映画「喰女」 平成26年8月23日公開 ★★☆☆☆
原作本「誰にもあげない」 山岸きくみ  幻冬舎文庫 ★★★☆☆

 
 
舞台「真四谷怪談」の看板女優である後藤美雪(柴咲コウ)の推薦により、
彼女と付き合っている長谷川浩介(市川海老蔵)が相手役に選ばれる。
二人はお岩と伊右衛門にふんすることになり、鈴木順(伊藤英明)と朝比奈莉緒(中西美帆)らの共演も決定する。
こうして舞台の稽古がスタートするのだが……。             (シネマトゥデイ)


ひと月以上前に観ていたのですが、原作を読んでからアップしようとしていたら
すっかり忘れてしまいました。



原作はタイトルや表紙からわかるように、女性の嫉妬や疑心がテーマの恋愛(ホラー)ミステリーです。
付き合っている年上の有名女優、美雪が寛容なのをいいことに、利用するだけして
主役を射止めたら次の女性に乗り換えるという長谷川浩介。
この二人が舞台上で演じる、四谷怪談のお岩と伊右衛門の設定ともリンクしていきます。

現実世界がメインの原作と比べると、映画の方は(シーンの長さ自体はそれほど変わらないですが)
むしろ舞台上で演じられる世界観のほうが見どころです。

日本人なら誰もが知っている「四谷怪談」
夫、伊右衛門の心変わりで離縁されたお岩さんが醜い顔で化けてでてくる、あの話です。
(ちなみに井戸から出てきてお皿数えるのは「番町皿屋敷」のお菊さんです)

実は私は最初こっちと勘違いしていました。


映画の中に出てくる真四谷怪談のシーンは、衣装をつけての「ゲネプロ」みたいな設定なんですが
舞台美術や衣装小道具などが綿密に作りこまれていて見ごたえあります。
最初は舞台上だったのが、しばらくするとリアルな世界が広がる・・・みたいなのはよくありますが
最後まで舞台上、それも本番ではなく、スタッフたちが見守るなか・・という設定が面白い。
ここらへんのシーンだけ取り上げたら、海外で受けるんじゃないかと・・・
舞台上の伊右衛門、というか海老蔵は、この道のプロですから、オーラ全開でまさにひとり舞台。
伊藤英明なんかと絡むシーンもありますが、土俵の上の横綱と幕下、って感じで、
「コネで役にありついた新人俳優」の設定はどこへいったやら・・・・?


「真四谷怪談」にキャスティングされた役者は、主役のふたりだけでなく、
伊藤英明も中西美帆も、プライベートでも(できすぎと思うくらい)同様の愛憎劇が存在しています。
舞台上で繰り広げられる劇のリハーサルと私生活、そして妄想の世界が絡み合って
夢と現実の境界を越えて狂気の世界へと行ってしまう・・・

って話なんですが、からみあうのは映画の中だけじゃなくて、
海老蔵のプライベートとか、野心の塊みたいな中西美帆の起用とか
ひとりの俳優を巡っての柴崎コウとマイコのスキャンダルとか、
とてもプロモーションには使いづらい芸能情報までが持ち込まれてしまって
観てるこちらまでが邪推の嵐になってしまいます。
こんなの誰が作ったんだ!と思ったら三池監督でした。

彼は怒りや悲しみの表現を内面的な描写でなく、すべて見えるものとして、
インパクトある映像でみせるので、ミステリーとしては、かなり意味不明。
ホラーとしても、血みどろになって痛い痛い・・・・と思うだけで
じわじわとくる恐ろしさなんて、まったくなし。

舞台上でお岩さんが「私が至らぬばかりに・・・」と繰り返し
不誠実な夫の出世を願って自分は犠牲になろうとする思いにはちょっとゾクゾクしましたが、
現代パートの美雪の気持ちにはほとんど共感できませんでした。

原作を読んだら、美雪のマネージャー加代子役のマイコが重要な役まわりなんですね。
彼女は舞台上ではお岩さんの影武者をする程度なので、映画の中では重要視されてない印象。
あくまで美雪の影の存在でいることで幸せを感じる女性は逆にカッコいいし
加代子目線でもう一度映画を見たら、ちょっと違った見方ができるかもしれません。