽証」 宮部みゆき 新潮社

 
被告人大出俊次(清水尋也)の出廷拒否により校内裁判の開廷が危ぶまれる中、
神原和彦(板垣瑞生)は大出の出廷に全力を尽くす。
同様に藤野涼子(藤野涼子)も浅井松子(富田望生)の死後、沈黙を続ける三宅樹理(石井杏奈)に
証人として校内裁判に出廷するよう呼び掛ける。
涼子は柏木卓也が亡くなった晩、卓也の自宅に公衆電話から4回の電話があったと知り……。(シネマトゥデイ)

前篇から約1か月たっての後篇公開。
シネコンでは前篇も同時に上映しているところもありますが、公開後間もないので通常料金!
(寄生獣の前篇は旧作扱いで1000円なのにね)

後篇でも最初に前篇のあらすじが紹介されるので、(前もって登場人物の相関図を見てから行けば)
特に問題ないような気がしました。
 
クリスマスイブの雪の夜に起こった男子中学生柏木の転落死について
学校一のワル大出が突き落としたのを目撃したという怪文書がでたものの
警察では自殺と断定。
そしてその目撃者のひとりの事故死。
事件をうやむやにしようとする大人に対して、真相を知りたい子どもたちは、
自分たちの手で校内裁判をやろうとしている・・・


まあほぼこれだけのことで、結末につながるような伏線は少なかったような。
(あまりたくさんは書けませんが)原作本の冒頭は電気屋のおじさんの目撃譚から始まりますが
映画では(非常に重要な部分なのに)後篇でやっと登場。
うーん、あらすじに省略されたような前篇の伏線は(これもあまり書くとネタバレになりますが)
弁護士役の神原の言動について感じるちょっとした「違和感」くらいでしょうか。

さて、後篇はそのほとんどが「学校裁判」の法廷シーンに割かれています。
映画での「法廷もの」の楽しさは、検事と裁判官の丁々発止のやりとりや、
その中から思わぬ真実が表れたり形勢が逆転するときのわくわく感がたまらないですが
この映画のなかでは、検事は必ずしも被告を有罪に導こうともしないし、
逆に弁護士も被告人の信頼を得た共同体というわけでもなく、
とにかく勝ち負けよりも包み隠さず真実を明らかにすることが目的なので
映画的にはそんなに楽しいものとはいえません。

多感な14歳の中学生たち。
人から傷つけられ心が血まみれになった時、一度や二度は自殺を考えることあるでしょう。
それは成長の過程で、起こるべくして起こるものと私は考えますが
「自殺を考える」というのはあってはいけないもので、誰かが死んだりしたら大騒ぎで
命の教育やら「心のケア」のために大人たちは必死できれいごとを並べるんですが、
「命はなによりも大切なもの」と100万回教えたところで伝わるものなんでしょうか?

暴力というのは力によるものだけじゃなくて、言葉の暴力も、です。
こちらのほうが加害者の自覚が少なくてむしろ問題かもしれません。

「暴力はいけないといってるのに助けないのは口先だけの偽善者だ」
「結局君は自分の過去から逃げているだけ」
「空っぽで鈍い君は存在するだけで罪になる」

酷い言葉の謗りに傷つき、(言葉を発した人間が)死ねばいいのに・・と思った自分を責める。
自殺しようとする友だちを救えなかったのは自分のせいで「未必の故意」による殺人行為だ・・・
とさらに自分を追い込む。
「見て見ぬふりはいじめているのを同じ」という声に自分を全否定して死を考えるも
そこから立ち直れるのは、親友や家族の存在?辛い記憶の中のしあわせな思い出?
神原や涼子の告白はあまりに悲痛です。
みんな苦しみながら戦いながら克服し、他の人が自分と同じように苦しむことがないようにと願うのです。

さすがに私自身の14歳の記憶ははるか昔なので、私はむしろ彼らの親たちのことを考えていました。
樹理の親子関係は明らかに問題があるし、モリリンは教師としては明らかに未熟すぎますが
一見普通に思える柏木の家や涼子の両親の対応はあれで良かったんだろうか?

苛立っている涼子に母親は
「どうしたの?あなたらしくないわ」というんですが
「私らしいって何?なんにも知らないくせに」と言い返されるのです。
赤ちゃんのときからずっと育ててきて親はわが子のすべてを知っていると思ってしまうけれど
もう14歳の子には一個の人格が芽生えていて、自分の力で歩き出しているんですね。
ああ、私はちゃんと娘たちに向き合ってきただろうか?
受験のことばかりうるさく言い過ぎなかっただろうか?
もう、反省材料ばかりです。

二人の中学生の命が失われているから「事件」ではありますが、
そのうらに横たわるのはどこにでもある中学生の日常なのです。
主人公の涼子はすきのない完璧な優等生だからこそ、彼女の苦しみが胸にささります。
藤野涼子のおさえた演技が光りますね。

前田前田のお兄ちゃんも等身大の中学生で自然な演技。
原作では実質主役級だったのに、出番少なくてちょっと残念でした。

樹理とその母の親子関係は、ホラー映画みたい。
評価高いようですが、私にはやりすぎに思えました。
学校の敵役の教師二人もあんまりにも悪すぎるし、大出の父の暴力も常軌を逸していて
ありえないでしょ?って思ってしまいました。
松子は天使すぎだし柏木はサイコパスすぎだし、けっこう極端な演出だったかな?

前後篇あわせて4時間半の大作ですが、文庫本6冊読むよりは手軽ですけどね。