映画 「黄金を抱いて翔べ」 平成24年11月3日公開 ★★★★☆

原作本 「黄金を抱いて翔べ」 高村薫 新潮社 


読んで♪観て♪


幸田は大学時代の友人、北川から大阪市の住田銀行本店地下にあるという

240億円相当の金塊強奪計画を持ちかけられる。

メンバーは他にSEの野田、爆破工作のエキスパートで国家スパイの裏を持つモモ、

北川の弟・春樹、元エレベーター技師のじいちゃん。

しかし、計画の過程で謎の事件が次々と発生。

そこにはお互い知らない、それぞれの過去が複雑に絡み合っていた。

そしてついに決行の日、「黄金」に全てを賭けた男たちの運命は…。(GOO映画)



高村薫さんといえば、女性とは思えない骨太のミステリーをたくさん書かれていますが、

これは20年以上前のデビュー作。

もしかして読んでる?と思いながら観たのですが、残念ながら未読だったようです。


240億の金塊強奪って、かつて日本映画であったでしょうか?


「銀行強盗」だったら「シュアリー・サムデイ 」とか「陽気なギャングが地球を回す」とか。

ザ・タウン 」とか「アーマード武装地帯 」とか洋画だとそれこそ数知れず。


一生懸命思い出してみたんですが、「金庫破りの映画」って最近ではほんとに少ないです。

洋画でもわずかに「オーシャンズ11」とか「バンクジョブ 」とかコメディ要素含み、です。


「銀行強盗」と「金庫破り」では似て非なるもの。

銀行にたてこもって人質とったり、現金輸送車を襲撃したりするのは映像映えしますけど

金庫破りって金額は大きくても「泥棒」ですからね。


金庫破り、しかも20年も前の小説を今更映画化ですか?

手口だって警備システムだってずいぶん変わってるでしょうし、

井筒監督何を考えてるんだか・・・?

と思ってしまいましたが、

なかなか豪放な国産ノワール映画に仕上がっていました。


舞台は大阪。

昭和の雰囲気を残す下町のごったな喧噪感たっぷりのロケーション。

人と人の距離が近くて、

強奪メンバーのひそひそ話にいちいち突っ込みを入れる

大阪のおばちゃんたち、最高!


「この下に何億もの延べ棒が眠ってるんだぜ」

という銀行ロビーでの会話にも

「え、あんた、それホンマなの?」

といきなり振り返って返してくれる前の席のおばちゃん。

まずい電話に言葉を失っていると

「今のズワイガニの押し売りやろ?

もうそんな季節になったんやね~」

と季節感強調の事務のおばちゃん。


たこやき・・酒饅頭・・ばってら・・

冷コー(アイスコーヒー)・・551蓬莱の豚まん・・

いちいち食べ物が大阪っぽい。

飴くれるおばちゃんはいなかったけれど、

退職祝いのプレゼントにミカン2個追加してくれるセンスが大阪的なんですけど。


私は東京生まれなので、

どちらかというと、他人をほっといてくれる東京式が好きなんですが、

悪人ばかりでてくる犯罪ドラマに、大阪人のやさしさは心に沁みますね。

大阪に出てきて初めての職場。

不愛想にしている主人公に

「めいっぱい汗かいたら、そのほうが

ビールがうまいで」

という大阪のおじちゃんの温かさ。

原作通りなのか演出なのかわかりませんけど、

人間臭くていいな~と思います。



犯罪グループの面々は、

首謀者の北川(浅野忠信)

調達屋の幸田(妻夫木聡)

銀行担当のSEの野田(桐谷健太)

元エレベーター技師の斉藤(西田敏行)

北川の弟春樹(溝端淳平)

そして爆発物担当のモモ(チャンミン)

という寄せ集めメンバー。


オーシャンズなんかに比べたらひけをとりますが、

北川がなにげに武闘派だったり

幸田がけっこう根性あったりで、

難攻不落の日本のメガバンク襲撃を目指すわけです。


奪おうとするのが札束じゃなくて金塊というのがまた

ルパンみたいでいかにも「盗賊」って感じ!

失敗する可能性がかなり高いんですが

「最高の汗かこうぜ~!」

っていうノリで、いかにもエンタメ的に始まるんですが、

日本の銀行の地下金庫の鉄壁さにてこずることになります。


ただね、これあくまでも20年以上前の仕様なんですよ。

今のセキュリティシステムはこんなもんじゃないですよね。

ただ映画の時代設定は「平成」のようで、

携帯も(スマホではなかったけれど)使われていたし、

映画館では「エクスペンダブルズ」をたしかやっていたように思います。


でも「犯行手口」はあくまでも原作尊重のようで、

ダイナマイトを大量に盗み、

変電所を爆破して周囲全域を停電にしたり

機械室に潜り込んでシステムをストップさせたり、

やってることがいちいちアナログな力技ですね。

仲間との連絡も電話だったり秒単位で時間を打ち合わせたり、

今の時代だったら(よくわからないけど)

もっとスマートにいろんな設定ができてもよさそうな気もします。

元過激派の人たちだって、平成の今だったらもうとっくに老人ですよね。


ただこれを昭和の設定にしてしまうと、

古い車両や家電とか集めなきゃつじつまが合わなくなるし、

そういう事情もあるのかもしれませんけど、

全体に流れる「なんとなく古臭い感じ」けっこう好きです。


キャストの面々は「豪華キャスティング」とまでは言えないけれど

個性派ぞろいで持ち味が出ていたと思います。

妻夫木クンは相変わらず今回も難しい役に挑戦ですね。

溝端クンも初めて見るバイオレンスな役、ナイスチャレンジです。

こういうのにつきものの「紅一点」役はチャンミンで納得。

田口トモロヲやでんでんなどの脇役もいい仕事ぶりでした。


銀行襲撃なんて、絶対にやってはいけない、絶対に成功してはいけない犯罪ですが、

重い扉や監視装置などのハードよりむしろ、

警備員や警察官が任務に忠実なことが一番のセキュリティ、という気がしました。

外国のドラマだと、金で寝返る警備員とか、悪徳警察官とか必ず出てきますからね~

そういう人たちが、たとえ非力であっても、きちんと仕事をしてるのは

国産ドラマとしてリアリティあるし、なんだかほっとしました。


タイトルからも、このドラマは「犯人たちが金塊を手にまんまと高跳びできるか?」

って話なんですが、

ある人の過去が明かされてびっくり・・・

っていう衝撃のほうが大きくて、

しかも伏線とかかなり甘いし、

ミステリーとしてはどうしたものかと思うんですが

原作はどうなのか?

気になりつつも、これはこれで満足のいく作品になっていました。