映画「さいはてにて やさしい香りと待ちながら」 平成27年2月28日公開 ★★☆☆☆
ノベライズ「さいはてにて やさしい香りと待ちながら」柿木 奈子 集英社文庫

 


ばい煎コーヒー店の主人として、たった一人東京で懸命に過ごしてきた吉田岬(永作博美)。
幼少時に父親と生き別れた過去を持つ彼女は、再会を願って故郷である能登へと帰ってコーヒー店を開くことにする。
店を切り盛りする中、ひょんなことからキャバクラ嬢として働き子どもたちを育てるシングルマザーの隣人・
山崎絵里子(佐々木希)と言葉を交わすようになる。
彼女と子どもたちとの何げなくも心温まる交流を経て、
岬は人とのつながりによって得られる安らぎをかみ締めていく。 (シネマ・トゥデイ)

借金を残したまま行方不明の父の失踪宣告の期間が過ぎたことを伝えに弁護士が娘の元へ。
なんと娘の岬は、その借金を相続するという。
実は父には能登の海っぺりに全く資産価値のない船小屋があって、岬はあわせてそれを相続することになります。
岬は4歳の時に両親の離婚で父とは別れたのですが、幼いころの父との思い出を大事にしたい彼女は
そのあばら家を改装して、立派な焙煎釜を設置して、コーヒーショップ「ヨダカ珈琲」を開きます。
(まるでふしぎな岬・・・の「岬カフェ」ですね)

こんな人通りのないところに喫茶店なんかオープンして大丈夫なんだろうか?
かなり心配なんですが、どうやら岬はすでにこの商売で成功しており、
多分父の借金返済に充てるために今までの店を売却してここに移り住むということらしい・・・
オリジナルブレンドの豆の通販で商売にはなるようで、ちょっと安心しました。
幼いころの思い出のあるこの地で、帰らぬ父を待つ覚悟のようです。

さて、ヨダカ珈琲の前には廃業した民宿があって
、そこに住むのはシングルマザーの絵里子と小学生の子どもふたり。
絵里子は水商売で留守がち。しかも変な男に貢いでいるから、
子どもたちは給食費も払えず、日々の食事にもことかいています。
子どもたちはスーパーでは万引きを疑われ、
姉のアリサは、学校でもビンボーとかドロボーとか、いじめられています。
見かねた岬が手をさしのべるのですが、絵里子はそれをひどく怒るのです・・・・

なんてストーリーで、とにかく現実味薄くて、辟易としてしまいました。
最初、父は借金を残して逃げたのかと思っていたのですが、
どうやら(そんな卑怯者ではなく)漁船の遭難で遺体が上がらず、行方不明になったことがわかってきます。
離婚した親の借金を相続する、というのは確かにあり得ることですが、
船の事故だったら、普通、失踪宣告は7年じゃなくて1年ですよね?
船乗りだったら保険には入っているはずだから、その辺で借金はチャラになりそうだし、
もし7年たってたとしたら、その時は借金の方が時効にかかってくる気もするし・・・
もしかして最初に出てきた弁護士が詐欺師?とも思いましたが、
彼は相続放棄を前提にやってきているのだから、それもおかしい。

また、学校での給食費問題もね。
いまどき給食費を現金払いするとこなんてあるんでしょうか?
そして担任が家に取立てにくるっていうのも?
シングルマザーで子どもが二人もいたら、生活保護はともかく、まず間違いなく就学援助が受けられるから、
今の日本で、給食費で子どもが胸を傷めることなんて無いはずです。

母親はケロッとして「給食費なんて(子どもから)私は全然聞いてない」
なんてお怒りなんですが、もうこの時点でまともな人間じゃないですよね。

だけど、アリサにラベル張りのバイトをさせて、1週間で給食費を精算できるバイト代を払う岬のほうも
かなり問題ありです。
(台湾の監督さんだから、日本の実情とかわかってないのかな?)

だけど、絵里子のヒモ男の永瀬正敏がありえないクソ男で、この男の下劣な行為のおかげで
絵里子と岬の距離が縮まり、あっという間に二人は親友になり、一緒に働くことになります。

ワケありの二人の女性。価値観の違う二人が次第に心通わせていく話なんですが、
この二人の抱える重い過去がイマイチよくわからない。
岬がどうしても父の死を受け入れられない気持ちも脚本では伝わらず
ひたすら永作博美の演技力におんぶです。
絵里子も親から虐待されていたようなんですが、入院していたのは母ではなく祖母だと。
浅田美代子が小学生の曾祖母というのはいくらなんでも年齢的に無理ですが
どんな事情があるのかと思ったら最後まで説明なし。

一度船小屋を捨てた岬が、ラストでは戻ってきてハッピーエンドとなるのですが
ここのところの彼女の心境の変化についても説明なし。

ストーリーはあまりに雑で、唖然とするほどなんですが、コーヒー好きとしては
豆を丁寧に選別し自家焙煎するシーンをずっと見ていたい感じ。
ストレート珈琲6種にオリジナルブレンドの
「よだか」「はちすずめ」「かわせみ」・・・
やっぱり思った通り宮澤賢治が店名の由来でしたか。
子どもの時に読んだ「よだかの星」は挿絵が不気味だったこともあって
私には怖い記憶があったのですが、ようやく大人になって哀しい美しい話だと思えるようになりました。
映画で使われていたのは村上康成さんのふっくらした可愛いよだかで、小学生でも手に取りやすいかも。

「アフリカから長い旅をしてきたコーヒー豆がお客さんにちゃんと届くように
いい仕事をしなきゃいけない」
小学生のアリサに仕事を教え、お金をかせぐことの責任を教えるのですが
あのバイト代はちょっと高すぎですよね。
アリサ役の桜田ひよりちゃんは初めて知りましたが、きちんとした演技のできる子役さんですね。
画面からは誰よりも彼女の心の叫びや葛藤が一番伝わってきました。

佐々木希のケバい、というよりダサい、田舎のキャバ譲ファッションにはあきれましたが、
焙煎珈琲店「ヨダカ珈琲」はまさにオアシスで、見ているだけで癒されます。
これ、ぜんぜん映画の褒め言葉ではないけれど、
もうひとつの「岬の珈琲店」の映画よりずっといい・・・というのが大方の感想のようなので
「つまんないほう」はDVDが出たら鑑賞させていただくことにします。