映画「ウォルト・ディズニーの約束」 平成26年3月公開 ★★★☆☆


1961年、パメラ・L・トラヴァース(エマ・トンプソン)は、ウォルト・ディズニー(トム・ハンクス)が長年熱望する
「メリー・ポピンズ」の映画化について話し合うためにロサンゼルスに向かう。
傑作児童文学の著者である彼女は気難しい性格で周りを困惑させる。
スタッフたちはどうにかしてトラヴァースに映画化の契約書に署名してもらおうと心を砕くが……。
                                                       (シネマ・トゥデイ)
むかしむかし、(1960年代くらい?)日本テレビの金曜日の夜に「ディズニーランド」という番組がありまして、
ウォルト・ディズニー本人がホスト役をやっていたんですね。
「未来の国」「おとぎの国」「冒険の国」「開拓の国」・・・もちろん「おとぎの国」を楽しみにしていました。

トム・ハンクスがウォルトに扮するということで、初期のディズニー作品が見られると思ってワクワクしていたら、
そうではなくて、ミュージカル映画「メリーポピンズ」を撮るにあたって、
原作者のトラヴァース夫人をどうやって説得して契約書にサインさせるか?
ウォルトたちの悪戦苦闘の顛末・・・・そんな映画でした。

現在公開中の「アナと雪の女王」もですが、ディズニーは30年代から民話や童話をアニメ化してきましたが
「メリーポピンズ」は、30年前にP,Lトラヴァースによって書かれた児童文学でして、
20年間、映像化の許可を与えずにいたのですが、
本も売れなくなったのに新作も書かないトラヴァースに代理人が焦り、
「気に入らなかったらサインしなければいいんだから・・」と、アメリカに飛行機で送り込むのです。

「落ち目の元人気作家」と「ねずみ帝国の王様」では、完璧にウォルトの勝ちで、
足元を見て安く買いたたくこともできたでしょうに、
トラヴァースには最大限の敬意と歓迎の気持ちを込めて迎え入れます。
ただし、「ねずみ王国の流儀」で。

陽気で明るい運転手を迎えに行かせ、部屋にはたくさんのぬいぐるみや風船が。
打ち合わせにはカラフルなスイーツが並び、ファーストネームで呼び合うように注文をつけます。

もちろん、トラヴァースは断固NO!
それでもどんなに嫌がられようと、彼は「パム」とファーストネームで呼び続けます。
物腰は柔らかいけれど、頑固さではけっこう似たり寄ったりですね。

すべての脚本や演出にトラヴァース自身が意見をいい、
了解したうえで、はじめて契約書にサインをする、という一方的な条件をのんで、
映画の製作がはじまるのですが、
最初に一行からイメージが違う!と文句ばかり。
あの俳優は使うな、
赤は嫌いだから使うな、
一部分でもアニメ―ションはもってのほか・・・
会話はすべてテープに録音して証拠を残すという念の入れようです。

ウォルト自身も昔、大物プロデューサーに大金を積まれても
「ねずみ」を売り渡さなかった過去があるので、
彼女にとって家族同然のメリーポピンズやバンクスを汚すようなことはしない、
一方で、「メリーポピンズを映画化する」と娘にした約束は父親として絶対に破れない。
「あなたのメリーポピンズが本から飛び出すのですよ」
「ぼろぼろになるまで愛したあの本から・・」


渾身のプレゼンですよ!
とにかく映画の完成にはこぎつけるのですが、
それでも最後まで彼女が映画を気に入ったかどうかは・・・・謎です。

それにしても、今から50年も前の話なのに、著作権の意識すごいですね。
「著作物の二次利用」でこれだけ大変な思いをするとは・・・
契約できなかったとしても、経費はすべてディズニー持ちでしょ?
それだけでも太っ腹!

私は、「児童文学の映画化」というところで、
あの「魔女の宅急便」のジブリと角野栄子さんのことをずぅ~っと考えていました。
ジブリはこれだけ作者に気を使ったんでしょうか?
映画がヒットしようが、原作者は怒ってますからね。
ただ原作者参加で作った実写版が見事にこけた、というのも事実で、
原作者に配慮するのが必ずしも映画の興行収入にはつながらないわけで・・・

トラヴァースは何から何まで文句をつけたけれど、
結局は、ディック・ヴァン・ダイクを主要キャストに使ったし、赤も使ったし、
ペンギンはアニメ合成だし、歌も踊りも満載で、押し切られちゃってますね。
でも映画は大ヒット。
世の中そんなものです。

こんなことなら「メリーポピンズ」の映画観ておけばよかったのですが、
1本まるまるは観たことがありません。
原作本のほうは読みましたけれど、正直、ジュリー・アンドリュースは絶対にメリーじゃないと思います。
今回トラヴァースを演じたエマトンプソンはナニー・マクフィー シリーズでは
主役の乳母ナニー・マクフィーを演じているのですが、こっちの方がよっぽどメリーポピンズっぽく感じました。
(原作はマチルダばあやシリーズなんですが・・・)

「チムチムチェリー」
「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」
「おさとう1さじで」
「凧をあげよう」
「2ペンスを鳩に」
歌も踊りもこの上なく楽しいけれど、それを原作者は喜ばないだろうな、というのが実感です。

でも、次から次へとハッピーな歌を即興で作ってしまうシャーマン兄弟には感激。
「どうせ気に入ってもらえないだろう」と思いながら、なんでまたあんな明るい歌が出来るのでしょう。
「凧をあげよう」を歌いながら、(本職のダンサーでなく)作詞者や脚本家や秘書が踊ってしまうところ。
楽しいっ!!
さすがのトラヴァースもうっかり踊ってしまう、という奇跡を起こします。
頑固で偏屈なおばさんを回転木馬に乗せてしまったり、やっぱりそういうのはディズニーの魔法の力、ですかね。

私は「魔女の宅急便」のこともあったし、どちらかというと「原作者寄り」で観ていたんですが、
彼女は「メリーポピンズを守りたい」という以前に、
コミュニケーション能力の欠落した社会性のない問題児にも思えます。
飛行機の中で荷物の置き場を譲ってくれた子連れの女性に、お礼もいわず
「(何時間も乗るんだから)赤んぼを泣かさないで」なんて、どんな非常識人なんだ!!
多少自分の趣味にあわなくたって、相手の好意には感謝するのが大人ってもんですが
そういう意識がまったくないです。
ただこのあたりはどの程度信憑性のあるエピソードかは不明で、
なんかディズニー美化のようにも見えてしまうんですが。

彼女が唯一心を開いたのはリムジン運転手のラリー(ポール・ジアマッティ)
ビジネスでなく心底優しい彼の人柄をちゃんと見抜いていたのですね。

2時間の上映時間のうち、三分の一くらいは、
実はオーストラリアで育ったトラヴァースの幼少期(1899年生まれだから7歳くらい)のシーンです。
アル中で働かない銀行員の父はダメ人間でしたが、子煩悩で、娘に空想する楽しさを教えてくれました。
いや、不幸だったから空想することでそこから逃れようとしていたのでしょうか?
そして、ウォルトも厳しくこき使う父を嫌いながらも、自分の王国に父の名前を付けました。
トラヴァースというのも実は彼女の父のファーストネーム(本名はヘレン・ゴフ)で
彼女も自分の内なる父を心から愛していたのでしょう。

娯楽映画としてみるには、意固地ババアのトラヴァースが主役というのは、結構きついです。
いちいちかみつくしプライド高いし、一番友達にしたくないタイプ。
でもそれでも彼女に少しでも寄り添って見られ、最後にはちょっとだけ好きになれるというのは
エマ・トンプソンの力ですね。
子役の子もうまかったけれど、エマとはちっとも似てなかったような。
けっこう主演女優賞にノミネートされていたのに、受賞できなかったのも残念です。