映画 「007 スカイフォール」 平成24年12月1日公開 ★★★★☆



読んで♪観て♪

MI6のエージェントのジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)は、

NATOの諜報(ちょうほう)部員の情報が記録されているハードドライブを強奪した

敵のアジトを特定し、トルコのイスタンブールに降り立つ。

その組織をあと少しのところまで追い詰めるも、同僚のロンソンが傷を負ってしまう。

上司のM(ジュディ・デンチ)からは、敵の追跡を最優先にとの指令が入り、

後から駆け付けたアシスタントエージェントのイヴ(ナオミ・ハリス)と共に、

敵を追跡するボンドだったが……           (シネマ・トゥデイ)


007が誕生して50年。

私が子どものころの記憶では、ボンドは女好きのスケベなおじさん、という印象。

先日DVDで「ロシアより愛をこめて」を観たんですが、

ショーンコネリー若い!

かっこいい!(あの胸毛だけは勘弁ですが)

で、セクシーなボンドガールは、どんなに酷い状況でも、

メイクもドレスもパーフェクトなんですよね。


いい意味でも悪い意味でも「エンタメ」に徹していたこのシリーズは、

大人になってからも、「ミッションインポッシブル」シリーズや「ボーン」シリーズほどには観ようとは思わなかったけれど、

ダニエル・クレイグが演じるアスリート体質のボンドになってからはずっと観ています。


これ、ダニエルになって三作目ですが、

「三部作」というわけでもなく、あんまり前作は引きずっていない感じでした。


極秘の諜報員リストのHDを盗んだ犯人を乗せた黒いアウディを追いかけるボンド。

イスタンブールの街をカーチェイス。

人でごった返すグランドバザールは大混乱。

バイクで階段登っちゃうし、

アシスタントの女性エージェントは素手でフロントガラス叩き割るし、

人ごみの中で車は横転するしで、大迷惑、大損害・・・・

でもまあ、映画ばっかり観てるとこの程度は慣れっこですかね。


さて、お次は舞台を列車の屋根に移して、お決まりの格闘シーンですが、

そのうち積み荷のショベルカーまで操作しての大乱闘。

驚いたのはこれ貨物列車じゃなくて、普通に乗客も乗ってるんですね。

屋根の上が大変なことになってるのに緊急停止もせずに走り続け、

屋根が吹っ飛んでやっと驚いてる・・・このノー天気さ、好きだなあ。

「手に汗握る」という範囲を超えて、

なんかもう「おバカ映画」モードになって、ちょっと脱力しちゃいました。


組み合う二人のうちの敵を狙撃しようとする女性エージェント。

無理だと報告する彼女にインカムから「M」の冷酷な支持が。

「(ボンドにあたってもかまわない)撃ちなさい」

果たして、銃弾はボンドに命中し、彼は崖を落ちて海の底へ・・・

「007落下」


ここでタイトルロール。

アデルの歌う主題歌が流れます。

始まったばかりなのに、まるでボンドの追悼ドラマみたい。

普通は主人公が行方不明になった時点で

「次回へつづく」となるのに、

もう冒頭からこれですよ。

ボンドが死んでたら本作は成立しないので、

まあどこかで生きてるんだろうとは思いつつ・・・


結局HDは見つからず、責任を問われ、退職勧告される「M」

おまけにWI6はサイバーテロにあい、建物も爆破されて、もうどん底状態。


場面変わって、どこかの国で美女とのんびり過ごしてるボンド。

そしてニュースで元職場の危機をしり、ロンドンへと戻るのです。


じゃーん!007復活。


というお決まりのパターンですが、

驚いたのは「M」の第一声。

「電話してから来なさいよ」

「戻りたければ、まず帰任報告して、能力テストを受けなさい」

「あなたのアパートはもう売りました、私物は倉庫の中」

「それがルールだからね」


なんという言い草!

しかも狙撃命令を出していながら、一言も謝らないし。


ダブルオー要員への復帰テストの点数は、けっこう情けなく、

射撃はまったく当たらず、筋力も衰えていて、あらあら・・・という状態。

狙撃を受けた右肩の筋肉の損傷のためでしょうけど、

ちょっと中年ボンドの悲哀を感じてしまいました。


この調子でストーリーを書いていると長くなるので、

あとは、登場人物についてだけ書きます。


今回うーんと若返った武器開発係の「Q」役は

なんと「パフューム」のベン・ウィショーです。

「ソフトな変態」みたいな役が多かった彼がメガネかけて、メカニック担当なんて

ちょっと驚いたんですが、これがとっても適役!

「PCがあれば諜報部員に勝てる」

「パジャマで紅茶飲みながらでも楽勝」

とかエラそうなのに、上司に逆らって目をつけられたくない、とか、

ボンドの対局にある人物ですが、

なんやかんやいいながらも協力的で、嫌味な人物じゃないのがよかった。


一応今回のボンドガールの位置にあるのが

悪役軍団に出入りしてる娼婦のセヴリン。

美人なんですけど、なんか出番はあっという間に終わって

かなり気の毒な役ですね。


そして今回の悪の権化は、ハビエル・バルデム演じるシルヴァで、

彼は「M」への個人的恨みだけで、執拗なサイバーテロを行うサイコパスです。

ハビエルは「ディープな変態」をやらせたら超一流なので、

この陰湿な役、はまっていました。

毛深い典型的ラテンの彼が金髪にそめて、うんと痩せて、誰?って感じですよね。

こんなエンタメ映画にそこまで・・・と思ってしまいましたが、

彼と「M」のジュディ・デンチの二人のオスカー俳優の濃厚な演技が

かつての「007映画」とは格段に深いドラマを演出してくれました。


「M」とその組織を守るために命を投げ出したのに、あっさり見捨てられてしまった・・・

自殺するために奥歯に仕込まれた毒薬カプセルでも死にきれずに、

さらなる苦しみを与えられた・・・

その「シアン化水素の残虐さ」

CGと特殊メイクで、インパクトある画像が一瞬出てきます。

恐っ!!


「M」のことを「ひどいママ!」というシルヴァ。

愛してほしかったのに裏切られたというのは憎さも倍増。

でも彼は久しぶりに会った「M」の姿に驚きます。

「そんなに小柄だったのか!」

彼の中で描いたイメージとのギャップはどんなにか大きかったでしょう。


一方のボンドだって、「M」に切り捨てられた部下なのに、

「くそばばぁ」といいながらも、特別恨みに思っていないのは対照的ですね。

クレイグ ボンドはかなりあっさりした性格のようです。


エンタメに徹していたかつての007シリーズからすると、

今回のはテニソンの詩を引用したり、ネズミの逸話を引用したり

多少「理屈っぽい」印象も。

私はけっしていやではないのだけれど。

ネズミの逸話、思い出せる範囲で書くと・・・・


・大量発生したネズミを退治するために

 ココナッツのわなで缶に集め、すぐに殺さず放っておく。

・ネズミたちは共食いをはじめ、2匹のネズミが生き残る。

・その2匹も殺すことはしないで、森に逃がす。

・なぜなら、その2匹はもうココナツは食わず、ネズミしか食わない。

・最後の2匹はネズミとしての本性を変えられてしまったのだ。



酒と女性を愛し、かっこいいアクションと秘密兵器で

敵を気持ちよくやっつける・・・・

こういう映画ではなかったから、評価は割れるでしょうね、


認証機能付きワルサーとかアストン・マーチンから銃が出てきたり・・・

というのはありましたけど、

私は「最新の秘密兵器」よりむしろ、なんにもない古い屋敷で、

ありあわせの材料で手作り兵器をつくるシーンに興奮しましたね。


ボンドガールも今回は存在感薄かったですが、

「ボンドの腕の中で息をひきとる」というポイント高い死に方をした

「あのお方」が今回の実質のボンドガールだったんじゃないかと思いました。


そこそこ見ごたえもあり、残虐なシーンもHなシーンも控え目なので、

今公開している中では、一番「お正月映画」らしい作品ではないかと思います。