映画「インターステラー」平成26年11月29日公開 ★★★★★
ノベライズ「インターステラー」 グレッグ・キイズ 竹書房 

 
近未来、地球規模の食糧難と環境変化によって人類の滅亡のカウントダウンが進んでいた。
そんな状況で、あるミッションの遂行者に元エンジニアの男が大抜てきされる。
そのミッションとは、宇宙で新たに発見された未開地へ旅立つというものだった。
地球に残さねばならない家族と人類滅亡の回避、二つの間で葛藤する男。
悩み抜いた果てに、彼は家族に帰還を約束し、
前人未到の新天地を目指すことを決意して宇宙船へと乗り込む。 (シネマ・トゥデイ)


なんかインターステラーの予告編って出来が悪かったですよね?
チラシにもほとんど情報を載せず、去年オスカー獲ったマシュー・マコノヒーとアン・ハサウエイが主役だ!
というのが最大の「売り」みたいな印象でした。
二人とも好きな俳優ですが、ぜったい宇宙服は似合わなそうだし・・・

農業やってたパパがいきなりリクルートされて、愛する家族を残して宇宙に旅立つ。
「行かないで~パパ~」
まさかこれだけで3時間は持つまい、とは思っていましたが、あまりの情報の少なさに
観ようか迷っていたんですが、劇場で観て正解!
大正解!!
今年のベスト1かもしれないです。

公式サイトにさえたいした情報を流さずに、世界中ほとんど同時に公開し、
観た人の口コミで拡散しようっていう手法か?
とにかく私はまんまとノックアウトされたので、頼まれもしないのに強くおススメしてまわっています。
3時間ちかくあるので、万全の体調で、良い椅子と音響のシアターで観て下さい。

最近のSF映画は、昔の映画を最新技術で使って作り直したり、
誰もが知ってる話のエピソードゼロだったり、ちょっと当たるとどんどん続編つくったりそんなのばっかり。

「インターステラー」は、まったくのオリジナルで、(上映時間は長いですが)これ1作で完結。
SFでありながら、主題は人間愛や家族愛。
人類がまさに滅亡の危機、というときに、科学者たちは知恵を出し合って存続の道を探るんですが
自分の子どもや恋人や自分自身のことが大事なのは当然ながら、
「それはひとまず置いておいて個を捨てて人類のために」というのが従来の形。
本作のなかでは、美しくもエゴイスティックな愛の形がつきつけられて胸が痛くなります。
科学者は(うっかりミスや失敗をすることはあっても)正確にデータをとって報告して世間に発表する
というのは当然のことと受け止めてきましたが、これがもし自己都合による「嘘まみれ」だったら?
冒頭から「アメリカの月面着陸はねつ造で、アポロ計画はソ連を破たんさせるため」
と学校では教えているのに、マーフ(主人公の娘)は月面着陸を信じているから問題児だ・・・
というシーンに驚いたのもつかの間、人類を救うために一致団結しているはず、の科学者たちが、
可能性がないことがすでに判明しているプランを推したり、嘘のデータを送り続けたり、
嘘つきばっかり出てきてきますが、気持ちがわかるからつらいよ~!


 「穏やかな夜に身を委ねてはいけない
賢人は闇にこそ奮起するもの
消えゆく光に対して果敢に挑むのだ」

何度か引用されるこの詩が気になっていたのですが、
もともとはディラン・トマスによる死に瀕した父を引き留めるもの。
未来は与えられるものではなく、果敢に挑まなければいけない、
と鼓舞するような詩です。


最初に戻って、ストーリーをさらっておくと、
近未来、地球規模の異常気象で農作物は全滅、度重なる砂嵐に日々の生活すら困難に。
二人の子どもと老父と暮らすクーパーは農夫ですが、昔はNASAの優秀なパイロット。
長女マーフの部屋に起こるオカルト現象はどうも誰かからのメッセージだと推測し
バイナリデータで読み解くとそれは座標をしめしており、クーパーとマーフが車で向かうと
そこはとっくに閉鎖されたはずのNASAの施設。
秘密裏に人類の移住先を調査していたことがわかります。

「ラザロ計画」ではすでに12人のパイロットを別の銀河系に送り、3人から信号がおくられている・・・
ワームホールを抜けて別天地へ実調査にいくのがクーパーに与えられたミッションです。
なんだか「スタートレック」っぽい展開ですが、おとぎ話的ではなくてとってもリアル。
マシュー演じるクーパーが、いわゆる超人的なヒーローでなく、強くてやさしい父親で
血の通った人間で、生きたい生かしたいと心から願って、怒り、苦しみ、泣く・・・
「困難な境遇にありながらも常に前だけ向いて突き進む男」
今までマシューが演じてきた役柄は、環境こそ違えいつもこんなだったから、
悪夢をみてうなされたり、娘を思ってめそめそ泣いたりするシーンなんて考えられなかったんですが
うーん、心をわしづかみされました。去年に続いてまたオスカー獲るかも??

ロケットにはクーパーはじめ4人の飛行士と2体の人工知能ロボットが。
2体のロボットというと、スターウォーズのR2D2とC3POみたいなのを連想しますが
この2体、CASEとTARSは、積木みたいな、カステラの箱みたいな単純な外観ながら
すごく優秀で、ユーモアレベルや正直レベルを自由に設定できるのです。
画像もほとんどネットで拾えないんですが、これも隠し玉ですね。
楽しい!

飛行中はカプセルに入って冬眠することで老化することなく、
ガルガンチュアにより時空が歪められることで1時間が地球の7年に相当するから
最初から最後までほぼ歳をとらないクーパーに対し、
地球では子どもたちはすでに成人して、マーフはNASAの研究員となっていました。

サプライズもいくつかあり、例えば氷の惑星で冬眠していたマン博士。
すぐに生き返るのもびっくりですが、誰かと思ったらマット・デイモンで、またびっくり!
チラシにもクレジットなしですよ。
しかもカメオではなくて、非常に重要なキイパースンとして登場します。

ラストにかけても、10回以上「ええっ!」と驚くところがありますから、
これはもう見るしかないと思います。
一見科学とは折り合わないような、愛とか個人の感情がでてきますが、それも「観察可能な力」
オカルト肯定者と科学者はいつも対立していますが、異次元世界からの働きかけだったとしたら?
相対性理論も量子力学も分からない私には「面白い」という資格もないかもしれませんが
それでもこの湧き上がる感動はなんなんでしょう?
公式サイトもほんとうに情報少ないので、竹書房からすでに出ているノベライズを読んでみようと思います。

この作品、3Dではありません。
それでも視覚とハンス・ジマーによる重量感のある音響で、充分すぎる疑似体験ができるので
DVD発売を待たずに、「いい」劇場でみることをおススメします。