映画「ビッグ・アイズ」 平成27年1月23日公開 ★★★★☆

 1950年代から1960年代にかけて、哀愁漂う大きな目の子供を描いた絵画「BIG EYES」シリーズが世界中で人気を博す。
作者のウォルター・キーン(クリストフ・ヴァルツ)は一躍アート界で有名人になるものの、
何と実際に制作していたのは内気な性格の妻マーガレット(エイミー・アダムス)だった。
自身の感情を唯一表現できるBIG EYESを守るため、
マーガレットは自分が描いたという事実の公表を考え……。       (シネマ・トゥデイ)

1958年、北カリフォルニア。
マーガレットは一人娘のジェーンを車に乗せて、夫の元から逃げ出します。
当時の妻たちはみんな夫に養われていたから、離婚できるのなんて、経済力のある一握りの女性だけでしたが
マーガレットに仕事の経験はなく、できることは絵をかくことくらい。
それでもジェーンを育てなければいけないから、ベビーベッドに絵をかく仕事や
休日の公園で似顔絵をかく仕事で、なんとか生活していたある日、
隣で自分の絵を売っていたウォルターに声をかけられます。
「君には才能がある、自分を安売りしないで!」
本職は不動産業だけれど、絵描きになる夢を捨てられなくて描き続けているというウォルター。
昔住んでいたパリを描いたという風景画を、見事なセールストークで売っていたのでした。

「そんな目で見られたら恋をしてしまいそうだ」
そしてひざまずいてプロポーズ。
元夫から「母子家庭は子どもの養育に適さないからジェーンを返すように」との通知がきていたマーガレットは
娘を手元に置くためにウォルターと結婚します。
傷心のジェーンの心の穴を埋めてくれて、経済力もあり、ジェーンにもやさしいウォルターとの幸せな日々。

相変わらずウォルターは画廊に絵を売り込むのですが、アート性に欠ける退屈な風景画は相手にされず。
マーガレットの描いた「ビッグアイズ」の子どもの絵も
「こんなものはイラストの通信教育で入賞するレベル。芸術じゃない」

知り合いのライブハウスへの売り込みにも失敗しますが、
それでも何とかトイレにいく通路の壁に絵を貼らせてもらいます。
やがてビックアイズのほうがぼつぼつ売れ始め、口コミで噂が広まって
ついには、イタリア人のオリベッティが5000ドルで購入。
セレブ達が買ってくれることでメディアにも取り上げられ、どんどん値が吊り上っていきます。

「妻が書いた絵だ」といっていれば何も問題がなかったものを、
ウォルターが自分が書いたといっているのを知って、マーガレットは激怒します。
作品は自分の分身だと思っているのに、それを勝手に取り上げられた悔しさ。
それでも、夫の話術がなければ商売にならないわけで、生活のために「描く人」に徹することを決心します。
幼いころから絵のモデルをしていたジェーンにはバレバレなはずだけど、精いっぱいの嘘をつき、
(大きな屋敷にはメイドくらいいそうだから)何処からかは絶対にバレそうなもんですが、
何故か、みんながずっと騙されつづけるんですよね。

ウォルターも「描けるけど妻に手伝ってもらってた」ってレベルじゃなくて、実は全然描けない人だったんでした。
あとで、最初の風景画ですら、他人の作品だったことがわかるんですが、それでも口だけはうまいから、
「絵の子どもは戦争で傷ついた気の毒な戦争孤児たちだ」
「彼らの目を見たとき、私の画家としての人生が始まった」

とか適当なことをでっち上げてみんなの涙をさそったりするのはお手のもの。

1960年、自分の画廊をオープンして、絵を売りさばこうとしますが、高価な原画を買える人はそうはいません。
そこで、タダで置いていたチラシを10セントで売ったらバカ売れ!
お手軽価格のポスターやポストカードも量産して儲けるという大した商売人です。
大量消費時代のアートの先駆け、ですかね。

マーガレットはささやかな抵抗で、ビッグアイズとは違う作風のモディリアーニみたいな自画像を描いて
旧姓のイニシャルMDHの署名で、画廊に飾りますが、ほとんど注目されず。

一方のビッグアイズは相変わらずセレブたちにも大人気で、1964年のニューヨーク万博、
ユニセフがスポンサーをつとめる教育館に巨大な絵画を掲示する、という計画は成功するかに見えましたが
「金目当ての駄作」と酷評され、絵はパビリオンから撤去され、お蔵入りになります。

「お前がメソメソした絵なんか描くから、俺の面目は丸つぶれだ」
とか勝手なことをいって荒れ狂うウォルター。
そしてまたまた、車にジェーンを乗せて夫の元から逃げ出すマーガレット・・・

ハワイに逃れたマーガレットは、エホバの証人に勧誘されたのをきっかけに、真実を公表しようと思い立ち
ハワイのラジオ放送で、「夫のウォルターは有名な画家ですね」といわれ
「二つとも間違っているわ。ウォルターは夫ではないし、彼は画家でもない。
ビッグアイズはすべて私が書いたんですもの」

と告白します。

世間は騒然とします。
二人のトラブルは法廷に持ち込まれますが、この裁判劇はコントみたい。
ウォルターが自分の弁護士も兼ねて、(裁判知識はペリー・メイソンのTVからなのに)とにかくまくしたてます。
今までの流れだと、みんなが彼の弁舌に丸め込まれそうですが、
日系人の裁判長はいたって冷静で、
「1時間のあいだにここで絵をかいてみなさい」という名裁きで、あえなくウォルターは撃沈します。

この映画の内容を知った時、ほとんどの人が「例の事件」を連想したでしょうが、
佐村河内さんと新垣さんも、皆の前で「作曲対決」してくれれば一目瞭然でしたね。
60年代にみんなが騙された、というのも「ありえない」と思ったんですが
このネット社会に誰もが涙して、NHKまでドキュメンタリー作ったという、日本の事件はそれ以上です。
これも充分映画になりますね?

実話がベースなので、ティム・バートンのファンタジー色はやや抑えめでしたが、
カーテンのたなびく幻想的なアトリエとか、ウォルターがとち狂ってマッチ投げ入れるとことか、
スーパーにいる人の目がみんなビッグアイズになっちゃったり・・・
他の監督だったらこんなシーンはないでしょうね。

それ以上に、主演の二人が期待してたよりも、さらにすごかったです。
二人ともGG賞ではノミネートされ、エイミー・アダムスはコメディ部門で受賞。
助演でも主役を完璧に食ってしまうクリストフ・ヴァルツが今回は主演で、しかもほとんど出ずっぱり。
もう演技というより名人芸ですね。
ウォルターは心底嫌味な詐欺師で悪党なんですが、
もしジョニー・デップだったら、「こんな奴いるわけない」と思ってしまうでしょうし、
リアルに再現されたら、もう不愉快さ充満で、最後まで観られなかったと思います。
小ズルい、下衆な、でもフォローが早いから許してしまう、ちょっと憎めない・・・まさにヴァルツ劇場!でお腹いっぱい。
堪能できました。

★がひとつ少ないのは、私がこの絵があんまり好きではないからかも。

 
 奈良美智さんのアートなんかもこの系列なんでしょうが、
私は子どもの絵とか猫の絵とかが怖くて正視できないので、
10セントでもチラシを買う人の気持ちがわからないんですけどね。
それに想いをぶつけた渾身の絵が大量生産されてスーパーで売ってる、というのがキツイです。
でも、それこそがポップアートなんでしょうね。