映画 「マリーゴールドホテルで会いましょう」 平成25年2月1日公開 ★★★☆☆

原作本「マリーゴールドホテルで会いましょう」デボラ・モガー  早川文庫 ★★★★★



読んで♪観て♪

「マリーゴールド・ホテルで、穏やかで心地良い日々を-」という宣伝に魅力を感じ、

イギリスからインドに移住してきたシニア世代の男女7人。

夫を亡くしたイヴリン(ジュディ・デンチ)をはじめ、それぞれに事情を抱える彼らを待ち受けていたのは、

おんぼろホテルと異文化の洗礼だった。

そんな周りの様子を尻目にイヴリンは、街に繰り出しほどなく仕事を見つけ……。(シネマ・トゥデイ)


原作本読みかけ状態で映画を見に行きました。

あれあれ、ずいぶん違いますね。


幸せな老後、というのは、年老いた親をもつ子供にとっては(参考になるならないはともかく)

映画の題材としてはとても興味があります。

やがて来る自分たちのことでもありますしね。


原作では、イギリスに住むインド人の医師が、

どこの介護施設でも下品でエロくて手に負えず、すぐに家に帰される

どうしようもない義理の父ノーマンを入れるために

仲間たちとインドに長期滞在型の施設を作るところから始まります。


そのほかのメンバーもそれぞれの事情やイギリスの子どもたちが登場するんですが、

映画ではすっかりカットされて簡単な自己紹介程度。

たまたまツアーで一緒になった仲間たちの群像劇、というか、ロードムービーのような趣です。

「あいのり」の高齢者バージョンとも言えますね。


「英国風の洗練された眺めの良いテラスと明るい中庭」

「統治時代を思わせる穏やかで快い日々」


こんな宣伝文句に乗っかって集まってきたいろんな事情を抱える高齢者たち。

夫の借金で住む家を失ったイヴリン。

退職後の人生をインドで送ろうとやってきたダグラスとジーン夫妻。

股関節手術を待ち時間なしでやるために来たミュリエル。

異性との出会いが目的なのはノーマンやマッジ。

ある人物を探しにやってきたのは元判事のグレアム。


ところがついたところは「美しいシニア人生」とはかけ離れたおんぼろホテルで

街中も当然ごみごみしてるし、暑いし、何よりも気になるのが衛生状態。

うたい文句と全然違う劣悪な状態は、先進国では「詐欺」と呼ぶのですが、

「最後は万事めでたし。

今はそこへの途上だ」

とちっとも悪びれない、ホテルの若い支配人ソニー。


でも帰るところのない彼らはそこに「慣れる」しかないんですね。

それは6人6様で、高齢ながらPCを使いこなし、初めての職を見つけるイヴィリンや

昔住んでいたから事情通で、地元の少年たちとクリケットに興ずるグレアムなんかは

当地の魅力をすぐに見つけることができるポジティブタイプ。


「インドの素晴らしいのは、光、色、笑顔にあふれ、

生を権利でなく恩恵と思っているところ」


ところが、イギリスでの暮らしが忘れられず、帰ることしか頭にないジーンとか

人種偏見の壁が取り払われないミュリエルとか頭の固い人も当然いるわけで、

「あの状況だったら私は誰の反応に近いかな?」なんて考えながらみんな観てるんでしょうかね?

いくつになっても魅力的な異性を求める人間の性とか、

現地人との触れ合いの中で次第に解かれていくかたくなな心とか、

高齢の観客には共感度大だと思いましたが、

支配人ソニーと恋人との「許されざる恋」を唐突に登場させるのも

数十年前の恋愛事情を再現させて、やっぱり高齢者向けということなのかも。


クレアモントホテル 」も「みんなで一緒に暮らしたら 」もですが、

この手の作品は、ホントに「シニア女性が観て楽しいこと」が最優先で

私たち子供世代には現実的な事情が抜けていてかなり物足りないものになっていますね。

そう思った方はぜひ原作も読んでみてください。(私もまだ途中ですが)


ただ、映画オリジナルのグレアムのエピソードだけは良かったです。

ネタバレになるからあまり言いたくないんですが、

彼は昔ここに住んでいた時のインド人の親友とすごく気まずい別れをしてしまったんですね。

彼は自分を恨んでいるんじゃないかとずっと気になっていて、人探しを始めるわけです。

「彼を終身刑にしたと思っていたのに

牢のなかにいたのはボクのほうだった」

この言葉にはじーんとしました。

こういう決着をつけられるのも、人生の終わりを意識してからこそなんですね。