映画 「さよならドビュッシー」 平成25年1月26日公開 ★★★☆☆
原作本 「さよならドビュッシー」 中山七里 宝島社 ★★★☆☆
ピアニストになることを目標にしている16歳の遥(橋本愛)は両親や祖父、いとこらに囲まれ
幸せに暮らしていたが、ある日火事に巻き込まれ一人だけ生き残る。
全身に大やけどを負い心にも大きな傷を抱えた遥だったが、ピアニストになることを諦めず、
コンクール優勝を目指して猛練習を再開。
しかし、彼女の周囲で不可解な現象が続発し……。(シネマ・トゥデイ)
「第8回 このミス大賞」受賞作。
「本屋大賞」がじゃんじゃん映画化されているのに比べたら、あんまりメディア化されることは少なく
他には「バチスタ」と「首長竜」くらいでしょうか・・・
「おやすみラフマニノフ」「いつまでもショパン」・・・など、中山七里作品はクラシック音楽シリーズが有名なので
さぞや音楽に造詣の深い作家さんと思いきや、実は全くの門外漢だそうです。
ドビュッシーの曲に込められたメッセージがミステリーを解く手掛かりとなったり、
そうでなくても、この有名な作曲家のトリビアが満載なのかと思ったら、そうでもなし。
(20フラン紙幣の肖像画でしかしらないこの作曲家のこと、知りたかったんですが・・・)
大やけどを負ったヒロインがピアノを通じて立ち直る再生譚なんですが、
ミステリーですからもちろんカラクリがあり、
それを解くのが彼女の指導者のピアニスト岬洋介・・・というラノベ仕様です。
最大のトリックが・・・・まあ、いわゆる「なりすまし」なんですけど、
これ、最近公開されたヴィゴ・モーテンセン主演の映画「偽りの人生」のような
「双子が入れ替わってもう一つの人生を・・・」的な話でも現実はけっこうキツイと思うんですが、
入れ替わる二人が、(実の親も気づかないというのに)年齢以外はほとんど似てないっていうのは、
小説ならまだしも、映像化するならもうちょっとなんとかしてくれないと。
ただ、この映画の最大にして唯一の見どころは、岬洋介が本物のピアニストだということ。
清塚信也。30歳。実績のある現役ピアニストです。
映画初主演を果たした彼は、以前は「のだめ・・」や「神童」などでピアノ演奏の吹き替えをやっていたそう。
俳優に演奏をさせるか、
演奏者に演技をさせるか・・・
邦画の世界では前者が圧倒的に多く、
しかもたいして練習もなしに「吹き替え頼み」ってことが多いんですが、
コンサートシーンとか、満員の観客の前で「弾いてるふり」をするわけですよね?
もう私はそればかりが気になって、なかなかドラマに集中できなくて困ります。
それに比べ、清塚氏は、ルックスも俳優並み。演技も・・・・・まあ、そこそこ。
そこそこ、とはいうものの、本物のピアニストが口にするセリフは
むしろ音楽とは無縁の俳優の発する言葉よりうんと説得力がありますよね~
「ピアニストは舞台に立ったら、自信を持つ責任がある」
「コンクールは一瞬、ピアノは永遠」
「楽しんできて。むずかしいことかもしれないけど楽しんで」
「これまで自分が生きてこられたのはピアノのおかげ。
その恩返しの気持ちで弾いている」
「きみは心を込めて音を飛ばすんだ。
自分のためでなく、誰か大切な人のためなら、ずっと最後まで頑張れる」
いやいや、こんなセリフがすとんと心に落ちるもの、彼が本物の演奏者だからなのでしょう。
映画のアクションシーンを引き受けるスタントマンを「本物」とは思えなくても
楽器の演奏を担当する演奏者は「本物」と思ってしまうのは、
ピアノ弾ける人に対する私のコンプレックスの表れかもしれません。