映画「おかえり はやぶさ」 平成24年4月28日公開 ★★★☆☆
「小惑星イトカワのカケラを拾って地球に持ち帰る」という、
成功すれば人類初の快挙となるミッションを帯び、
2003年5月9日、探査機「はやぶさ」は打ち上げられた。
エンジニア助手の大橋健人は、
火星探査機「のぞみ」のプロジェクトマネージャーだった父への思いを胸に、
壮大なプロジェクトチームの一員として奔走する毎日を送っていた。
2005年11月。「はやぶさ」はイトカワの近くに到達するが、
数々の困難が待ち構えていた…。 (GOO映画)
小惑星探査機「はやぶさ」の帰還という嬉しいニュースを受けて、たくさんの映画が公開されました。
大手の実写映画だけで(公開順に)
①「はやぶさ/HAYABUSA」 (竹内結子・西田敏行ほか 20世紀フォックス)
②「はやぶさ遥かなる帰還」(渡辺謙・夏川結衣ほか 東映)
③「おかえり、はやぶさ」 (藤原竜也・杏ほか 松竹)
私は②だけ劇場で観ました。
3本を見比べる、なんていう人あまりいないでしょうが、
今回③をDVDで見て、同じ素材でもアプローチの仕方でずいぶん違うものかと。
当然のことですけれど、興味をもちました。
ドキュメンタリーではないので、3作とも架空の人物が出てきますし、
主要メンバーもすべて仮名です。
プロジェクトマネージャーの川口淳一郎氏と思われる人物は今回(③)大杉漣が演じますが
失敗に終わった火星探査機「のぞみ」のプロジェクトマネージャー大橋教授親子が
むしろ主人公ともいえます。
もしドキュメンタリーなら、おそらく川口さんが主役になるんでしょうが、
こういう大きなプロジェクトで成果を上げるのは個人の手柄ではなく、
劇場映画ではあえて架空の人物の視点でストーリーを作っていくんでしょうね。
②のときは、朝日新聞社とかNECとか実名が頻繁にでてきて、そういう意味ではリアル感あったんですが、
③は国に予算を付けてもらえるよう交渉するところとかも意外とあっさりで、
「大人の事情」的な部分は少なかったように思います。
しいて言えば「子供向け」かもしれないです。
②に出てくる小学生たちのセリフは
「すげぇ~!」だけで、
まあそう思うことが興味を持つきっかけなんでしょうが、
③ではJAXA職員を父に持つ風也(まえだまえだ弟)をはじめ、宇宙オタクの小学生たちが
子どもとは思えない知識をもっていて・・・という設定。
宇宙開発のプロジェクトって想像以上の長期間だから、
JAXAでは数多くのプロジェクトが同時進行しているわけで、
私は前回②を見た時にJAXAのサイトをみて驚いたのですが、
のぞみ→失敗 はやぶさ→成功
とは単純には言えないんですね。
傍観者の私たちは無責任な新聞報道などを丸呑みして
「膨大な国家予算を無駄にした」とか
「のぞみは宇宙のごみとなった」とか思っていたけれど
このときの経験が「はやぶさ」に生かされたのは間違いないし、
誰に責任があるわけでもない。
それでもプロジェクトマネージャーの大橋教授(三浦友和)にしてみたら
ゴミとまでいわれたのぞみに費やした自分の人生って何?って思ってしまいます。
この映画の何分の一かは彼が失意から立ち直る再生の物語からできています。
「失敗は失敗。反省しつつ次に挑戦!」
文字にすると簡単ですが、こう思えるまで人はどれだけ傷つき苦しむのでしょう。
「1ビット通信」とか「中和器とスラスタのクロス運転」とか「太陽光圧による姿勢制御」とか、
完璧に理解できないまでもすごく興奮できる専門用語は②の時と同じ。
3Dの迫力映像を見る以上に、パソコン画面のグラフの向きが
ピ! って変わった時の興奮ったらないです。
JAXA対外協力室長が予算の交渉をし、広報官のような役割を担うのですが
彼が会見の中の
「今回の成功の原因のひとつは、適度な貧乏」
「NASAの十分の一の予算しかないから、外部に丸投げできず、
全員が設計の隅々までしっているから、起死回生のアイディアをすぐに生かせた」
というようなセリフが印象的でした。
JAXAの予算の少なさは驚くほどで、②では内之浦宇宙空間観測所の建屋のぼろさとか
NASAの職員に「ぼろをまとったマリリン・モンロー」とか言われていましたが、
③ではあまり貧乏くさいシーンがなかったのは、子供たちの夢を壊さないように?でしょうか。
「宇宙開発の仕事につくきっかけ」を語るシーンもでてきますが、
(中高年の私には無関心で内容も忘れてしまったのですが)
子供たちの心には残るんじゃないかと思います。
(役名忘れましたが)杏は若き理学博士、藤原竜也(大橋教授の息子)は工学専門なんですが
「夢を見るのが理学系、かなえるのが工学系」
ということばは(理学と工学の違いもわかってない私にとって)
一番印象的でした。
たくさんの人の知恵を思いが夢のプロジェクトをかなえるんですね~
今も「あかつき」「すざく」「あけぼの」「ひので」など運用中のものも多く、
本編に出てきた「イカロス」は金星探査機だとおもったんですが、
太陽光を受けて進む「宇宙ヨット」だったんですね。(→こちら )
JAXAやISASのサイトをみると、簡単には成果の出ない宇宙開発技術、
はやぶさ以前の日本の科学者たちの長い道のりを知って映画以上の感動でした。
最近「夢」ということばの安売りで毎日耳にしますけど、「夢」にはとてつもなく長い時間を覚悟して
そしてその実現のためにかかるお金だって確保しなくてはいけない。
今の政権にそれだけの余裕があるのかな?
とすると、民間に頑張ってもらうしかないのか?
②にも③にも登場したNECのイオンエンジン開発者はもちろん実在の人物で堀内康男さんといいます。
NECのサイトもわかりやすいのでご覧ください(→こちら )
ついでに②「はやぶさ 遥かなる帰還」の私の感想も貼っておきます(→こちら )
結論から言うと、③「おかえり、はやぶさ」は②に比べたら、
内容が易しいというわけではないのですが、これから将来のある小中学生向き、
という印象です。
そうなると、ぜひとも①「はやぶさ/HAYABUSA」も見てみたくなりました。