映画「ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日」 平成25年1月24日公開 ★★★★☆

原作本「パイの物語」 ヤン・マーテル 竹書房 ★★★☆☆


読んで♪観て♪

1976年、インドで動物園を経営するパイの一家はカナダへ移住するため太平洋上を航行中に、

嵐に襲われ船が難破してしまう。

家族の中で唯一生き残ったパイが命からがら乗り込んだ小さな救命ボートには、

シマウマ、ハイエナ、オランウータン、ベンガルトラが乗っていた。

ほどなくシマウマたちが死んでいき、ボートにはパイとベンガルトラだけが残る。

残り少ない非常食、肉親を失った絶望的な状況に加え、空腹のトラがパイの命を狙っていて……。

(シネマ・トゥデイ)


キリン、ナマケモノ、テナガザルにシマウマ、

イボイノシシ、ツキノワグマ、フラミンゴたち

ゾウ、ラクダ、テングザル、シロサイ、フィンチたち・・・


野生の動物たちがのんびり過ごすここはアフリカのサバンナでもジャングルでもなく、

ひょっとして天国の楽園?

動物園の檻もなく、個人の庭さきっぽいんですが・・・

そんなわけないですよね?

違和感満々ながらも、なんか素直に受け入れてしまうオープニング。


ずいぶん前に原作は読んでいましたが、

単行本のほうはジュニアファンタジーのジャンルで、

やわらかいファンタジー心を失ったオバサンには奇想天外の与太話として

話半分で読んでいたので、

アカデミー賞のノミネートのことを聞いていなかったら見ることはなかったでしょう。


とにかく、ベンガルトラとポートで227日漂流するトンデモ話ですから、最初から覚悟して

多少の違和感はスルーしているうちに、すっかり世界に引き込まれてしまいます。


カナダ人のライターが体験談を聞きに、パイのもとを訪ねるところから始まるのは原作と同じ。

本名のピシンの由来やそれがパイとなった理由や

親が動物園を始めたいきさつや家族や初恋のエピソードが延々語られ、

なかなか漂流が始まらないのも原作と同じ。

パイはライターに促され、ようやく語り始めます。


動物園を閉鎖し、家族や動物たちと日本船ツィムツール号でカナダへ向途中大嵐にあい難破します。

命からがら救命ボートに乗ったパイは、シマウマ、ハイエナ、オランウータン、

それにベンガルトラのリチャードパーカーと相乗りすることになり、

最後に残ったのがトラとパイ。

小さなボートの中で救助もなく、トラに常に命を狙われながらの漂流生活。

「一日に5キロの肉を食うパーカーに魚を釣らないと

最後の食事は痩せたボクになる」


救命ボートだからそれなりの食料や工具もあり、

「限られたものでなんか作っていく」というのはこれは楽しめましたが、

なにせトラと一緒です。

いつ食べられるか神に祈りながらの漂流生活。


実はトラから逃れるタイミングはいくらもあったのですが、

ついつい助けて一緒に旅をつづけるんですね。

嵐にあったり、おかしな島に漂流しながら、

メキシコの流れ着き、救助されますが、

トラはあっけなく去ってしまう。

「苦難を共にしたのに振り返りもしなかった」

「悲しいのはさよならもいえずに別れること」

「君は命の恩人。愛しているよパーカー」

ここで初めて心からの痛みを感じるパイ。


1978年、日本から保険の調査員がパイのもとを訪れます。

太平洋で沈んだ日本の貨物船の事故調査なんですが、

彼のにわかには信じられない話に首をかしげます。

「もっと報告書にかけるような話をしてください」


そこで、しかたなく、やや現実的な「もう一つの話」をでっち上げ、

聞き取り調査は終了。


でも結局調査書には

「彼は長い漂流の後奇跡的に生還。

しかもベンガルトラと一緒になしとげた」

という記載が!

日本人たちも最後には「こちらの話」を気に入ったというのが

日本人としてとてもうれしいです。

(救命ボートの日本語表記なんかにもちょっと楽しくなります)


「トラの出てくる話はいい話。神の話でもある」



パイの育ったインドのボンディシェリはインド人居住区、アラビア人居住区があり

西欧人たちも住んでいたから、

クリシュナ神の口の中に宇宙を見いだしながら

アラビア語のリアルな響きの中に神を感じ、

無実の息子キリストに人間の罪を負わせた全能の神に疑問を抱き・・・

パイの育ったコスモポリタンな環境が彼のメンタルを支えたのでしょうし、


「動物の心は目をみればわかると思っても

それはトラの目に映る自分の心を観ただけだ」


トラに近づきすぎたときに父に言われたこの言葉。


そんな前半の伏線が次々に浮かんできて、じわじわと感動が押し寄せてきました。


見かけはアドベンチャー?サバイバル?あるいは幻想的なファンタジーのように思えますけど、

実際は哲学的な精神的なドラマと思ってみるのがいいと思います。

現実的でないところに思わず突っ込んでしまう了見の狭さをちょっと恥ずかしく思いました。

若い人のやわらかい心に大きな影響を与えるストーリーは

大きな映像を与えられてさらにダイナミックに語りかけます