映画 「円卓 こっこ、ひと夏のイマジン」 平成26年6月21日公開★★★★☆
原作本「円卓」西加奈子 文春文庫 ★★★★☆

 
大阪の団地で祖父母と両親、そして三つ子の姉たちと暮らす小学3年生の渦原琴子、
通称こっこ(芦田愛菜)は、大家族の温かな愛情に包まれながらいつも不満だらけで、
孤独に憧れていた。
家と学校という限定された世界の中でいろいろなことに悩み、考えるこっこは、
祖父・石太(平幹二朗)が教えてくれたイマジンという言葉を胸に少しずつ成長していく.
                                              (シネマ・トゥデイ)

日本が世界に誇る小さな大女優、芦田愛菜ちゃんの初主演作。
もうこれだけで観る価値MAXなのに、関東圏ではなんとも地味なプロモーション。
わずか2館での上映ですよ!

原作は西加奈子さんの中編小説で、私は「現代版ちびまる子ちゃん」のつもりで
子ども時代の「あるあるネタ」に終始クスクス笑いながら、サクサク読んだんですが、
すぐには受け止めきれない衝撃的なできごとに遭遇するこっこ・・・
ぽっさんや石太のことばを理解しようと考え込むこっこ・・・
ふっとテンポを落として思いに浸ることも出来る演出で、映像化のおかげで、より楽しめました。

こっこの家は祖父祖母、三つ子の姉もふくめた三世代の賑やかな家庭。
狭い公団住宅の一室で、けっして裕福ではないのだけれど、
母のつくる色とりどりの大皿料理が並んだ、赤い大きな円卓を囲む夕飯に
みんなから愛されている末っ子のこっこ・・・・
どう考えても幸福の極みなんですけど、
本人にとっては、この平凡さが我慢ならないのです。
ものもらいで眼帯をしてきたり、不整脈で気を失ったクラスメートがうらやましくてたまらない。
こっこにとってそれは「かわいそう」なのではなく、「かっこいい」のです。

「ばくりゅうしゅ」「ふせいみゃく」「ざいにちよんせい」「ぼーとびーぷる」「ししゅんき」・・・
気になる言葉はじゃぽにか(ジャポニカ学習帳)になんでもメモします。
じゃぽにかの最初のページには
「こどく」
これこそこっこの憧れる最高にクールな単語なのです!

こっこには公団の隣に住む「ぼっさん」という親友がいまして、
彼は吃音に悩む内気で冷静で物知りの少年です。
ぽっさんがどもるのをこっこはマネしたりするんですが、
ぽっさんは怒ったりしません。
それはこっこが馬鹿にしてからかってるんじゃなくて
吃音がかっこいいと思ってるってことを、ぽっさんはちゃんとわかってるからです。

でも、クラスメートがイヤだと思っていることを(いくらこっこがかっこいいと思っていても)
それをマネするのは、傷つけることになるからアカンことやで!というぽっさん。
じゃあ、いやだと思ってるかはどうしたらわかるの?というこっこに
「それは想像するしかない。イマジンや」
「死ぬかも知れないと思った時の怖さとか、ポートピープルや在日の人の思いや
経験してないことはイマジンするしかない。
相手がどう思うかは年取った方がわかることもあるのや」
と、祖父の石太もいいます。
その頃こっこは、お母さんに赤ちゃんが出来たことを素直に喜べず、
家族のあいだがイヤ~な雰囲気になってしまっていたのですが、
人の気持ちをイマジンしてみること、
自分の口に出した言葉には責任持たなくてはいけない、と
心からおもうようになります。

その頃、こっこの前の席のミキナルミという女の子が
「死ね」と書いた紙切れを机の中にたくさん貯めているのに気づきます。
学校へもあまりこなくなったナルミの気持ちを一生懸命イマジンするこっことぽっさん。
そして、名案を思い付きます。
うさぎ・・・こいカルピス・・・おもしろいかたちの野菜・・・たこやき・・・
めっちゃつめたい水・・・ぶつぞう・・・てんぐ・・・あいこがつづく時間・・・

学校の中庭に散らばるたくさんの言葉のかずかず・・・
暖かく、ほのぼのとユーモラスな単語の泉は、
生きてることの楽しさをちゃんと伝えられたのですね。
この大団円、とても自然に受け取れました。

「ちびまる子ちゃん」「サザエさん」などの番組は、子供向けアニメでありながら、
元子どもだった私たちを子ども時代に戻してくれますが、
それは「のんびりしてた昭和のノスタルジー」のオブラートにくるまれてるからでしょうが、
「円卓」はまさに平成の今の時代が舞台です。
原作には「戦後65年」と書いてあったし、
映画ではさらに「戦後68年」、つまり、平成25年の設定なんですよ。
で、おばあちゃんはたしか65歳だったから、戦後生まれです。
戦争を知らないおばあちゃん。
まさに現代の設定なのに、こんなに童心に戻れるのはなぜ?

「うっさい!ぼけ!」
「この平社員が!」
先生や親にも乱暴な言葉づかいながら、みんなに愛される天真爛漫のこっこ。
すごくしっかりしているのに、なぜか寿老人をサンタクロースのように憧れてるぽっさん。
最後まで名前すら明かされなかったぽっさんの「5つ上の兄さん」。
徹底的に職人肌の中学の手芸部の玉坂部長。
自分のことをワシといい、苦労がぜんぜん顔に出ないベトナム難民のごっくん。
どうしようもなく阿呆なうえに、顔もそれほどでもないといわれても、ひたすら人懐っこい理子の彼氏。

登場人物がいちいち魅力的で、ここまでキャラを極めたら、スピンオフドラマでも書けそうなくらいです。
それでも、もったいないけど、副題に「ひと夏のイマジン」とあるように
渦原琴子、小学校三年生のひと夏をきりとったことで、このドラマはひときわ輝くんだと思います。
私たちもこうやって少しずつ大人になってきたのでしょうが、
はたして、きちんとイマジンできる大人に成長したのかな?

芦田愛菜ちゃんは、小学校3年生の等身大の女の子の役。
しかも大阪弁はネイティブだし、まさに適役!ではあるんですが、
逆に自然すぎて、愛菜ちゃんの演技力が必要だったんだろうか?
別に他の子役の子でもできたんじゃないかな?とも思ってしまいました。
ただ、シリアスな役だけじゃなくて、コメディの才能もタダものじゃないことも良くわかりました。

おそらく愛菜ちゃんが天才と言われるのは、
私たち大人が長年かけて身につけてきたイマジンの力をはるかに上回る量を
生まれつき持っていたからにほかならないです。
それも、じっくり考えなくても瞬時にイマジンできてしまうのでしょう。
そう思うと、この映画はとても面白かったけれど、初主演にしては、
愛菜ちゃんのスキルを出し切った作品とは到底思えません。

「パシフィック・リム」のあの短い出演シーンでも存在感を示した愛菜ちゃん。
もう日本の安っぽいテレビドラマなんて無視して、
日本を代表する女優として世界に羽ばたいて欲しいです。