映画 「エリジウム」 平成25年9月20日公開 ★★★★☆
2154年。
スペースコロニー“エリジウム”で生活する富裕層はパーフェクトな居住空間で過ごす一方、
荒廃した地球に暮らす貧困層はひどい搾取に苦しんでいた。
エリジウム政府高官のローズ(ジョディ・フォスター)が地球の人間を消そうと動く中、
地球で暮らすマックス(マット・デイモン)はエリジウムに潜入することを決意。
残り5日しかない寿命を懸けて戦いに挑む。 (シネマ・トゥデイ)
ず~っと待っていた「第9地区 」のニール・ブロムカンプ監督の3年ぶりの新作ですから
ものすごく楽しみにしていたんですが、
「第9地区を期待したらあてが外れるぞ!」的な前評判に恐る恐る見たのですが、
いやいやどうして、面白かったです。
21世紀末には汚染と人口爆発で地球の生活環境は最悪となるそうです。
「世界戦争」とか「巨大隕石」とか「宇宙人の攻撃」とか、そんなこんなで地球滅亡、
というのはよく聞くケースですが、このままの生活をしてたらもう今世紀中にこんなになっちゃうのかぁ・・・
高層ビルが食い散らかしたとうもろこしのような残骸になった最初の絵はあまりにショッキング!!
「今の生活パターンを続けて自滅する」というのがやっぱり一番残酷な末路ですね~
富裕層たちはそんな地球を見捨てて、さっさと宇宙にスペースコロニー「エリジウム」を作り、
後に残った2154年のロスはスラム化し、スペイン語がとびかう貧者の巣窟となっていました。
近未来が舞台で、「富裕層と貧困層」「エリジウム市民と地球人」という分け方をしていますが、
これ、未来の話でもなんでもなくて、今の社会での「移民」のお話だと思ったのですが・・・・
「第9地区」だって、結局は「移民」とか「民族差別」が題材でしたよね。
地球に不時着した宇宙船から弱り切ったエイリアンがたくさん出てきて、
難民として人道的に保護していたらそのうちに数が増えてエライことになった・・・って話でした。
舞台は確か南アフリカで、「アパルトヘイト」の文字がずっと頭の中を廻っていました。
本作でもロスに残されたのはヒスパニック系ばかりで、その雑然としたはきだめ感は、「第9地区」をどうしても思い出します。
ここにいたら絶対にいい生活なんてできないから、みんな小金を貯めて、
偽造IDを買ってシャトルをチャーターして、エリジウムに行くことばかり考えています。
偽造パスポートや船を手配して密入国を手配する仲介業者みたいなのはいつの世もいるんですね。
エリジウムには各家庭にすべての病気を瞬時に完治できる「医療用ポッド」があって、それ目当ての密航も少なくないのですが、
ジョディ・フォスター演じるデラコート長官はすべての侵入機を撃ち落とし、地球人の殺害を指示します。
病人くらいは助けようという「人道的措置」なんて全然なしです。
上層部からの冷徹すぎるという批判にもお構いなしで、「弱腰」とののしり、
エリジウムのシステムを書き換えてすべての権力を手にしようとしています。
マックス(マット・デイモン)も職場で致死量の照射線を浴び、完治するにはエリジウムにいくしかない。
「生きたい」という強い思いからスパイダー率いる密航団の仕事を請け負うことにします。
半分アンドロイド、みたいなエクソスーツをつける手術をして、余命5日の体も強靭な戦士に・・・
脳や神経系統に融合させたこのスーツ、機能はすごいけれど見た目はカッコ悪くて、
アイアンマンのスーツなんかとは大違いなんですが、
この「ゴチョゴチョ感」は、「第9地区」のエビたちの姿をほうふつとしてしまいました。
エリジウムの金持ちの脳をダウンロードしてパスワードを奪うというのが彼に与えられた仕事でしたが、
マックスが自分の脳に同期化した情報がとてつもないものだったので、デラコートからも執拗に追われることになります。
彼らは、命令をだしてボタンを押す以上のことはやらないから、汚い仕事はCCBの傭兵にアウトソーシング。
この男がエイジェント・クルーガー。あのシャールト・コプリー登場に、「第9地区」のファンはテンションマックスです。
ここまであんまり笑いとかなかったので、彼がなんか面白いことやってくれるはずだ!と
私も期待MAXだったんですが、
最後までマックスの最大の妨害となるものの、最後まで普通の悪役だったのがかなり残念でした。
マット・デイモンみたいな大物が主役だから仕方ないのかな?
今回のヒロイン枠はフレイというマックスの幼馴染で白血病の娘をもつ看護師。
彼女もまたエリジウムに娘を連れて行きたいものの叶わずにいました。
マックスに突然再会したことから、娘のマチルダともども巻き込まれてしまうのですが、
彼女がエラいのは、とにかくけが人を見たら後先考えずにかいがいしく治療してしまう真の看護師。
極悪のクルーガーですら彼女に惚れてしまって、この先の楽しい展開を期待したんですが、
最後まで主役はマット・デイモンでした。
しかしなんでマット・デイモン?
もちろん演技は完璧ですけど、体にいろいろくっつけられたドロイド状態では、もはや誰だかわからなくなってました。
シャトルが飛んでるところとか普通にメジャーのSF映画で、B級感が姿を消していたのも残念。
お金をかけれてグレードアップすればいいってもんじゃないですよね。
それにしても、スラム街のほうがあんなにリアルなのに、エリジウムのほうは住民もほとんど出てこず、
ビジュアルもオリジナリティ皆無で、薄っぺらなことこのうえない。
ジョディ・フォスターの存在感頼みって感じです。(ここは大物俳優で正解だったかも)
たしかエリジウムのシーンの最初のほうで使っていた言語はフランス語でしたっけ?
公用語は英語のようでしたが、フランス語はセレブな言葉なんでしょうか・・・
貧困層はスペイン語(ポルトガル語?)+英語というのも、どうよ?って思いますが、
メキシコのディエゴ・ルナやブラジルのヴァグネル・モーラなどの人気俳優をキャスティングして
悪臭ただよう貧民街のほうは現実的な近未来の姿をしっかり描いていて見ごたえあります。
やっぱり「第9地区」の流れですね。
ようするに(さっきも書きましたが)この映画もまた、近未来は関係なくて、今の移民問題、
不法移民や難民をどう受け入れるか、どう付き合うか・・・ってことのように思います。
病気のマチルダがマックスに語る「ミーアキャットのおはなし」
小さくて弱くて果物を食べられないミーアキャットにカバが手をさしのべます。
「カバに何の得がある?」というマックスに
「お友達ができたわ」と答えるマチルダ。
最後に「カバの気持ちがわかった」というマックスのセリフがあるのですが、
カバかミーアキャットかは相対的なもので、
たとえば常に金欠で若くもない私にだって「カバとなりえる場面」は必ずあるわけで、
そのときにこのカバのようにふるまえるか?
映画は比喩も遠まわしでちょっとも教訓的ではなく、単なる娯楽映画の様相なんですが、
最後にほろりとして考えさせられるのも「第9地区的」かな??
ずい分前作に似ているように書いてしまいましたが、比べたら半分くらいの出来で、
あんまり期待して観ないほうがいいと思いますが、それでも私は個人的には好きです。
ただ、やっぱりグロいシーンも多く、「笑い」も少な目なので、あんまりオススメはできないかな~