映画「大統領の料理人」 平成25年9月7日公開 ★★★★★
ある日、フランスの田舎でこじんまりとしたレストランを経営するオルタンス(カトリーヌ・フロ)のもとに
フランス政府の公用車がやって来る。
彼女はパリ中心部にあるエリゼ宮殿と呼ばれる大統領官邸へと招かれ、
フランソワ・ミッテラン大統領のプライベートシェフに任命されたのだ。
だが、これまで女性料理人がいなかった男社会の厨房ではオルタンスはよそ者でしかなく……。
(シネマ・トゥデイ)
いきなり南極のフランス領クローゼー諸島。
アルフレッドフォール基地の研究者たちの食事を取り仕切るのがオルタンス。
TVのロケで訪れていたオーストラリアのクルーたちは、彼女が元大統領の専属シェフだったと聞き、
取材を申し込みますが、なかなか語ろうとはしてくれず・・・・
と、最初はまるで「南極料理人」みたいなすべりだし。
このグルメ映画、前にも書きましたがワタクシ的にはワーストだったので、ちょっとイヤーな予感が・・・
ただ「南極」といっても、フランスの基地のあるクローゼー諸島はマダガスカル島との中間地点だから
昭和基地からさらに1000km内陸の極寒の日本のドーム基地とは大違いで、
植物も動物も生息できる環境で、グルメが堪能できてもおかしくない環境でちょっとホッとしました。
ともかくオルタンスは、大統領専属のシェフ→南極料理人という驚きの転身をした女性だと知ってびっくり。
次のシーンからはパリのサントノレ通りのエリゼ宮で、南極のシーンとパラレルに進行するのですが、
あまりに環境が違うので混同する心配はないです。
さて、突然大統領の私設料理人にスカウトされてエリゼ宮に向かうオルタンス。
今までの生活はどうするの?とか、住むところとかどうするの?とか見てるこっちが心配になりますが、
その辺の説明は無し。前任者との引き継ぎもなし。
大統領の好みとか、なんの情報もなく、ともかく、公的な食事はメインダイニングが作るから、
大統領個人やプライベートな会合で提供する、懐かしいおふくろの味を作れということ。
ニコラという若いパティシエをアシスタントにつけてくれて、あとはよろしく・・・みたいな感じで。
この右も左もわからないチンプンカンプンの環境のなかですが、好きな料理ができるということでオスタンスは前向き。
迷った挙句に最初の献立をひねり出します。
ポルチーニのスクランブルエッグとサーモンのファルシとかそんなメニューでした。
ともかく大統領は見た目重視のヘンに豪華な料理に辟易しており、彼女の作るおふくろの味には大満足。
滑り出し好調のオスタンスは大統領と直接話をして、子どものころの話がはずみ、
ニニヨンの料理本を暗記するほどの食べ物好きだったこと、
素材の味を感じられるフランスの懐かしい味を愛していることなど聞き出して、俄然張り切るオルタンス。
アシスタントの若いニコラも研究熱心でよく働くし、ギャルソンのダヴィッドも協力的。
小さな厨房の人間関係は良好で、次から次へとおいしそうな料理が完成していきます。
「私は手順をいいながら作るのが癖なの。慣れてね」
彼女の独り言を聞きながら料理が出来上がっていく様子は見るからに楽しそう!
ただ大所帯の主厨房は依然として男社会で、この大統領お気に入りのおばさんの存在が気に入らない。
頼んでも何にも貸してくれないし、教えてくれないし、非協力的。
「半沢直樹」の大和田常務ほどじゃないけれど、なにかといじわるしてくる「悪役」です。
そうなると、観てる方からすると。徹底的に戦って「倍返し」「十倍返し」してほしいところですが、
彼女はけっこうあっけなく仕事を投げ出して辞表を書いちゃうので、あれれ・・・って感じ。
ただね、「おふくろの味」「素朴な味」といっても、彼女はそのなかでも最高の素材にこだわってるから
市場から消えた野菜となんとしても取り寄せたり、一番できのいいトリュフを求めて遠出したりしちゃうから、
コスト削減の担当者から、材料費や交通費の出費についてお尋ねをされたりしてしまいます。
また、今度は栄養士から、食事のカロリーが高すぎるとの警告が。
メニューは前もって出して審査を受けなければいけないこと。
タルトやマドレーヌもダメ。ケーキ、ソース、チーズは外すこと。
できるだけ蒸し料理を中心に・・・など。
公費からの出費だし、大統領の健康を考えたら当然ともいえるのですが、
オルタンス側からいったら、
「大統領の好きなおふくろの味」といわれただけで、そんなこと最初から聞いてないしね。
ドラマ的にはもうちょっと辛抱して頑張って欲しい・・・そう思う人がほとんどだと思うんですが、
私は彼女の気持ちもわかる気がします。
家族を養わなければいけないサラリーマンだったら、多少の嫌な思いは我慢我慢で、仕事にしがみつかなけば、ですが、
子どもを育て上げたおばちゃんは、この先、自分の人生を充実させることを考えていたらよろしい。
これはこの年代の強みですね。
彼女の夫のことはまったく説明なしで、別れたのか?亡くなったのか?いるけど存在感ないのか?
ともかく、エリゼ宮を去った彼女は前の生活には戻らず、20代男性の募集に果敢に応募して
「南極料理人」の仕事を得ます。
ただ、この仕事も最終目標ではなく、ただ「報酬が良かったから」だといいます。
実は彼女には「やりたいこと」があって、その夢をかなえるための資金づくりなんですって!
いつも前向きだけれど、挫折を味わう前にさっさと転身してしまうオルタンスは、
きっと男性には受け入れづらいかもしれないけれど、私はとっても共感。
好きなことだとガンガン頑張って突っ走っちゃう彼女の血液型はきっとB型なんじゃないかと・・・
オルタンスのモデルはダニエル・デルプシュという実在のフランス人女性。
名前は違うけれど、そのあと南極に行ったのも事実で、ほとんど彼女の半生といってもいいかも。
大統領は(映画の中では名前はでてこなかったけれど)↑のあらすじでもミッテラン大統領と言っちゃってます。
それにしては似てないよね~
大統領は最後までオルタンスの味方で、
「最近いじめられてるみたいだね」
「私もだよ」
「逆境は人生の唐辛子」
なんて洒落た言葉で彼女を励ましてくれます。
大統領の鶴の一声でオルタンスを特別扱いしないところも
逆にリアルなストーリー展開だと思います。
気取らない素朴な味で、時短で、節約で、体に良くて・・・・
日本でいったら奥園壽子さんみたいな人だったら、この仕事もっと長続きしたのでしょうが、
味にこだわるミッテラン大統領を満足させられるかな?
オルタンスの去った後、また無駄な装飾だらけの食事に戻ったのか、
食事制限の味気ない料理になったのか、その辺の説明はまったくないです。
あと気になったのは、主厨房の料理人たちのこと。
料理のプロなら、大統領のお気に入りのオルタンスのレシピに興味ある人もいたんでしょうが、
頭の固い上司がいたらそんなこと言い出せないし、辛いですね~きっと・・・
エリゼ宮パートは終始オルタンスの目線で描かれていて、それ以外のことはばっさり省略なんですが、
私のような想像力に欠ける人間でも気になるような「引き出し」をいっぱい作ってくれていて
勝手に想像して楽しめる演出です。
出てくる料理も素材にはこだわるものの、切り分けや盛り付けは豪快で、観ているだけでも幸せになります。
「グルメ映画」(おもに邦画)の強引な豪華料理の演出は私の苦手とするところだったのですが、
その印象を変えるような、美味しくて爽快な作品でした。オススメです。