画「悼む人」 平成27年2月14日公開 ★★★☆☆
原作本「悼む人」 天童荒太 文芸春秋社

 
不慮の死を遂げた死者の追悼を目的に、全国の旅を続けている坂築静人(高良健吾)。
そんな彼の行動を疑問に感じる雑誌記者の蒔野は、その真意を暴くべく静人の周囲を調査する。
一方、過去に殺した夫の亡霊につきまとわれる奈義倖世(石田ゆり子)は、
出所後に訪れた殺害現場で静人と出会い、彼の旅に同行する。   (シネマ・トゥデイ)

「おみおくりの作法」のジョン・メイも死者を悼む人でしたが、シズトが彼と大きく違うのは
(病死や老衰ではなく)不慮の事故や殺人などで命を落とした人を、まったく個人的な趣味で悼むこと。
彼は特に超能力者というわけでもないから、新聞で事件を調べては日本全国の事故現場を行脚しているのです。
膝をおり、片手を高く上げて片手で地を払って胸でクロスさせる独特の所作も宗教がかっていかにも怪しい。

「あなたはいくつもの人に愛され、その人たちの心の中であなたは生きています」
「あなたの子どもはあなたと遊んだ日を思いだし
奥さんはあなたと出会った日を一生の宝物にするといっています」
「あなたは家族や友人の中でたしかに生きています」・・・・


こんなことを唱えながら祈りをささげる彼の行動は他人には異様に映り
事故現場をうろつく彼はしばしば警察の取り調べを受けることも。
この「悼み」のために仕事を辞め、家族を置いて旅をつづける彼の行為は
見ている私たちにもとうてい共感しづらいものです。

彼の家族は、心を閉ざし人とかかわれない父(平田満)
明るく元気に見えるけれと実は末期がんで死期の近い母(大竹しのぶ)
恋人の子どもを妊娠しているが、変人の兄のために結婚できない妹(貫地谷しおり)
大好きな祖父を失った苦しみから逃れるためにシズトに「人を悼む」ことを進めたのは母なので、
家族は彼の旅を受け入れ、「辛い旅」から帰ってくる彼を待っています。

突然の事故で亡くなった、彼が悼む対象の人たち。
彼らの人生ドラマをひとつひとつ再現していくのではなくて、
この映画の主役はむしろシズトを取り巻く人たちなんですね。

シズトの奇妙な行為に興味をもったカストリ雑誌記者のマキノは昔父に捨てられ、
女でひとつで育ててくれた母は孤独死。
その父が危篤だという連絡に動揺しながらも断固拒否するマキノでしたが
シズトやシズトの母との出会いで考えを変えていきます。

もうひとり、幼いころから性的虐待を受けながら育ってきたユキヨ。
彼女に近づく男たちは最初は優しいものの、次第に雄の本性を出してきて彼女を征服しようとします。
夫の暴力から逃れるためのシェルターで、初めて心から愛することのできるサクヤに出合い結婚。
ところが彼も
「生きている人に愛なんてない。私を殺して君だけのものにしてほしい」
とユキヨに懇願するのです。

甲水サクヤを演じるのは井浦新。
風変わりな人ばかり登場する本作の中でもダントツに理解しづらい人物ですが
もちろん共感はできないものの、なんとなく言ってることが分かってくるのは演技力のなせる技ですね。
彼はビデオを回しながらナイフでユキヨを襲い、彼女に自分を殺すように仕向けます。
思いどおりに死ぬことのできたサクヤは、終始ユキヨに亡霊となって付きまといます。

ユキヨはシズトと出会い、終盤は一緒に悼む旅をすることになるのですが、
暴力や性の描写が多い割にストーリー展開は地味なので、見ている方まで鬱々としてしまいます。
劇場映画として評価が上がらないのはしょうがないのかな?

すべてを捨てて死者を悼む旅にでる。
そこまでシズトを突き動かすものは何なのかは最後まで分からずじまい。
マキノに「死んでいるのは君のほうだ」といわれ、
彼自身も「これは病気なんです」説明しています。

「まほろ駅前狂想曲」の中で行天が死期の近い老婆に
「あんたのことを(俺が)死ぬ時まで覚えてるようにする。それでいいか?」
というセリフがあって、これがどんな弔いの儀式よりも死者のためになるんだと思って
たしか「おみおくりの作法」のときも同じことを書いたんですが、
シズトがやっていることもまさにコレ。
だけどこれを見ず知らずの人まで広げて全国行脚、というのにはついて行けません。

でも彼の母はそんな息子を受け入れ、父のない子を産もうとしている娘を受け入れ
余命いくばくもない自分の運命も受け入れようとし、なお「自分は幸せだった」と。

病院でのガン治療を辞め自宅療養を選んだ彼女を
「あなたは病気と戦わないの?」「負けを認めるの?」と責める同室の女性に
「私は別の人生を生きるの。開き直りじゃない」と
薄くなった髪に金髪のウィッグをかぶり、きらきら衣装で元気にふるまう母。
「病気で髪がなくなるのも、細くなるのもいいもんだわ」

そして同じ屋根の下で新しい命の誕生とともに失われていくひとつの命・・・
と思ったら、最後のシーンは??
これは現実ではない心象風景ということでいいのかな?

ハッピーエンドでもバッドエンドでもなく、とにかく生と死に対して考えるべきことを
たくさん繰り出してくるので、娯楽性には欠けるけれど、もんもんとしながら私も明日を生きていきます。
死を考えることが生を考えることになるのだから・・・