映画「 タイピスト!」 平成25年8月17日公開 ★★★★☆


手乗り文鳥の手に乗る私


女性にとって大人気の職業が秘書で、タイプライター早打ち大会に勝つことが最高のステータスだった1950年代のフランス。

田舎出身のローズ(デボラ・フランソワ)は保険会社の秘書に採用されるが、ぶきっちょで失敗してばかり。

そんな彼女の唯一の才能であるタイプ早打ちに目を付けた上司ルイ(ロマン・デュリス)は、

二人で協力し、タイプ早打ち世界大会に出ないかと提案する。            (シネマ・トゥデイ)


都会に憧れた田舎の少女が鬼コーチの特訓でタイプライターを極めて成功をおさめ、

更には恋も成就させてめでたしめでたしのサクセスストーリー。

これ以上でもこれ以下でもない、「マイ・フェア・レディー」のスポ魂版。

ぜひとも爽やかなイケメンにやっていただきたい鬼コーチ役に、

毛深くて暑っ苦しい(失礼!)ロマン・デュリスと聞いて、ちょっと二の足を踏んでいたのですが、

巷のあまりの高評価に、遅ればせながら観てきました。


ほぼすべてが思った通りの展開なのに、この高揚感はなに?

体のあちこちの血流がよくなったような気さえします。


絶対に見るまいと思っていた「半澤直樹」も1回だけ見たら大興奮だったし、「巷の評価」バカにできませんねぇ~


今「タイピングの速さ」といったら、PCのキーボードの日本語入力の速さ、になるのでしょうか?

ローマ字打ちだと、文字数の割にタッチ数がかさみますが、それでも訓練次第でかなりスピードは向上しそう。


ところが、50年代の手動タイプライターは、キーを押すとアームの先についたアルファベットの活字が

インクリボンをたたいて紙に文字が写り、キーが戻るときにひと文字分紙が左に動く・・・

そういう超アナログな仕組みだから、構造上口述筆記が限界の速さで、

一分間に400とか500字の超人的なタイピングは可能なんでしょうか??


映画の中にもでてきましたが、アームがからまるのは日常茶飯事だし、

万一間違えたら(バックキーで戻って訂正なんてできないから)最初からすべて打ち直しですから

実務的には正確さ美しさを競った方がいいと思いますけどね・・・


なんて偉そうにいっていますが、

実は私の母は若いころ英文タイピストだったので、家に卓上のオリベッティとかあって、

私も小さい時からおもちゃ代わりに打って遊んでいました。

中学生の時から「10本指ブラインドタッチ」をしていたわりには自己流なので速度は出ず、

就職してからもIBMの電動タイプライターは(タッチが強すぎて同じ文字が連打されてしまい)大の苦手でした。

ワープロが登場したころは人並み以上だったかもしれないですが、今はみんな速いから、さっぱりですよ。

だいたいQWERTY配列は英語を打つためのものだから、

これでローマ字入力していたら、指が均等に使えなくて不合理じゃないですか??

・・・・なんてことはどうでもいいことで、映画に戻ります・・・


ローズの家は村一番の雑貨店。

ある日父が仕入れたタイプライターがローズのお気に入りのおもちゃとなります。

(あ、私と似ているかも?)

ローズは左右の人差し指だけ使って、それでもかなりのスピードで打てるようになり、

憧れの都会の保険会社の秘書の採用面接でそれを披露。

ボスのルイに認められて、めでたく「仮採用」となります。


ローズは「垢抜けない田舎娘」という設定なんでしょうが、なかなかどうして可愛らしい。

予告編にもありましたが、一生懸命集中するうちに、髪がばらけ、ブラひもが見えちゃう。

前髪を吹きあげるしぐさもなんともキュートです。


1週間の試用期間中、ドジなことが多すぎて、クビになりかけますが

ルイは「タイプライターの早打ち大会で勝利すること」を条件に本採用へと。

10本指のブラインドタッチを習得させたり、姿勢を直したり、走りこんだり、ピアノの手ほどきをうけたり、

専門の指導者をつけたり、もう「タイプライター虎の穴」状態。


そして地方の大会で優勝するころにはローズは田舎娘たちの「あこがれの存在」へと。

さらには百戦錬磨の王者アニーを破って、フランスチャンピオンになって、

雑誌の表紙を飾り、ポピュレールのCMキャラクターにもなって一気にスターへと。


それでもルイはさらに上を目指せと言い、次はNYに乗り込んで世界大会だ!!!といいます。

チャンピオンのアメリカ人スーザン・ハンターは1分間に512字という世界記録をもっています。

なんと1秒間に8.6文字ですよ~!

アーム式のタイプライターでそれはあまりに厳しいと思いますが、実際にそんなすごい記録があったんでしょうか?

なんて思っちゃいますが、ともかく、高い目標に向かってガンガン挑戦あるのみ。

ローズはもう自分の力はこれが限度、と、ルイとの甘い生活を夢見ていて、

観てる私たちも、もうここまできたらいいんじゃないの?と思ってるのに、

ルイの要求は天上知らずです。


さて、ローズは世界大会を勝ち抜けるのでしょうか?


・・・って、まあ結末も予想通りなんですが、

それにしてもここまでひたすら頑張らせる映画がいままであったでしょうか?

むしろ爽快ですね。


可愛い容姿にガーリーなファッション、

なのにやってることは「虎の穴」。

このアンバランスが楽しいのかも。


この手のドラマではライバルやその周辺人物が汚い手をつかったり、嫌がらせをしたりするケース多いですが、

ここには「悪役」ほとんど出てきません。

ローズの「社会進出」を認めず、嫁に出すことばかり考えている彼女の父はちょっと憂鬱な存在でしたが、

結局はローズのことを思ってのことだし・・・

悪い人がいなくても、ちゃんと話は盛り上がるから「ガチの真剣勝負」はすごいですね。


タイプライターって、映画の中で小道具として使われたり、「つぐない」のように音が重視されたりすることがあっても、

こんなにまるまる全部がタイプライターっていう映画は初めてです。

タイプライター=PCのキーボードと思われている今、手動タイプライターを知ってる人はもう珍しいですかね?


ガリ版とか青焼きとか計算尺とかカーボン紙とか吸い取り紙とか肥後の守とかと同様、

映画の中だけでも、ずっとずっと生き続けてほしいと思うこのごろです。