映画「ゴーン・ガール」 平成26年12月13日公開 ★★★★★
原作本「ゴーン・ガール」 ギリアン・フリン 小学館

 
ニック(ベン・アフレック)とエイミー(ロザムンド・パイク)は誰もがうらやむ夫婦のはずだったが、
結婚5周年の記念日に突然エイミーが行方をくらましてしまう。
警察に嫌疑を掛けられ、日々続報を流すため取材を続けるメディアによって、
ニックが話す幸せに満ちあふれた結婚生活にほころびが生じていく。
うそをつき理解不能な行動を続けるニックに、次第に世間はエイミー殺害疑惑の目を向け……。(シネマトゥデイ)

ロザムンド・パイクってオックスフォード卒で語学も楽器も堪能な才媛なのに
ボンドガールのイメージからか、30過ぎてもうすっぺらな美人の役ばかりで気の毒に思ってたのですが
本作では面目躍如の存在感。GG賞ノミネートも当然!って感じです。

結婚5周年のその日に突如姿を消した妻エイミー。
いつも記念日には宝探しやゲームのサプライズを仕掛ける妻のことだからと
当初はシリアスに考えていなかったものの、キッチンから多量のエイミーの血液を噴いた跡が見つかり
警察も急に色めきだってきます。

エイミーの両親は高名な童話作家で、その娘は「アメイジング・エイミー」のモデルとして誰もが知る存在。
世間から完璧を求められてきた理想の夫婦に起こった事件にマスコミも注目します。
果たして犯人は身内なのか?狂言なのか?事件に巻き込まれたのか?

両親はすぐに娘の捜索のためにボランティアセンターを立ち上げ、サイトを開設し
当然夫のニックの元へも取材が殺到します。
近所の主婦と撮ったニックのにやけ顔の2ショット写メが広まり、
彼があまりに妻の行動や交友関係を知らないことを言い立て、
エイミーが妊娠していたこと(これすらニックは知らないという)・・・
ニックがDV夫だったという噂・・・
ニックは通販で高額なものを買いまくって破産寸前だった・・・
最近エイミーにかけた保険金の金額を上げたこと・・・・
夫に不利な材料を次々に集めて、まるでニックが犯人といわんばかり。
さらにそれを裏付けるエイミーの日記も見つかったりして・・・

マスコミとしては、事件の解決なんかよりも
むしろ、大衆が興味津々のこの話題をどこまでも引っ張りたいところ。
真相の解明なんてどうでもいいんです。
このドラマ、実は元ネタがあって、「スコット・ピーターソン事件」というんですけど、
人もうらやむ美男美女の夫婦がいて、クリスマスイヴに妊娠中の妻が行方不明に。
当初は悲劇の主人公だった夫に実は愛人がいたことがわかって、どんどん怪しまれるようになり
海の底から妻と嬰児の遺体があがり、夫は第一級殺人で死刑判決・・・というもので、
私も仰天ニュースかなにかで見た記憶があります。
この犯人の夫は、驚くことに、ベン・アフレックにそっくりです!

 

日本でいったら、断然30年前の「ロス疑惑」ですよね。
輸入雑貨商の三浦和義(サッカーのキングカズではない!)が妻の銃撃死に関与してるんじゃないか・・・?
という疑惑で、日本では無罪が確定したものの、アメリカでの裁判中に謎の自殺、
という最後まで不可解な事件でした。

この二つの事件は両方とも妻は死亡していたんですが、エミリーはどうなっていたかというと・・・

この先はネタバレなので、観る前には読まないでください!






事件後の大騒ぎで自宅に戻れないニックは、双子の妹マーゴの家にかくまってもらっていたのですが
ここに若い女学生アンディが押しかけてきていきなり服を脱ぎ始めちゃいます。
実は彼女はニックの若い愛人で、彼女のことがバレたら、さらにピンチになることは明白なのに
なんやかんやで彼女を受け入れて、一夜を共にしてしまうニック。
これにはたったひとりの理解者だったマーゴもカンカンです。

さて、そのころエイミーはどうなっていたかというと・・・・
この事件、100%彼女の自作自演でして、あちこちに撒いた物的証拠も、それを裏付ける日記も
すべてエイミーが周到に用意したものだったのです。

「私は理想的に書き換えられて大衆に売られた」
自分の娘の完璧さを世間に吹聴する親に限って、内内では口やかましく罵倒したりするもの。
エイミーがニックと結婚することで、その束縛を解かれるのですが、
実の両親って「逃れたいけど(自分を愛してるのは間違いないから)敵にはまわしたくない」存在ですから、
見た目はイケメンで、優しくて、ちょっとトロい・・・というのは、結婚相手として最適だったんでしょう。
結婚当初は絵にかいたような幸せな日々が続きますが・・・

「私は間違って運ばれた荷物?」
ニックの母の病気の看病のために、夫婦でニューヨークからミズーリの田舎町へ転居します。
ニューヨークの家は売り、夫婦ともに仕事を失い、
義母が亡くなったあともニューヨークに戻ることなく
夫は妻の金で双子の妹とバーを開き、それで生計をたてることに。
「ザ・バー」という恥ずかしい名前の、しょぼい場末のバーです。

「私は夫が抱きたいとき用にスタンバイしてる女?」
エイミーは夫が頭の悪そうな女学生と浮気してるのをとうに知っていました。
そして自分は好きな時に抱けるように「キープされてる女」
それ以外に自分は存在しないんだと・・・・

夫の浮気の許容範囲は人それぞれで、寛大な妻がいる一方で
「浮気したら殺す」という妻もめずらしくなくて(実は私もそうですが)
ただ「殺す」のいうのは、ナイフや毒薬で自ら手を下すんじゃなくて「死ぬほど苦しめてやる」ということ。
死ぬのは自分のほうだけど、苦しむのは夫。

エイミーもニックを直接殺そうとは考えず、自分のねつ造した証拠で疑われ、
このあと自分が死ねば、殺人者として裁かれ、もしかしたらミズーリ州法で死刑になるかも。
まあ、それもいいんじゃないの?

これって悪女?
いやいや、夫の浮気に厳格な妻はみんな考えていることだと思いますよ。

さて、失踪当日、いろんな小細工を終えたエイミーは、変装して偽名を使い、
キャンプ場のコテージに潜り込んで、一般視聴者としてニュースやワイドショーをみてるわけですが、
完璧自分の思うつぼで、翻弄されてるニックをみて、なんかちょっと気の毒になってきちゃうんですね。
「支配者の温情」というか、心の余裕というか隙というか・・・・
そしてその時全く予想できない災難がエイミーを襲います。

コテージで知り合った女がエイミーを「訳ありの逃亡者」と見抜き、強盗に変貌。
有り金を奪われちゃいます。
「アメイジングエイミー」本人とは気づかないまでも、警察に通報できない不審者だとバレてしまったわけ。
自分は死ぬつもりではあったけれど、予想外の出来事に予定が狂ってしまいます。

ここから先のエイミーの行動はちょっと常軌を逸しているので、びっくりするんですが、
かき集めた小銭で金持ちの元カレに電話をし、「夫のDVから逃げてきたかわいそうな妻」を演じます。
元カレのデジーは、高校時代からエイミーが好きでたまらないのに
ストーカーだといわれてずっと遠ざけられていたんですが
「5年前の直感は君を苦しめ、
20年たってようやく僕のところに来た」

と感激したデジーは、なんでもエイミーのいいなりだから、彼女の道具としていい仕事をしてくれます。
そして、ついには・・・とってもお気の毒なことになります。

一般女性でここまでやっちゃう人はなかなかいないと思いますが、
ともかく、「血まみれでサイコの元カレから逃げてきたかわいそうなエイミー」は
その哀れな外見とはうらはらに、ニックのもとへ、完全な支配者として凱旋したのですね。

「憎みあい、支配しあい、苦しむ、それが結婚よ」
ということばがありましたが、それはある意味真実ですね。
「愛したい」「愛されたい」という気持ちは共存できるけれど、
「支配したい」と思っても「支配されたい」妻なんていないのに、
勘違いしてる夫が多すぎ!

妻のことを知り尽くしていると錯覚している世の夫たちにぜひ見て頂きたい作品です。

原作は上の途中まで読んでから映画を観ました。
映画以上にスゴイと聞いているので、読むのが楽しみ!